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10 異世界はニートに厳しい世界です。

 

  「よっこら、しょっと」

 翌朝、村の近くの小川に来て水を汲む。

 流れる水に軽く目眩を覚えた。転ばぬように大地を踏み締める。


 小川はキラキラと朝日に輝いて美しい。

 この綺麗な小川は村の重要な水源だ。

 一口掬って飲んだけど美味いのなんの。

 大自然の伊吹を感じるね。


 水を汲むのに使う道具は桶や樽ではなくまさかの(かめ)。土器ときたもんだ。重いったらありゃしねぇ。

 腰をやりそうだぜ、ったくよぉ。


 でも、一緒に来た子ども達はほいほい担いで持っていくわけですよ。


 くっ、此処でも僕出来ない子ですか?

 やっぱり 駄目か、駄目か、駄目なのか、ああン!? つうか土器で水汲みとか阿呆の所業じゃね? せめて桶を寄越せよ!!でも、村にはありませーーん。ガデーーム。


 畜生。ひぃひぃ、ふぅふぅ言いながら村の朝のお勤めに精を出しますよ!!

 子ども達にスタコラ抜かれ笑われながら

 頑張りますけどね!! でも不思議と悪い気にはならないのはなんでだろうね?


 笑顔に悪意が無いからかねぇ。

 駄目なヤツだと嘲笑われているのではなく、新入り頑張れと言われているような。すれ違い様足とか腰とかパシパシ叩かれる辺りからもそう判断する。


 言葉わかんねーから、その分プラスに勝手に取ってるってのもあるけどさ。


 いい村だよな……。なんか優しい気分なってしまう。くそ、どうしても助けてぇなぁ。おい。


 ちなみにペットボトルは使わなかった。

 今は見せると色々めんどいかも知れんからね。


 そんな朝の清々しい労働に従事しながら、昨夜の打ち合わせを思い出す。




「ヨーチュ、バァ?」

 コテンと小首を傾げるリオン。


「YES!! 大手の動画サイトだ。此処に此れを流すんだ!」

 とりあえず起き上がり仮称ベッドに二人で座り直す。そして此方に来てから録画した風景(二重の月とか、珍しいだろう植物とか)とリオンの最高にカッコ良かった活劇の動画を見せてみる。


 あれ、スマホ解るかなこの娘?。

 いや、そもそも動画サイトとか理解出来んのか?。


「オーー」彼女が風景の動画を楽しそうに眺めた後、俺は動画を活劇に切り替えた。


 彼女がワルモノを颯爽と退治して行く姿が映る。

 途端にその表示が曇り、小さく震え彼女は…… 嘔吐(おうと)した。


 俺の考え無しの行動が彼女を傷つけたのだ。

 その動画が彼女に取ってなんなのか。

 理解も想像もせぬままに。


 彼女の食の進まぬ理由、食欲の無い理由は一つでは無かったのだ。

 寧ろコレこそが本当の理由。


 彼女は口を慌てて抑えしかし堪えきれず、指の隙間から吐瀉物を撒き散らす。


「え、あ、あ!! コレに!」

 俺も慌てて食い終わった皿を彼女に押し付けた。


 その椀に少なくない量の胃液と僅かな麦粥を吐き出しリオンは浅く弱く嘔吐(えず)いている。


 何だ、何が起きた? 俺、ナニをやっちゃいました!?


 思い切り動揺しながら水を木のコップに注ぎ渡した。逆流した胃液を洗い流すだけでも楽になるものだからだ。


「だ、大丈夫?」な訳ねぇ。けどそう聞くしか無かった。


 彼女は黙って口を濯ぎ水を飲み頷いた。

「……アリガトウ、フタミオニイチャン」

 苦しいだろうに俺を安心させる為だけに、

 弱く浅く淡く笑うリオン。ちくしょうかえって痛々しいんだよ……。


「どうして?」村の病気ってヤツか?。


「アー ウン」彼女は無意味に髪先を弄る。

 カタカタと小さな肩を揺らして震えている。

 小さく吐息し、瞑目しそして観念し吐き出すように、或いは土中に掘った穴に告白するようにリオンは語り始めた。

 俺がこの地に取って彼女に取ってマレビトでなければ彼女は自分の傷を吐き出さなかったかもしれない。


「ヒト…… ハジメテ、コロシタ。カラカナ……」

 消えてしまいそうなほどの弱々しい微笑みを浮かべ、彼女は己の傷を罪を告白する。


「え!?」あ、いや、リオンは正義のヒーローで、

 俺や金髪司祭様を助けてくれた勇者様で、だから……


「マダ、テニ カンショク、ノコッテイル……」

 リオンは右手をグーパーと開いたり閉じたりしながらその感触を振り払おうとしている。

 或いは確かめているのかも知れない。


 人を殺めたその感触を。


 だから……


 だから。


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