好きでこえれぬ物3
ファルオスと出会って10年の月日がたつ。産まれたその日からの付き合いであるファルオスは他の子供のように泣いた事がない。少なくともアイディーンの前で涙を見せる事はなかった。
魔王である彼は強く、力でも、立場でも負ける事なんてなかった。そんな彼が涙し、膝を折った所を初めて見たのだ。
涼しい顔をしていたアイディーンは、心の中で動揺していた。強く、折れる事のないタフな心を持った男が今、泣いている。
その涙は身勝手な物ではなく優しい物だった。
柔らかく抱き締めたその震える体……涙で濡れたそのほほ。10才のその体に見あった幼い心。
女の子の姿に変わったアイディーンは、アイリーンの姿で冷静な顔をしていても、まだ動揺したままファルオスの頭を撫でていた。女の子の姿になったのも、動揺してどうしたら泣き止むかって所だった。
特別な産まれの彼は人と違う苦しみを背負っていかなくてはならないのが、この人なのだと気づいたのだ。アイリーンはファルオスの頭を撫でながら、産まれてくるこの人の子供には絶対にそんな悲しみは与えない。その悲しみを一緒に包み込んであげれる自分になりたい。
そう思った。
ファルオスは
「……悲しいのだ……」
そう言う。まだ悲しんでるのだろうか。
そうか。ファルオスのみんなと重ねられない苦悩はきっとすべて理解してあげる事はできない。だからこそ、こうして抱き締めていたい……
そう思ったら、ファルオスは
「こんな子供の姿じゃ……何にもできないのだ」
泣いてるとばかり思っていたファルオスはこの胸で涙を拭いているものとばかり思っていたが、静かにその柔らかさを堪能していた。
「……」
アイリーンは言葉を失った。
ファルオスは
「おっぱい柔らかいのだ……」
幸せそうな顔だ。
アイリーンは胸にうずめたファルオスの顔を引き離し
「……もう泣き止んでますね?」
そしたらファルオスはニコッとする。そのほっぺたも、目も涙で濡れているけども。そしたら、その痛々しさも、愛しくて……
アイリーンはクスッと笑って
「もう泣き止んだなら、おやつ食べませんか?今日のおやつはクリームどら焼きですよ?」
ファルオスはふふーっと笑って子供のようにもじもじした後
「食べるのだ」
アイリーンはファルオスのこの子供っぽさは本来なかった時を取り戻そうとしてるようで愛しかった。アイリーンは
「そのままでいいんですよ。ありのままのあなたがいいです」
そう言った。
そしたらファルオスは
「……」
ファルオスは少し黙ったまま、間があった。
アイリーンはファルオスの手をひいて
「行きましょう」
ファルオスも
「行くのだ……」
二人、暗い倉庫から手を繋いで出てきたのだった。
思ったのは、愛してるこの人のために、それでもいいんだって気づいたこと。人並みの幸せやなんかが欲しい訳でもなく、赤ちゃんがほしいからとかそんな気持ちでいた訳でもなく、ただ二人、一緒にいたいと言う事だった。
そしたらこえられるのだ。ただ愛した人と一緒にいれるのは、それだけでとても尊い事だと思うから。




