はじまりの日
「私が今何て思ってるかわかる?」
理由もわからず少しずつ離れていった彼女にそれでも好きだと気持ちを伝えた際、彼女は冷たくそう聞いた。
「こいつ何言ってんの?とか?」
不安な心を押さえつけつつ軽い口調で返すも空気は重いままだった。
電話の向こうで息を吸う音が聞こえる。
「恐怖です。」
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またこの夢。
最近は見る回数も減ってただけに油断していた。
(しんど…)
今日も無事に起きているだけで凹むのに、朝一からテンションだだ下がり。
「はあぁ……」と地獄の底から出たようなため息をつきながら、とりあえず朝のルーティンのスマホゲームをつける。
まぁいつもの事っちゃいつもの事で、これまたいつもの通りあの時の事がいろいろとフラッシュバックする。
彼女の一言を聞いて頭が真っ白になった。
ホント何を言われているのかわからず、全く思考が追い付かなかったのだ。
はっ!と我に返り何か言い返そうとしたときにはもう電話は切れていた…。
その夜、こんな終わり方をするのか…と凹んで横になっていると共通の友達からの連絡でSNSのスクショが送られてきた。
「怖い怖い!私そのうち刺されるかも…」とのつぶやきとそれに対しての共通の知人、友人の返信。
心配する声や、ぶっ飛ばす!とかほざく知らん奴の返信まであり、これまた言葉が出なかった。
とりあえず、立派なストーカーが出来上がり、友達も失ったということはすぐにわかった。
それからは酷いもんだった。
おかげさまで女性恐怖症になるわ、他人の視線が怖くなるわ、電車を待ってると線路に吸い込まれそうになるわ…etc.
知人のいわれのない陰口は当たり前で、極めつけはその状況で何事もなかったかのように、誕生日等に平気で連絡を送ってくる神経!!
「てめぇストーカー扱いした男にどうして送ってこれんだよ!こちとらてめぇからの連絡が来るたび心臓止まりそうになんだよ!!」
と心の中でキレはするものの本人には言えず、オレは防衛手段としてそっとブロックすることにした。
でも、そんな状況も一年もたてば少しは慣れるもので、職場で出来た新しい友達のおかげもあってか女性とも会話出来るようになっていたし、気付いたら死のうとしてたなんてことも無くなっていた。
それでもいろいろ思い出して吐きそうになったり、怒りに震えたり、鬱になったりっていうのはまだあったので、なるべく思い出さないように引っ越しはさせてもらった。
さすがに思い出が多すぎるもんで…。
とまぁその後数年もいろいろあり、現在に至る。
坂本 明来 27歳 ひと月前に仕事を辞め実家に帰省し現在無職
趣味はゲーム・漫画・アニメ、映画・音楽鑑賞、筋トレ、料理 特技は右ストレート
6年前の一件で回復に時間を費やしたおかげでチャンスを失い夢破れ、特にやる気も起きず惰性で生きてる残念アラサー
それが現在の俺である。
「あっ…」
ぐぅ~なんてかわいい音では無いが腹が鳴った。
何もしてなくても腹は減るんだよな…なんて考えると少し凹むが、仕方がないのでスマホ片手に2階の自室から降りることにする。
1階に降りると既に誰もいなかった。
まぁ昼過ぎだし仕事しているわけだから当たり前なんだけどね。
とりあえず冷蔵庫を漁る。
今朝母さんが作った弁当の残りがあったので、それを細かく切り、冷凍保存してある白米で簡単にチャーハンを作る。
フライパンに少し多めの油を入れ、熱し、卵投入。
軽くかき混ぜたら素早く米も投入し、ヘラで切るようにほぐしながら油をなじませパラパラにしていく。
卵と油が米に馴染んだら、ここで細かく切った弁当の残りを入れ、手早く合わせていく。
軽く水分を飛ばしいい感じになったら、真ん中を空け、フライパンに直接チューブニンニクと醤油を入れてこれまた手早く合わせていく。
そして最後に塩、コショウで味を調えて完成。
洗い物を増やしたくないので皿は用意せず、スプーン、鍋敷き用意からの直食いをかましながら居間でスマホをいじる。
SNSで最近のニュースを確認する。
「車の事故多すぎだろ…」
最近毎日のように新しい事故が起き、最悪人が亡くなっている。
現状何もせず、ただ人に迷惑かけて、何も成さず、何にもなれない俺が生きてて、たった数年しか生きてない小さい子供が被害に合うのはさすがに心が痛む。
出来ることなら変わってやりたいとすら思うが、それが出来ないのが現実。
「やるせねぇよな…」
少しブルーになりながらも片付けまで済ませ自室へ戻る。
やるべき事はあるが何もやることがないのでとりあえずベッドに腰掛ける。
こう何もせずぼーっとしてると、今朝の夢とか職探ししなきゃとか家族の小言とかを思い出してまたブルーになるので、他の事を考えないようにゲームでもして夜まで時間をつぶすことにする。
全く自覚はなかったが、ふと時間を確認するとすでに23時を回っていた。
また時間溶かしたわ~とか自嘲気味に思いつつシャワーを浴びに行き寝る準備に入る。
飯を食いそびれてしまったが、電気を消し布団に入る。
はぁ…また何もせずに1日が終わる。
これを何も思わないわけじゃない。
本当は現状を、自分を変えたい!変わりたい!と心から思っている。
なのにいざ何か行動しようとすると心がすくんでしまい行動出来ないでいる。
何かキッカケを待ってしまっている…。
そんな来るかもわからないモノを待っている時点でダメなのかもしれないけど、それでもキッカケが…何か大きなキッカケがあれば!
そう、空から女の子が!的な!……ダメだ、完全に頭が回ってないもう寝よう。
今日はもう仕方ないから明日頑張ろう!でもってもしキッカケが来たら掴み取るどころかハグしてやんよ!
と空元気を出したところで強い眠気が来た。
薄れていく意識の中で、ふと今日見たSNSのつぶやきを思い出していた。
たしか生まれてからちょうど10000日目がどうこうというもの。
(オレの10000日目っていつなんだろ…?まぁ明日覚えてたら調べよ…)
完全に寝落ちる前に近づいてくるサイレンの音を耳にした気がしたが、俺は気にせずそのまま眠りについた。
「もう朝…?」
時間を確認しようとスマホを手探りで探していると、何やらいつも以上に外が騒がしい。
人の声や物を動かすような音に聞きなれない音の数々。
しかもやけにまぶしい上に床がとても固いそして体が痛い。
(ベッドから落ちるとか初だわ…てかカーテンあけっぱで寝たっけ?)
起き抜けで光に目が慣れず全然目を開けることが出来ないが、カーテンを閉めるために光のほうへ歩いていく。
もう少しで触れるはず!と思い慣れてきた目を少しずつ開きながら手を伸ばすと指に触れる風と共に、ありえない景色が飛び込んできた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ????????」
目の前に広がる見慣れない服装の人々に見慣れない建物。
(いやいやいやいや、ゲームやアニメではよく見るけどさ!これって…!!)
これはもうどう考えてもというやつ。
そう、いわゆる“異世界”と言われる光景だ。
初めまして。タカヤナギと申します。
書くのは初めてなので至らない点あるかと思いますが、いいものが書けるよう頑張ります。