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恋する魔王のスローライフ  作者: フローラルカオル
恋するレベル5
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結婚逃避行

滞りなく式は進み、少女の姿に白いウェディングドレスを着たアイディーンはお色直しのために、次のドレスに着替える。


以前は魔王の婚礼ともなろう物なら、国をあげての大騒ぎになる所だが、もはや新郎も新婦もそれを望んでいない。

この式に呼びたい人だけを呼ぶ。


勇者達や、家族。そして、側近。

ささやかに行われた、心から祝ってくれる人を招いた式はここまで滞りなく進んでいた。


そう、ここまでは……





着替えの手伝いをしながらそばにいるセレーディアは言う。

「今夜は初夜ね……」


大丈夫かしら。と、わかっているわね。って顔をしている。アイディーンはハニワのように母の顔を見つめた。

さっきまで幸せ一杯で微笑んでいたそれは一瞬で消滅したらしい。


セレーディアはわかってはいるだろうって思っていた。それに、これだけ長い時間をかけたのだから、この後におよんでそんな事も覚悟の上だと思っていた。


なのに、この顔。


アイディーンはゴゴ……と音もたてそうなまま、首をなおし、ゆっくりと鏡を向き


「しょ……や」


セレーディアは

「まさか、これ以上待たせるなんて、魔王様もいつまでもお許しにならないんじゃないかしら?」


アイディーンはまだハニワの顔をしながら、

「ええ……わかっております。ちょっと水……飲んでまいります」


カクカクと動いた。そして、そこのドアを出た。セレーディアが警戒して、そのドアを開けると、アイディーンはドレスの裾捲って信じられないスピードで走っていた。


「逃げたわ‼」


セレーディア声で、わいわいと楽しい空気をしていた中心で、しまりのない顔をしていたファルオスはキリッとする。


「行くのだ‼」


ファルオスもまた走り出した。








アイディーンは飛骨竜にまたがる。どこでもいい。逃げなくては。

はやる気持ちを抑え、手綱を握り、空へと飛び立つ。とにかく一刻も早くここから逃げ出して、しばらく身を隠そう。そう思った時、魔王城の影に隠れていた、スピードスタードラゴンが羽ばたいた。


「なんだと……」


アイディーンは振り返りながら、その羽に星の模様のドラゴンを見た。

スピードスタードラゴンは短距離から中距離までのスピードでは一番。スタミナと、遠距離向きの飛骨竜ではすぐに追い付かれてしまう。


ドラゴンの背には、タキシードを着た角の生えた人影。ニヤリと笑うファルオス。


「こんなこともあろうかと、すぺて用意していたのだー‼」


くっ、無駄に頭が回る。

アイディーンは、目をくれず、飛骨竜に指示を送る。まだ勝機はある。こっちは飛竜を扱うのに長けた乗り手。あっちは焼き付け刃の、にわかライダー。

スピードの早い竜を簡単に扱える訳もない。


「うわっ、なんか勝手するのだぁーーーっ‼」


早くも舐められている。竜は乗り手のスキルをすぐ見抜く。

ファルオスは軽くポカッと殴って、


「真面目にするのだ。花嫁に逃げられたら唐揚げにするのだ」


竜に酷いことを言ってる。そしたら、格段動きの良くなったドラゴンがこちらに向かってトップスピードで突っ込んでくる。

アイディーンは旋回する。

しかし、乗り手の指示なく追ってくるスピードスタードラゴンの優秀さ。


ファルオスが

「アイディーン。ド……ドレスがはためいて、見えてるのだ。白なのだ‼」


「このっ、クリムゾンフレイム‼」


思わず打ってしまった最強の火の魔法をファルオスはその手のひらで軽く潰す。

ファルオスは


「なかなか気合い入っているのだ。でもその程度。早く諦めるのだ‼」


アイディーンはスカートをしっかりとお尻の下に押さえつける。しかし、風が強い。すぐにはためいたスソを押さえてアイディーンは手綱を持つ手が緩む。アイディーンは空気の抵抗を受けすぎるドレスと言う物は、本当に実用的じゃないと思う。すると、バランスを崩して、アイディーンの体がふいに、傾いた。


「きゃっ……」


「アイディーン‼」


ファルオスはその落下していくアイディーンへと竜の背を蹴って空中に踊り出す。

その華奢な体を抱き止めたファルオスは自らの体をしっかりと胸に抱えて落ちていく。


ダンッ



その足元、力強い腕に抱かれて、流星のように二本の足で降り立った回りには衝撃派のような風が広がる。森だが、木がなぎ倒されている。


アイディーンをお姫様抱っこしたファルオスは胸を張る。

「……」


黙ったファルオス。アイディーンは身をすくめる。


ファルオスは一言。

「大丈夫なのだ?」


アイディーンはこっちこそ言いたい。あんなに高いところから落ちて、二人分の衝撃を受けた足。常人なら折れている。

なのに今、あまりに涼しい顔をしているのた。


ファルオスは

「やんちゃな妻を持つと、ハラハラもドキドキもさせられるのだ」


アイディーンは少しシューンとして、

「すみません」


ファルオスは

「きっと逃げるとは思っていたのだ。やっぱりなのだー」


そう言われた。アイディーンはやっぱりこの結婚はなかったことにしようかと、ほほをふくらませようとした。


ファルオスは

「……どこまで逃げても、追うつもりはある。だから、逃げるといいのだ。それを追うのを楽しみに、世界中を旅行するのもいい。」


アイディーンはあっけにとられ、ハニワのような顔になる。


ファルオスは

「まずは、俺の特別な場所に行くのだ」


そうして、お姫様抱っこのまま、進む。

森の奥、ドンドン進んでいくと、わき水の小さな滝をのぞむ泉があらわれた。その石のへりにアイディーンを座らせて、ファルオスは


「ここは俺にとって特別な場所。魔王である孤独や重みに耐えきれなくなった時、ここに来た」


ファルオスはそう言った。アイディーンは知らない。ファルオスはいつものほほんとしていた。なんの重圧もなく振る舞っていたではないか。


ファルオスは

「本当は怖かったのだ。戦いの中、何かを殺していくままに生きていく運命。それでも生き続けたい。そうして泉を見ると、いつもアイディーンの顔が浮かぶのだ」


「ファルオス様……」


ファルオスは微笑み

「命をとしても、守らなければいけない存在があるなら、それはこうした時も思い浮かぶその人だとわかったのだ」


アイディーンは、逃げた自分を恥ずかしく思う。

ファルオスはそんなアイディーンの足元に膝まづき、その手を取る。


「……母の形見。受け取ってほしい」


そうして、その手をはなすと、左手の薬指に、華奢な指輪がはめられいた。

王妃様の指輪……それはファルオスが一つだけ持つことを許された宝物のように大切にしていた物だった。


ファルオスは

「ここで誓うのだ。俺はアイディーンを幸せにする。それだけのために生かされた命のすべて……捧げるのだ」


そうして、ファルオスはアイディーンの髪をその耳にかけながら、真摯に見つめる。アイディーンは逃げた自分が恥ずかしくなった。こんなにも愛してくれてたのに……なのに怖いと思ってしまった事が。


「……はい」


そうして、見つめあうと、怖さがなくなっていた。ファルオスの手がほほに当てられ、近づく唇。もう何度もしたキス。

でも今日のそれは特別なキス……


泉を照らす光に照らされて、ここだけ浮かび上がる。

特別な場所……ファルオスはゆっくりと、その体に重さをくわえ、その体が重なり、アイディーンは恐れはしなかった。


その瞳を見る。金の瞳……


もう怖がる事はないんだ。アイディーンは身を委ねた。




「あん……」







こうして、二人の手はしっかりと結ばれ、一羽の竜に乗って帰ってくる。

空から戻ってきた新郎新婦。

みんなはその再登場に拍手で迎える。

セレーディアには聞かなくてもわかったいた。もう大丈夫なのね。あなた達は……






こうして、二人は幸せに暮らしましたとさ。


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