表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

17 マヌケな自衛隊員が異世界へ落ちた場合。

そろそろ別勢力のお話~~。

 


  昼日中、人気の無い山中の獣道を男が一人歩いていた。

 襤褸を纏い笠を深く被っていてその表情は窺い知れない。


 其処に革鎧を纏った五人の男達が手に手に武器を取って追い縋り笠の男の周りを囲んだ。

 

「軍師殿、どちらにに行かれる?」


「ああ、小便だ」


「ほう? にしてはえらく遠出をされるのですな?」



「そうだな、たまには大自然の中でぶっぱなしたくならんか?」


「お戯れを。戻って頂きます、さぁ」


「嫌だと言ったら?」


「腕ずくで」


「無理な場合は殺せか、えらく見込まれたなぁ!?」

 吹き上がる男達の殺気に、まるで森林を纏ったかのような襤褸を着た男が反応する。


 襤褸の男は右腕を踊らせ、鉄の筒を取りだし二発、発砲(・・)した。


 現代の人間ならばその筒をこう呼ぶだろう。


 拳銃と。


 そしてより詳しい人間ならこう呼ぶ。

 シグ/ザウエルP220と。


 それは日本国陸上自衛隊の制式拳銃であった。


 二発発射し二発ともリーダー格の男の頭部に命中し、頭はザクロの様にハジケた。


 思わずその様子を眺め見て追跡者の動きが驚きで一瞬止まる。


 一体如何なる魔術が行使されたのか。

 だが、それでも正規の軍人。すぐさま立ち直り襤褸の男に切りかかる。


 しかし襤褸の男の動きは迅速だった。

 続けて左隣の男を撃ち倒し前進する。


 追跡者はだいたいが右利きで右手に片手剣を持っている。左に逃げればその斬撃はワンテンポ挙動が遅れる。


 残り三人が殺到しようとして二人が倒れた。

 襤褸の男の死角になっていた男達だ。

 盆の窪に鋭利な刃物が棒手裏剣が突き立っている。


 最後に残っていたのは襤褸の男の右手側にいた人物だ。故に見てしまう。

 見てしまった。自分の左側で新たに倒れる仲間たちを。


 もし、見なければ何も考えずに切りかかれただろう。


 現状の把握。リアルな戦場で一番重視される要素、それこそが敗北に繋がるのは皮肉だろうか。


 ほんの僅かな躊躇。


 そこに男の腹に剣が“飛ぶ”。


 襤褸の男が二度目に射殺した、左手側にいた男の剣を拾い投げたのだ。

 剣は狙い違わず命中するが男の丈夫な革鎧を貫くまでには至らない。それでもかなりの衝撃で男の息が詰まった。だが、まだ走れた。一歩、二歩。しかし目標に辿り着くには、或いは死神から逃れるにはあまりに足りない一歩だった。


 死神の吐息が彼の喉にふうとかかり、頸動脈と気管を切り裂かれ、壊れた人形のように踊り倒れ地上で溺れのたうつ。


「……」襤褸の男が見かねて剣を拾い止めを刺した。

 同じように全員に止めを刺して伏兵の有無を確認した後に二秒だけ、手を合わせて瞑目する。


「助かったよミカヅキ」

 全てを終えて襤褸の男は現れた少女に言葉をかけた。

 小柄でスレンダーな少女は昼なのに黒の長袖、長ズボンにロングブーツの色気も何もないアサルトスーツ然とした格好で実に殺伐としたスタイルだ。


 二三ならそのニンジャの様な姿に「サツバツ!!」と喜んだかもしれない。


 そんな黒髪おかっぱケモミミ猫ガールだった。


 ミカヅキと呼ばれた獣耳少女は嬉しそうに

(あるじ)~~」


 と言って軽く手を振り構って欲しそうに男に近付き誉めろ!!。と言わんばかりに小さな頭を差し出す。さながら鼠を取って枕元に並べてドヤ顔する仔猫のよう。


 男は小さく嘆息すると何かを諦めたような顔で黒髪おかっぱケモミミ、ミカヅキの頭を撫でた。


 ピコピコと小刻みに動く猫耳が可愛らしい。

ちょっとだけ誘惑に負けて猫耳も撫でてしまった。


「♪」

 ミカヅキは嬉しそうに目を細めて主人の男性の大きな手による愛撫を堪能していた。


 ミシリ。


 己の小さな頭蓋が軋むその時までは。


「イタッ、主よ、痛い、そうじゃない。もっと優しく!?」愛を込めて……と続いたのだが、彼女の主はさせなかった。


 代わりに込めたのは握力だった。


「ミカヅキ正直に言え。コイツらを近付けたのはオマエだな?」


「な、な、な、何を仰る!! 私は決してそのような……」駄ネコは目を泳がせた。


「嫌いになるぞ」

 既に苦手なんだがなぁ。と思っているが男は口には出さなかった。ミカヅキが怒るので。


「ごめんなさい」ミカヅキはしゅんと萎れた。


「素直でよろしい。大体変なんだよエアカバーも無線も人員もいないだろうのに、こんな山道で遭遇するなんざな。なんでだ?」


「だって主、宿屋に置いてきぼりにするんだもん」雨ざらしの捨て仔猫の様な眼差しで上目遣いで己の主と見定めた男にアピールするミカヅキ。


 あざと可愛い。だが天然モノだ。怒るに怒れない。


 目を逸らして敢えてそれを無視する男。

「で、マッチ&ポンプか」


「主に必要とされたかったんだもん。その単筒の弾があるうちは私を頼ってくれない。だから……」


「ばかやろ。主人、危険に晒す家臣がどこにいるよ。ったくお陰様で弾切れだよ!! 最後の弾丸だったつーのに……」


 実際は後二発ほど入っているのだが、いよいよの時の自決用かなーと男は内心思っている。


「あのな、別にいいんだぞ恩なんぞ返さなくてさ」

 半目で男は猫耳少女を見た。

 猫は好きだが、猫耳少女とかケモナーはなんかジャンルが違うと思う。


 だいたい子どもにそれも娘と呼んでもおかしくない歳の差のある子に好かれても嬉しくない。だいたい俺は巨乳の熟女派だ。


 後、うなじの後れ毛フェチ。


 それが襤褸のいや野戦服の男、

 日本国陸上自衛隊習志野駐屯地第一空挺団所属、二等陸尉 真田(さなだ) 慎玖朗(しんくろう)の偽らざる気持ちだった。


「いや、主に命を救われたのだそのご恩は一生を懸けて返して行きたい」


「寧ろ俺の人生が巣食われている気がするのだがなーー」


「後、単純に好きだ。傍に居たい」


「……さよか。取り敢えず主を罠に嵌めた罰でお前は一週間語尾に、にゃ! な?」


「にゃー!? 待って、にゃ語尾はイナカモノの方言だからイヤにゃ!!」


「いんじゃね、可愛くて」

 内心ざまーー と思いつつうっかり投げ遣り気味にフォローしてしまう慎玖朗だった。


 人、それを自爆という。


「そ、そおかにゃ?」

 赤くなるミカヅキ。もじもじしてる。


「あ、あーー」

 なにかヤバい。なにか知らんがヤバい。

 外堀を埋められ、城壁を崩されつつある気がするのがヤバい。

 自分が何か取り返しの付かない運命に巻き込まれている気がしてヤバい。


 なにより向こうがアレで無自覚なのがヤバい。

 

 好きとか言ってるが多分素だ。素面だ。天然だ。

つまらん策は弄する癖にこういう所は初心なヤツだ。


 ああ、くそ。ビール飲みたい。

 現実逃避したい。慎玖朗はそう思って遠くを見た。


「あーー もう。それでミカヅキ追っ手ってどんくらいだ?」


「距離にゃ? 人数にゃ?」


「両方」


「多分一番近いので山二つ離れてるかにゃ。人数は総勢で四十人位で一組五人位で動いてたにゃ。さっきの音聞かれたと思うにゃ」


「だよなぁ、貰うモノ貰って逃げるぞ」


「泥棒にゃ♪」


「色々悪いとは思ってる」

 肩を竦める慎玖朗 。


「逃走資金は必要にゃ」

 棒手裏剣を回収するミカヅキ。

「あ、抜けない」追っ手の頭を踏んづけて手裏剣を抜こうとしている。


「ああっ、もう貸せ」

  慎玖朗は代わりに抜いてやった。

 隊長から財布を失敬して二人はずらかった。


「主、何処に行くにゃ?」


城塞都市(メルカバ)だ」




  慎玖朗は人類最後の盾、反抗の特火点。


 焔の巨人の伝説の眠る、数々の歴史と運命の交差する十字路の名を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ