かくれんぼしよう3
「オホホホ。ゆっくり走っているとすぐに捕まえてしまいますわー」
美人でも、恐ろしい勢いで追いかけてる女は怖い。ネズミを追う猫のようにすごい迫力を滲ませながら、そのスピードは決して緩まない。深く入ったスリットから太ももがあらわになる事を恐れたりしない。振り替えれば、何より目が怖い。食われそうだ。
アイディーンは、その緩まないスピードに
「か…隠れんぼは、鬼が目隠しして10秒数えるんだ」
正解を教える。そしたら、セレーディアは
「あら、私ったら…」
子育てしないからそうなるんだ。今さら淑女ぶってコロッと態度変えても遅い。しかし、その間に距離をとれる。
「1~2~3~…」
やっと立ち止まって数を数え始めるセレーディアどんどんその声も離れていく。
アイディーンは、必死で逃げながら、
「絶対捕まらないでください。ファルオス様」
息を切らしそう言う。
手を繋がれ、走るファルオスは
「そんな必死なアイディーン初めてみるな」
意外に冷静にこっちを見てる。
今は冷静に分析するなーーーーー‼
殴りたいーーーーーーーーーーー‼
アイディーンはこらえ、短い時間に知識を授ける。
「彼女は婬魔です。霧になって入り込みます。一センチの隙間でも入ってくるゴキブリのような女なんです。」
まずは対処法。空気がたくさん流れやすい所は通り抜けるだけで見つかってしまう。隠れるならベッドの下より、きっちりと閉じる宝箱だ。物影は危険。クローゼットの方がマシ。
ファルオスは
「なら、隠れる場所は決めたのだ。」
スタタタタターっと離れていく。その先に台所。
ああ。台所。冷蔵庫か。大型の人も入れそうな冷蔵庫あるのだ。空気も通らない。寒さと呼吸以外万全だ。たぶん大丈夫だろう。魔王だし。自分の個性に応じた万全な隠れ場所だ。
あとは自分か……アイディーンは走る。知り尽くした城の中、とにかく走る。
「よっ、アイディーン。どうした。なぜ走る?」
バドルだ。走るアイディーンに並走してくる。なぜか楽しそうな、バカな犬みたいだ。
「ついてくるな。バカ‼」
単純になじられる。
バドルは、なぜ……と泣きそうになった。冷たくあしらわれたバドル。立ち止まったバドル。ポツンと取り残されていく。
「8~9~10…」
セレーディアは顔をおおっていた手をスッとどけ、辺りを見渡した。
城の中は広い。知り尽くした彼等を見つけるのは骨が折れそうだ。
(さて…あまり知らない場所はあまりにも、不利ですこと…)
セレーディアの周りに霧が立ち込める。それが、まるで風でも吹いたかのように四方八方に吹き抜ける。この霧で空気の流れる所にいれば居場所はわかる。それと共に城の形状を知る事もできる。
その霧はバドルの元にも届く。
「おわっ⁉」
なんかいい匂いの霧、来たーーー‼それは、すぐに通りすぎていく。
「な……なんだ?」
よくわからない。しかし、さっきのアイディーンの様子といい、ただ事ではない。まさか、何か事件が……
そしたら、近くから
「ホホホホ。かわいいワンちゃん。お名前は?」
気配もなく、女が立っていた。そのしゃんとした背筋を伸ばした姿。まったく動じる事なくバドルを見つめる鋭く獲物でも見るように油断なく立つ女。
なんて怪しい女だ。まったく隙を感じない。これはただ者ではない。バドルは
「誰だ。言っておくが、俺は狼だ。名を名乗れ」
側近としても見過ごせない。
そしたら、女は漂う霧の中で怪しく微笑み
「セレーディアですわ。以後お見知りおきを。ミスター」
ずいぶんいい女だ。バドルは魔族の美しい姿をした者を見る機会は多かったが、それでも美しい。しかし、その分怪しさは際立つ。なぜこの魔王の城にいるかわからない不審な女にバドルは名乗らない
「ここは女のいる所じゃない」
そしたら、セレーディアはクスッと笑って
「ファルオス様には咎められておりませんの。だから、小物風情は黙りなさい」
セレーディアは魔王軍大将の正妻。だから位が高い。よって態度もでかい。
バドルはなぬって顔して
「なっ、黙れ。妖しい女め。アイディーンが逃げていたのもお前のせいか‼」
うっかりその名を滑らせてしまった。
とたんにその態度が軟化した。セレーディアはとたんに身をくねらせ、
「ふふ。私…ワンちゃんって大好きなのよ。狼なんてカッコいいのね。あなた」
急にすり寄ってくるのだ。さらにそばまで来ると、その香水の甘い香りは強くなる。セレーディアの表情も瞬時にその人の好みをかぎ分ける勘で、その毒々しい表情から、何も知らない生娘のような表情に変わる。
「あなた…たくましい体をしているわ。非礼を詫びれば、そのたくましい胸に顔をうずめても良くて?」
お色気攻撃だ。
バドルはあわてた。
「な…なに、何を考えている」
タイプな顔だった。セレーディアはそれらしく装うと、清純な微笑みを浮かべることもできるのだ。その表情のチョイスは抜群でバドルの心を掴む。
セレーディアはバドルの体に張り付きそうなほど、体を寄せる。
「それに…私、アイディーンの血族の者なの。」
あえて、母だと言わない。しれっとした顔のまま心配してるのって顔で
「アイディーンがいつまでもうちに帰らないから様子を見に来たら、恥ずかしがって逃げちゃったの。会いたいの。どこに行ったか教えて下さらない?」
バドルのたくましい胸板に、指先で『の』の字を書きながら言うと、バドルは
「そう言うことなら…」
すっかり騙された。
セレーディアは
「まぁ、優しい殿方」
すっかり懐柔されてしまったバドル
「あっちだ」
指差した。
セレーディアがわからないように凶悪にニヤリと笑う。
「あなたのお名前…知りたいわ」
「バドルだ」
そしたら、
「そう、バドル…お礼に天にも昇る事…して差し上げますわ」
ヂュー
婬魔特有の技、生気を吸うってやつだ。一瞬嬉しかったバドル。そして、意識は薄れていった。半分くらいに体積が減ったようなバドルに
「ごちそうさま…バドル。とても濃くて上質な味ね」
カツカツと、ヒールの音をさせ、セレーディアは去っていった。
バドルはパタンと倒れた。
バドルの、指差した方にたどり付いた。この道の先は塔の上に続く階段だ。そこにたどり着く。まさか、逃げ道にない、こんなところに来るなんて…霧で確認した所、空気の通り道にアイディーンはいなかったようだし、何か、空気の遮る所に隠れたか……
セレーディアは階段を上っていくと、クローゼットがあった。
念のため開けてみる。
いない
本棚…その中に妖しい本。
引っ張ると、
カチ…
隠し通路が現れた。さっきまできっちりと継ぎ目にも違和感のなかった石の壁に、人が通れそうな通路が現れる。なるほど、空気の通りが悪い。アイディーンも考えたようだ。
螺旋になった階段を降りると、その先に、長い通路。薄暗く、出来立ての蜘蛛の巣が壊された跡。ここを通ったのは間違いないらしい。
(どこに通じているのかしら。わくわくするわ…)
セレーディアが通路の先、曲がって曲がって曲がったら、外に出た。
「あら…?」
城もだいぶ遠い。振り返った小高い丘に城の全体像が見える。
それを見届けたアイディーンは、腹立たしい。
(あのバドル居場所言ったな。)
告げ口なければセレーディアがあそこにいるなんて考えられない。セレーディアが、バドルに何もせず通り過ぎるわけはないとは思ったが……きっとバルトの告げ口ありきで考えた作戦だ。しかし、バドルはきっと生気ぐらい吸われてる。
宝箱に隠れたまま、窓際の影から、ちゃんと外に出たのを見届けたアイディーン。
「クックック。隠し通路にも、まだ隠し通路、あるのですよ。お母様。皆の者ー、城全体にブロックの魔法をかけろ‼」
そばにいた魔法部隊がすぐに魔法をかける。
セレーディアが見ている間に硬質なガラスに包まれたような光沢で、城はツルンと覆われてしまった。
「あら。騙されてしまったの?」
もはや、城には入れない。この隠し通路も使えないだろう。
しかし、どこか清々しい顔で
「実の息子にあんなことや、こんなこと、できなくて残念だけど、またくるわ」
そして、帰っていくのだった。
夕飯の仕込みをしようとしたコックが
「おわっ」
冷凍庫に隠れてカチカチになったファルオスを見つけた。
なに食わぬ顔で執務室で、やれやれと仕事を再開したアイディーンの耳に、
「ファルオス様がーファルオス様がー‼」
と聞こえた。
アイディーンは
「あっ…」
忘れてた
廊下に出ると、ヨレヨレのバドルが力尽きている。ダイイングメッセージのように、『S』と絨毯に,首に巻いていたスカーフ。それを指さしている。しっかり吸われたな。標準男子ぐらいの体積になったか?ほってこおう。
ファルオスは、氷の塊になって、冷凍マンモスのようだ。コック達に自室へと運ばれていく。綺麗に凍った物だ。さすがコック長の冷蔵庫。冷やし方が半端ではない。
アイディーンは
「なぜ冷凍庫の方に入るのでしょうね……あなたは」
手間をかけさせる上司の元へ向かうのだった。




