ピクニック行こう4
アイディーンは膝をかかえた。白い雲がゆっくり、ゆっくり頭上を流れ、この標高の高い場所には清浄な空気が流れているみたいだ。
城近くの障気を含んだ空気の中であっても、体に害がある事はないが、たまにはこんな空気も吸いたくなるものだな…
膝をかかえた哀愁すらおびたアイディーンの顔。
赤い髪に対し、水色の目は見る者の心を落ち着ける泉のようにこんこんと、どんな仕打ちも受け入れるような慈愛すら感じさせた。早い話し長いものに巻かれる諦めだ。
アイディーンは目の前で
パン、パン
行き交う白い羽を見ないようにした。
バドルを連れてきたのは正解だ。全力で打ち続けるバドミントンの羽はどこに飛んでも犬のように食らいつき、返す。しかし、すでに汗をかいた姿は暑苦しい。
「うりゃあ‼うおおぉぉお‼そりゃあ‼」
バドルの声はうるさいのが玉に傷だ。清々しい草原を白熱した空気に変えるのはやめていただきたい。
だからそんな二人とは視線を合わせないようにしつつ、アイディーンは水筒に入れられた温かい紅茶を入れる。その温もりにほっこりと癒されながら、疲れたOLのように、口にすると心にまで染みさせていた。
ああ……俺、疲れてた……
ふいに、ファルオスがムスーとしていた。そのファルオスがやってきて腕を引く。
「アイディーン。やろう。もうバドルはうるさいから嫌だ」
正直すぎる本音。
バドルが
「なっ…」
若干ズキンときたようだが、ムカッともきた顔してる。こっちが全力で相手をしてやればふざけやがって……そんな心の声が聞こえて来そうだ。
やれやれ、そんなんじゃファルオスの相手なんてできないぞ。アイディーンは
「私はうまくないですよ」
そしたらファルオスは相手をしてくれてるバドルに
「あいつ、終わらせようとして打ってるのに、ずっと食いついてくるからうざいんだ。だから、アイディーンがいいんだ」
ケロッと抉ってくる。
バドルはナイーブなんだから……ほら
「ふんっ、泣いたりなんてしない…」
案の定、精神的にダメージ食らってる。言葉とは裏腹に少し潤ませた目元。メンタル弱いなぁ。変わってやるか。
アイディーン
「ならしましょう。手加減お願いしますね」
そう言って紅茶を飲み干して立ち上がると、ファルオスはきゃっきゃ笑いながら、遠く離れていった。まったく子供か。
バドルの時は30メートルぐらい離れていたか。見ないようにしていたが、もはやバドミントンは二人にとって、羽を壊す競技らしい。弾丸のように飛び交う羽を瞬時に見分けて走る。
激バドミントン。特別ルールも追加。
『羽壊したのだから、俺の勝ち。』
等のルール……よくわからないのだが。遊びとか、無理だ。この、人達とは遊びたくない。仕事じゃないとやってられない。
そしたら、遠くからファルオスがラケットを全力で振りかざし、どこぞのマフィアの弾丸のように遠距離からスナイパーの弾丸のように放たれた羽。ヒュンとまっすぐにアイディーンの元へ向かってくる。
これをバドル打ち返していたのか。そりゃあ吠えるか。ヤバいスピードだ。
軌道はなんとかわかり、ラケットで打ち返す。羽は見事ラケットの真ん中に当たり飛んでいくが、その硬質な感覚に違和感を感じる。この羽金属含んでないか?
それにラケットの重さもおかしい。打ち返したラケットのガットが鋼鉄製。どんな衝撃も打ち返す、何か防御系の魔法がかかっていた。最初からおかしいぞ。このバドミントン
近くでバドルがニヤリと笑う
「改造したっていいだろう?よりスリリングで」
その凶悪な顔。勝手に改造して備えてたって事か。
一朝一夕で整えた物じゃないな。いつか使う機会をうかがってたって事か。
良く考えろ。高原でスリルは必要ですか?
ファルオスがまたも余裕で羽を返す。
「よそ見禁物なのだ‼」
パーン
それは再びものすごいスピードで、音速の壁に揺れておかしな白い空気をまとってアイディーンの元までやってくる。
スパーーーン
なんとか返す事に成功。やはり、力を必要とする競技はなかなか振りになる。羽に魔法をかけて攻撃できればあるいは……等と戦いのような思考に一瞬とらわれて
いや、違う。これはバドミントンだ。正気に返る。
次の羽を打ち返す時、全身から力を抜く。流れるような動きで、ファルオスの力を全身に受けた羽の力を受け止め、相殺しながら放つ。二人の陣中のきわっきわに。
ポトン
「はい、終了」
バドミントンのヘヤピンという技だ。相手のコートギリギリに落として、得点を狙う。いやらしくも技のいるうっかりしやすいアイディーンの好きな勝ち方だ。
とたんに、バドルがすくっと立ち上がり
「違う違う違う。そんなので点が入ると思うな。さっきまで何を見てたんだ」
割って入った。急に仕切りだしたぞ。めんどくさい。
アイディーンは、見ていた。羽壊したら勝ちってやつだ。
そんな新種なスポーツ認められない。
「壊した方が勝ちってやつか?そんな非生産的なゲームをするつもりはない。だいたい、あとで、これを改造した経費はお前の給料から、天引きする」
壊した分加算されると思え。
バドルはあわてて
「楽しくやろう?ほら、これはピクニックだ。な?」
手の平ひっくり返した。
ピクニックだから、なんだというのだ。側近って業務がピクニックだからといって軽くなったり、重くなったりでもすると思っているのか。これが仕事で接待のような厳しい物とわかってないようだ。バドルまであのポンコツのふわっとした空気に飲まれてないか?
アイディーンはバドルと話していてもらちがあかない。ファルオスの方を向き
「どうしましょう?ファルオス様はどうやって遊びたいですか?」
30メートル先のファルオスに声を投げ掛ける。
ファルオスは
「んー普通がいい」
そうだろう。のどかな原っぱでするにふさわしい物があるんだ。ここに戦いをもってくるんじゃない。
バドルは
「くっ」
膝を折った。ついにやりくるめた。これで平和が戻ってくる。
アイディーンはやっと穏やかにバドミントンできるかと思った
「じゃあ、ファルオス様。遊びましょう」
ファルオスはとたんに、手の平ひるがえす。
「でももういい。それより、虫捕まえてくる」
ストンとラケット置きにきた。
もはや、バドルで面倒臭い気持ちになってたらしい。……と言うか、さっきのヘアピンで気分を害した空気すらある。なのにアイディーン、バドルとペラペラしゃべってるし。ぐらいの顔だ。
このクソガキャー。負けたからってふてくされるな。あと、相手にしてくれないってふてくされたのか?ややこしい。
ファルオスは変わり身もはやく、さっさとその辺飛んでる蝶だかバッタに夢中になった。20才の人が大人げなく、虫を捕まえようとする。
アイディーンは近くまで来て
「壊れやすいんですから、優しく、優しく…」
はらはらした。乱暴にしたら、あまりにかわいそうだ。手の中に空洞作って捕まえるんだ。大丈夫か?
バッタの足はすぐとれるんだから、後の事も考えてやれよ?
遠くでレジャーシートの上でゴロンと寝転んでいたバドルは
「あれ、結構うまいんだぞ。エビみたいな味だ」
聞きたくなかった事を言った。
「へー」
アイディーンは聞かなかった事にした。あまりこういった物の味なんて聞きたくもない。もう、スルーしておいた。ファルオスも、いくらなんでも食べたりはしない。
ファルオスは自前の虫かごも持ってきたらしい。そんなに大きくないそれに虫を名一杯詰め込んでるのが、見えて、アイディーンは
「せめて、三匹まで‼ あっ、カマキリはやめときましょう」
カマキリと蝶を一緒に入れないであげてーーーー‼
色々気苦労が絶えないのだった。
機嫌を直したファルオスは満足したらしい。その手に除菌のウエットティッシュを渡す。適当にふいていたので、その手をとって、もう1枚新しい除菌のティッシュで丁寧にふいてやった。ファルオスは
「過保護なのだー」
と言った。
だって次は木苺を摘むのだ。そんな虫やなんか触った手で摘んだのは嫌だろう。俺が食べる訳じゃないが。
少し森になったこんもりと繁った中、背の低い木々が生えている。そこにモンテベリーが赤々となっていた。いわゆる木苺で、プチプチとした実の集まりだ。種は固くなくて飲み込める。ラズベリーと似たあんな果物だ。甘酸っぱくて美味しいらしい。
子供でも手の届く高さに生えていて、そういったピクニックの楽しみ方の1つとなっている。艶々とした透明感やなんかは美しい。木漏れ日の揺れる中、宝石かなんかのようだ。
ファルオスは最初に摘んだ物を
「食べれるのだ?」
等と聞いてきた。
アイディーンは
「ええ。農薬も使ってないそうなので」
そしたら、瞬く間の早さでパクン
「うまいのだー。甘いのだー。ほっぺ落ちちゃうのだ」
それから何個か口にしていた。
近くでバドルが犬になって、そのでっかい口でパクンパクンとやっている。そうしていれば、少しは可愛いな。アイディーンは自分が犬嫌いでない事に驚いた。
そしたら急に風が吹く。ファルオスの元に風が集まっていく。魔法の風でズルして集めようとしてる。
「だめですよ。必要な分だけ‼次来る人の分ないでしょう?」
アイディーンに叱られていたので、ファルオスはシューン。
そんなファルオスをバドルが見てバドルは
「へへ。怒られてやがる」
狼の姿で笑った。
そしたら、
「ファイヤ」
低級の魔法がバドルの頭にポンと決まってアフロになった。犬のアフロ……ヤバい。何これ。低級の魔法も、魔王クラスの男にかかれば、便利に使えたものだ。
アイディーンはくすっと笑って
「に……似合う」
そしたら、バドルは
「に…似合わないんだからな」
犬の姿のままプイッだから、そこでプイッとするな。できればそのまま人の姿に戻ってみないか?
ファルオスはアイディーンに、
「アイディーンもするか?」
調子に乗ってきた。アイディーンはニコッとして
「いいえ。したら、コック長に頼んで、ピーマンばっかり食べさします」
仁義なく責める。ファルオスはビクッとしてさがった。やれやれ。アフロなんて似合うバドルだけにしてくれ。
いつの間にかサンドイッチを入れてきた空のなったバスケットに、赤い実がたくさん入って、光を浴びたそれはキラキラ輝いている。まるでルビーの採掘場か?目も覚める美しさだ。
夕方に染まる空。バッサバッサと時間通り、骨の竜のシルエットが空を巡っている。もう飛骨竜が迎えにきた。アイディーンは竜達の降りれる位置に移動する。
ファルオスがまだ虫かごに何か入れていたらしい。
「虫、もって帰ってもいいか?」
虫かごを持ちながら言ったファルオス。
アイディーンは
「きちんと世話してあげて下さいね。さぁ、帰りましょう」
虫は短い命…この儚い命にも触れて、成長してもらうおう。
ファルオスの嬉しそうな顔を見ながら、飛骨竜に乗って空へと飛び上がったら、夕方の空に包まれたように、世界がとても広く見えた。
その夜の木苺のパイは、ファルオスはとても喜んでくれた。パイ生地の上に生クリーム。その上にフルーティーな生のベリーが乗って美味しそうだ。アイディーンも裏でこっそりコック長にもらった。これはとても美味しかった。
ー数日後ー
ファルオスは自室のドアをなぜかふさいで、廊下に立っていた。その焦ったような表情。ただならぬ空気感。アイディーンを見つけると、ファルオスの焦りは濃くなる。
まったく何やっているんだ?アイディーンは
「どうしました?」
聞いてみる。ファルオスはドアから手を離さず、
「死んだら嫌だって魔力注入したら……虫がでっかくなった。」
何かよくわからない事を言った。
虫………?
まさかモンテマリー平原で取ってきた虫の事か⁉アイディーンはドアを開ける。
もっもっもっ
三匹ぐらい象みたいな芋虫がひしめいて、ドアが開くと共にこちらに向かってやってくる。
「あーーーーーー」
のしかかってきた。ファルオスは地味に逃げてる。
なぜ持って帰る虫に芋虫というチョイスを⁉
もっと色々あっただろ‼
芋虫の柔らかいムチムチとした感触……アイディーンは虫の下で薄れゆく意識の中、思った……思ったより、やわらかい……
アイディーンは気絶していた。芋虫は、もっもっもっと廊下を進みながら、それに気づいたバドルが
「うまそうな芋虫だな」
じゅるりとツバをすすったのだった。
その後、むちむちのでっかい芋虫は繭になり、ついには羽化した。蝶と思って楽しみにしていたアイディーンだが、彼等は蛾になって飛んでった。アイディーンは静かに手を振ったのだった。




