動物園なのだぁ‼1
「動物園、動物園、動物園なのだぁ‼」
ぎりぎりまで取り合わなかったアイディーンは、ファルオスを見つめ、
「ん?」
誤魔化している。
ファルオスは
「忘れた訳じゃないのだ‼動物園行くって話、さらっと無いことにされてるのだーっ‼‼」
お怒りだ。アイディーンはニコニコして
「何でしたっけ?」
今やってる仕事やりきってしまいたいのだ。ファルオスの事を好きって気配だけ出すものの、アイディーンの態度は変わらない。いつも翌日になると通常運航。仕事に対する熱心さやめるのだーーー‼
「許さないのだっ、動物園行ってイチャイチャするのだー。昨日約束通りお子様なったのだ。だから今日はお子様ならないのだ。そして、動物園いくのだぁ‼」
好かれてるか不安な男はわめき散らす。
アイディーンは
「行きましょう。あと一時間待ってくれますか?」
そう言った。あざとく水色の瞳はキュルルンとファルオスを見つめるので
「……待つのだ」
行くならいいのだ。ファルオスはちゃんと一時間待っていられる。
アイディーンは書類にカリカリとペンを走らせながら、少し怒ったファルオスの顔を思い出す。そう、かわいいのだ。一生懸命になったファルオスは。
アイディーンは涼しい顔で少し微笑んで、早く終らせるために筆を進めた。
出かける間際になって、バドルが野菜を売り終わり帰っていた。
「あーっ、今帰ったぞー」
自前の荷車を引いてきた男は汗だくで、首からタオル引っかけていた。
ファルオスは
「げ、なのだ」
バドルは
「げ、ってなんだ。ん?なんだ。いつもの服じゃないな。きがえたのか?」
抜け目なく気づく。ファルオスはその辺出かける人間のカジュアルファッションのような格好だ。
ファルオスはツンとそっぽ向き
「たまにはそう言う気分なのだ。いっぱしのその辺の男のような俺も愛される俺なのだ」
バドルは
「なんだと。おかしいな。俺の方が似合うだろう」
最近人間の街に行ってるせいで人間っぽい服装にも板についてきた。バドルはイケメンの野菜売りのお兄さんなのだ。主婦にも人気だ。
ファルオスは
「そのタオルはおっさんなのだ。ダサいのだ」
ぷくくって笑ってる。白のタオルのせいで今の服装も全部台無しになっている。粗品の安いタオルだからだ。
バドルは
「なんだとー‼これは畑に寄って来たからだ‼」
今にも掴みかからんばかりのテンションだ。二人はギリリとにらみ合う。
いつの間にかそこにいたアイディーンは静かに腕を組む。二人、本当にすぐこんな風になるな……
アイディーンは
「帰ってきたか。ちょうど出掛けようと思っていた」
隠し通せる訳もない。
アイディーンは友達とか思いやりとか、ファルオスにはもっと必要かとは思うのだ。ファルオスには実は心から話せる相手が自分しかいないからだ。薄々気づいてはいた。それも魔王の時は良かっただろうが、これからのファルオスはもっと愛される面を自分以外にも見せてもいいと思う。
バドルは
「なんだと?行くぞ。どこだ?」
しっぽでも生やしてブンブン振りそうだ。
アイディーンは
「動物園だ。行きたいなら早く支度しろ」
そう言ったらさっさと行ってしまった。
ファルオスはムスーッとする。二人っきりを邪魔される黒い存在を許せるわけもない。愛されているか不安な男は不安定なのだ。
(アイディーンはとことん自分を軽んじている。もう、言ってやるのだ。こしゃくなクソアマなのだ。美人と思って世の中なめてるのだ‼)
ファルオスのフラストレーションは貯まっていく。
アイディーンが時間通りになると
「さぁ、行きましょう」
サラリと髪をひるがえし、膝たけまでのスカート。上品に見える襟のついたワンピース。
ファルオスは
「はわっ⁉」
アイディーンは女の子の姿。そう、アイリーンバージョンだ。
アイリーンはいくらか恥ずかしそうにしながら、カーディガンを手に持ち
「待ちました?」
清楚でかわいいい表情はひた隠しにしてるが、少し照れているようだ。
ファルオスは
「かわいいのだーっ」
憎さ余って可愛さは百万倍だ。
アイリーンは
「ありがとうございます……」
かわいいとか言われるの慣れない。キュッと恥ずかしさをこらえて澄ましてる顔めちゃくちゃかわいい。
バドルは
「………」
ポカンとしている。
アイリーンは
「ポカンとしないでください。さっさと行きますよ」
通りすがりざまにほっぺたを人差し指で押した。しまりない顔ででれでれ見られているのは嫌だからだ。
ファルオスは
「バドルの固いほっぺなん触るなんてどうかしてるのだぁ‼俺をつまむのだ。早くするのだ」
好かれてるか不安な男はやはり焦る。
アイリーンは
「ほっぺた好きですね?」
自分のほっぺ好きも棚にあげて言う。これはわざとなのだろうか。踊らされているのだろうか。
アイリーンはその細い白魚のような指先で
「はい、ぷにっーっ」
ファルオスのほっぺたをつまむ。
ファルオスは
「あーっ‼」
怒りを向ける先がなくなって、とたんにお触りされる喜びに変わる。朝からアップダウンが激しい。ほっぺた触られる喜びは、もはや性根に叩き込まれている。
アイリーンは
「まぁバドルより柔らかいです」
そんな呟きで、ファルオスの心は天にも登ってしまう。
バドルは悔しそうに自分のほっぺたつまんだりしてた。やはり鍛えすぎた男のほっぺたは固い。体脂肪も少ないせいだ。黒いから色のイメージからも固い。
アイリーンは
「早く行きますよー」
そう言って馬車の方へ手招いた。




