ピクニック行こう3
飛骨竜は口笛の音だけで呼ぶことができた。優秀な彼らはアイディーンの指示を良く聞く頭のいいドラゴンだ。骨だけの姿で上級モンスターの彼らは知性も高い。乗る人や言う事を聞く人は選ぶ。そんなアイディーンの相棒達なのだ。
城の最上階。飛骨竜専用の離着陸用のスペースに、三人が集まっていた。風は穏やか。天気は晴天。ピクニックにも、飛骨竜のフライトにも申し分ない。
金髪のイケメン、ファルオス
赤髪のイケメン、アイディーン
褐色のマッチョ、バドル
乗り込むアイディーンの手にはバスケット。そして、背中のリュックには数々のピクニック用品。
それぞれ飛骨竜に乗ったのを確認し、飛び立つと、アイディーンが道を示すように二人を先導した。飛び上がるとすぐに風を捕まえて、その自由なまでの世界に圧倒される。
久しぶりのこの感覚。上空からの景色は美しく、地平は輝く光に溢れ、限りない森や、遠く広がる湖が見えた。そびえ立つ山々も、ふんわりと雪をかぶって美しく煌めいた。風が心地いい。こうしている時は悩みも忘れられる。アイディーンはしばしの間、業務と言う物を忘れた。
そう、昔の事……自由に乗り回していた時だ。先代の魔王様会ったのは。
『有り余る手腕、私のために尽くすがいい』
彼はアイディーンに自分の子を託し亡くなられた。先代の勇者との戦いによって……
その託された子が、ポンコツ、ファルオスだった。
「みーろー。うんこの形の雲だ」
人の気も知らないで、なんてバカな発言。
アイディーンはたしなめる。
「いいえ。ソフトクリームですよ。せめて」
バドルは眉をしかめた。
「そんなソフトクリームはいらないな…」
もう少し大人になっていただくわけにはいかないのだろうか。借りにも先代の魔王様の血を引いているから、どこかでピリッとはすると思うのだが……
それでもまだ10才のファルオスは楽しそうに視界にあるすべてを見たいのだろう。目がキラキラしていた。
もうすぐ30分たつだろうか。目的地の場所が見えて来る頃だ。
気候の良い豊かな森に抱かれた、のどかな平原。そしてモンスターもほとんど出ないため、人もハイキングに訪れるという。
飛骨竜を他のハイキング客に見られないよう、少し離れた森の近くにおろし、また五時頃頼むな。と言って空に放つ。
ファルオスが
「なんで森の中なのだ?」
不満気だった。
アイディーンは涼しい顔でサクサク進みながら
「こうやって、少し歩く事でワクワクが増すでしょう?行きましょう」
と言っても本人はワクワクしてる訳じゃない。これはあくまで仕事なのだ。
なのに、さっきからすぐそばで、バドルが目を輝かせ無言で走り回っていた。なんだ。暑苦しい。意味わからない。
アイディーンはイラっとして
「置いていくぞ。こっちだ。」
さっさと進むに限る。
我に帰ったバドルは
「あ…ああ。」
正気に帰ったようにアイディーンに続いた。方向はバッチリでしばらくいくと、開けた場所にたどり着いた。
視野が一気に広くなる。その視界に広がるのはお花畑だ。風すらもかぐわしく吹いてくる。バドルは
「花だー‼」
アイディーンの横を駆け出した。
アイディーンがビクッとした。バドルは気が狂ったように転げ回っていた。そして、尻から狼の尻尾が出て、ブンブン振っている。
バドルは狼男系の魔物なのだから、たまに自然に帰りたいのだろう。よくある犬の光景だ。
アイディーンは
「やれやれ、バドルはほっておきましょう。ファルオス様」
促す。
ファルオスは
「あれ…楽しいのか?」
やや、警戒した目で見ている所を見ると、あれが異常な動きだとわかるのだ。アイディーンは
「あれは、まねしたらいけないやつですよ?」
しずかな声を出して言ったのだった。まぁ、真似はしないか。恥ずかしいもんな。
さて、花があまり咲いてない草地にレジャーシートをひいて……
リュックからそれを取り出し、広げていく。ひらりとひるがえる、そのペラペラしたものに、バドルが飛びかかった。
「バウー」
黒い影がかすめる。もはや、姿形が黒い狼へと変わっていた。アイディーンは少し切れていて
「このっ、邪魔をすると毛を刈りますよ」
思わず怒ったのだった。爪が引っ掛かったら一撃で破かれてしまう。それぐらい爪とがっているだろう。軽くじゃれつかれたらたまったもんじゃない。
そしたら、花畑に、あぐらをかいた男が
「わりぃわりぃ」
全裸だった。
「きゃー」
「痴漢だわー」
「いい男ー」
通行人の女性に目撃されたようだ。しかし、若干喜ばれた空気もあった。その女性達は逃げてった。
アイディーンは
「さっさと服着てください。もう狼にならないで下さい」
怒り狂った視線をむけたのだった。魔物ってバレるとのんびりしようとして来た人達にも迷惑だ。全裸もまたしかり。
なので、バドルは
「わりぃわりぃ。さーて、服どこかなー」
花畑の中を探し始めた。
この男にとって、全裸はあまり恥ずかしい物ではないらしい。
隠そうともしない。アイディーンは、次こそ邪魔されずにレジャーシートを敷く事ができた。
ファルオスが
「わいせつ罪…そうだろ?逮捕じゃないのか?」
女性にも目撃されたし、人間の世界では危ない犯罪だ。逮捕だってされそうだ。
アイディーンは
「ああ。あれは人間の世界の話です。魔物も少しは気にするべきですね。まねしちゃいけませんよ?」
いい反面教師だ。ファルオスは
「うむ。実に恐ろしいな」
バドルの黒い尻が、太陽を照らし返した。
それを見ないようにしながら、アイディーンは
「さぁ、ファルオス様。もう12時ですよ?お昼にしましょう?」
なかなかバドルの事は無視して話しを進めた。
バスケットをファルオスの前に置いて、皿と紙コップも配る。その頃には服を着たバドルがやってきて、
「ふー。久しぶりにはしゃいだ」
なに食わぬ顔でレジャーシートの上に座った。
(もう、一生はしゃぐな)
アイディーンはそう思った。怒っていても仕方ない。嫌な物を見せられたが、忘れよう。
アイディーンはファルオスに向き直る。ニコッとして
「さぁ、ファルオス様。景色を楽しみながら、食べましょう。こんな自然の中で食べると味が違うんですよー」
内心少しもウキウキしてない仕事モードの男が言った。
バドルが
「どれどれー」
手を伸ばして来たので、アイディーンがその手をパチンと叩き、
「ファルオス様が先だ。」
たしなめる。この側近ナンバー2め。厳密に言えば、側近ナンバー1の俺が手をつけるまで、お預けだ。
ファルオスは
「ふむ。どれどれー。」
手を伸ばし、ライ麦のパンに挟まれたハムとチーズのパンを手に取った。
美味しそうに食べる。それを見届けてから、アイディーンは
「私達もいただきましょう」
食べ始めた。地面が近くなって、近くを蝶が通っていった。花畑の蜜の香りにでも誘われたのだろう。至るところて飛んでいて、とても心安らぐ光景だ。
それを見てるのはアイディーンだけで、驚くような早さでサンドイッチが減っていた。それに気づいたアイディーンは
「こらこらー‼風景を楽しめと言った。命一杯口に突っ込むんじゃない。意地汚い」
ファルオスもバドルも同じ状態だった。やっと止まって、モグモグ噛んでから飲み込み、ファルオスは
「だって、バドルが……とられるかと思ったのだ。」
しゅーん、としていた。
バドルは、
「こんなものは早い者勝ちだ。群れのルールではそうだ。生き残りたかったら食う。」
ドヤ顔だ。そんなバドルのこと頭をスコーンと殴ってから、アイディーンは
「もうバドルにはお預けです。」
しっしっと追いやった。そしたら、バドルはもはや、あの一瞬でたらふく食べたので、
「はー。最高だなー。ピクニック」
そういって、そこでゴロンと転がった。
休日のおっさんみたいだ。なんてアイディーンは心の中で毒づきながら、ファルオスに
「ファルオス様も楽しんでますか?」
聞いたら
「いや、肉だろ。バーベキュー」
アイディーンは、怒りで、そこの草を根こそぎむしってしまった。心を落ち着かせろ。
…こいつは10歳、こいつは10歳…
そして、再び笑顔を作ったアイディーンは
「今度やりましょう。私も食べたくなりました」
それを聞いたファルオスは
「はい、母様」
などと言ったのだ。
アイディーンが凍り付く。ファルオスはハッとした顔で間違いに気づいて
「あっ、アイディーンだ、間違えた。あまりにも母様だったから」
ちょっと恥ずかしそうだ。
バドルは
「なら俺は父ちゃんか?」
話しに乗っかってくる。
とたんにアイディーンはバドルを殴った。
パシーン
アイディーンは
「殺す。黒犬‼」
お前は許せん‼
ついでに母でもない‼
すべての殺意を向けていた。バドルは挑むような目で
「へっ、俺を殺せるか?試してみようぜ?」
ゴゴゴゴゴ…
視線が交錯した。闘気だけで、空気が震える。
そしたら、ファルオスが
「アイディーン。茶」
そう言った。
アイディーンはグッとこらえて、こらえて、こらえてから、
「はい…お茶です」
うやうやしくお茶を水筒から入れるのだった。




