確保!
捕まったのち…
「でっかぁ…」
手に縄をかけられながらひと際でかい屋敷に連れてこられた。
兵士いわく、ここの領主が俺の罪を裁くとのこと。
自分の夢の中で罪に問われるとは何とも嫌な夢である。
「こっちだ!」
外の兵士と話しが終わり、縄を引かれ屋敷の中に入る。
「おぉ!!」
中はきらびやかな装飾や大きな絵画などで飾られており、そのどれもが新鮮で正直テンションが上がる。
屋敷内を警備する兵士や働く使用人なんかも創作物でしか普通見れないのでつい色々ガン見してしまう。
(ん?あれは地図…かな?にしては大きい地図に島が一つに周りが海だけってすげぇシンプルだな…)
あんまり見るな!と兵士に叱られながら中央の階段を上り大広間に通された。
中には兵士が数名と、片側10人くらい座れそうな長いテーブルの先に有るひと際豪華な椅子に70歳くらいのおじいちゃんが座っていた。
「失礼いたします!犯人を連れてまいりました!」
「ご苦労」
(この人が領主か…。渋めの声に落ち着いた雰囲気…かっこいい…)
「して、報告によると店の品物を堂々と食い逃げしたと聞いておるが間違いないか?」
隣の兵士に聞いていると思いシカトしてたら肘うちされた。
「いっ!は、はい!えっと…一応そういうことになります!」
俺に聞いてるなら最初にそう言ってくれよ…!
「捕まった際、自分の夢なのだから何をしても許されるといった話をしたとの報告もあるがこれも間違いないか?」
こいつマジか?何言ってんの?という皆の視線が痛い…。
いや事実だし!と反論するのは簡単だが、自由が利かない以上どうしたものか…。
いつ起きれるかもわからないし、夢の中でこの後ずっと捕まっているのだけは出来れば避けたい…。
「えっと…ですね、夢の中というのはですね…えーそう!寝ぼけていてそう言ってしまったという事でして、決して本気で言ったわけではなくてですね…!」
「特に何も起きはしなかったが攻撃の意思もあったと聞いておるが?それも寝ぼけていたと?」
「そ、そうです!何も起きなかったという事は何かできると勘違いしていたという事ですよね?即ち自分の夢の中と勘違いをしてて…っ!」
急に鋭い眼光で睨まれて言葉が出なかった。
「そんな言い訳が通用すると本当に思っているのか?」
「で、ですよね~」
別の言い訳にシフトするしかない!と必死に頭を巡らすも考えがまとまらない。
「他にも気になる事がある、その服装だ。汚れ一つない上に、見慣れぬ装飾、見事な縫製技術…。貴様どこから来た。」
いぶかしげにこちらを見ながらそう尋ねてくる。
ジャージにロンTだし、そりゃ「現実です!」って言いたいけど、言ったところでまたやばい奴って思われるし…。
あ…そういえば、さっき見た”あれ”ワンチャン使えないかな…?
なら、そこまでのルートを…。
「えー、はい。実は私、遥か遠い国から来ておりまして、我が国ではああいった陳列の横に試食用の果実が置いてあり、そちらと勘違いをしてしまい手を出してしまったという訳でございます…」
「ほう。ではなぜ逃げた。こうして会話が出来ている以上言葉がわからなかったなどとは言うまいな」
痛いところをついてくるな…。
「えぇはい…。本日到着したばかりの慣れない土地で疲労と眠気でぼーっとしていた所いきなり問い詰められ、加えて兵士まで近寄って来ましたので、気が動転してしまい逃げてしまった次第でございます…」
少し考えているようだった。
嘘に真実を混ぜるとリアリティが増してそうかもしれないと思わせることが出来ると何かで聞いたが本当らしい。
少しずつ話に信憑性を持たせていく。
「では、先ほどの話はなんだ?今の話が真実なのであればその場でそう話せばよかったであろう?」
それは周りの視線が痛いから聞かないでほしい…。
「はい、ごもっともでございます…。旅疲れによる認識力の低下もあり、何とも現実味が無く混乱してそう話してしまった次第でして…。先ほどご質問いただいた際にお話しできればよかったのですが、こういった場で緊張と言いますか…頭が働かずあのような妄言を吐いてしまいました…。本当に申し訳ございません。」
「ふむ…」
結構無理やりな路線変更だし、こちらを信用はしてはいないがこの服がこの辺の物では無いってことに気づいてしまったがばかりに全部を嘘だとは言えないみたいだった。
だがもう少し…。
「遠い国と言っておったが何処から来たのだ?そのような服、芸術の盛んな南の国ですら見たことはないぞ」
来た、この質問!
「えー、海にある小さな島国でございます」
そう言った途端に部屋中が何やらざわつき始めた。
ありえない、信じられないといった面持ちでこちらを見てくる。
だが、推測が正しければ恐らくこれで…。
「あの海の向こうに国が…?しかも海を渡れる程の船を作ることが出来る高度な造船技術があるだと…!?バカな!?」
領主の動揺に周りも動揺している。
やはりそうか。〈この世界〉というより、恐らく〈この大陸〉のだが、船という概念はあるが造船技術が未熟であり海を渡ることは出来ないらしい。
さっきの地図に書かれているのが島一つだったのを見て思いついたブラフだったけど、間違ってはいないみたいだ。
真否の確認が出来ない以上これで相手は慎重にならざるを得ない。
「いやしかし、全ての国を渡り歩いた儂があの様な服は見た事も無い…だとすれば…」
すごいうなっている。
完全に信用されなくとも、完全に否定されなければ同じこと。
「ベールタ入ってこい!」
部屋の外から入ってきた執事風の人とこそこそと話を始めてしまった。
この人はきっと知識も豊富で賢いのだろう、それ故にこの話を無視できなくなってしまっている。
そしてそんな人ならきっと、今後行われるかもしれない未知なる国との外交関係などについても考えているに違いない。
ならばほんのもう一押し…。
「勘違いとはいえしてしまったことは事実でございます…。ですので、出来れば何かしらで償いをする機会を与えていただけないでしょうか…!」
領主のさっきの反応的に未知の技術、未知の文化を持つ謎の国との関係を悪くしない為にも大事にはしたくないはず。
であればこの提案で軽くとも何か罰を課せばこの人の体裁も守れてウィンウィンなのだが…。
頼む、乗っかって来てくれ…!
「う、うむ。海を渡ってきたという話は急すぎる故まだいささか信じられぬが、遠くから来たと言う話はその身なりから恐らく本当であろう。であれば文化の違いが故に勘違いをしたという話も信用してよいやもしれぬ。がしかし罪は罪、やった事の罰を受けてもらう必要はある」
よし!
「で、そこでだ。今は食事時でもある。この屋敷の厨房で自国の料理を作り儂を楽しませるというのをそなたの罰とするがよろしいな?」
なるほど、知らない料理なら特に正解もないし、最悪食っても食わなくても適当にリアクション取っておけば成立するってわけか。
「かしこまりました。では腕によりをかけて作らせて頂きます!」
次回ご飯作ります