絵を子供ぶって書くのだ3
とりあえずコスモスの咲く広場の辺りにピクニックシートを広げ、それぞれ好きにさせる事にした。
なんせ、三人は中身は大人で結構な魔物なので、連れ去られても、だいたい返り討ちになるのが関の山。セレーディアはそこでくつろいでいるだけでいいらしい。
チビッ子姿の三人はとりあえず何枚か書いてみようとの事で、コスモスの前でスケッチブックにえんぴつで奮闘し始めた。
その小さなファルオスと、バドルの後ろに座ったアイディーンは
コスモスを書きながら
ああ、ファルオスの白い右のほっぺと……バドルの黒い左のほっぺ……もっとこう……寄ってって、ピターッとくっつかないかな。アイディーンは思う。ファルオスとバドルの二人の距離がほどよく空いてるそこ、くっついてほしい。そして、むいっとしてほっぺたとほっぺたくっつけてほしい。
だんだんアイディーンのスケッチブックに二人の姿が書き出される。二人の少年がピッタリと寄り添い、ほっぺたをくっつけて絵を書いている所だ。
アイディーンの妄想は止まらない。それをセレーディアがのぞきこみ、
「まあ、そうなったのね」
決して現実ではない世界。もはや、コスモスなんて背景だ。
セレーディアは指差して
「ここに、小さなタンポポを描くといいわ」
妄想に花を添える。
ちょうど二人はこのタンポポを見て、コスモスなんて目に入らないように、競うように書き合ってるようで微笑ましい。アイディーンは
「お母様……わかってらっしゃる……」
もはや垂涎物だ。アイディーンの妄想はタンポポという花を飾られ、現実とは離れていくが物語を感じさせる作品にはなった。
セレーディアは他の二人の絵を眺める。
ファルオスはアイディーンとおぼしき女の子を書いていて、一応アドバイス通り人に見えるように書かれている。これならまぁ、やんちゃな10才の男の子が、好きな子書いたんだなーって伝わる範囲だろう。下手なりに一生懸命で微笑ましい。むしろ、下手だからこそいいのかもしれない。みずみずしい感性だ。
バドルの絵を見たら、なかなか上手だ。コスモスはちゃんと描かれて、影も綺麗に入れながら書いている。ちゃんと大人が描きましたという風情。ここで、いきなり七色に塗るのはどうだろうかと思うぐらいだ。10才ならこれは大賞狙えるかもしれない。
セレーディアは二人にもアドバイスしようと思ったが、このままで良さそうだ。
やたら鼻息荒いアイディーンの後ろから見たその姿を見つめたのだった。
アイディーンは書き終わり、夢一杯の大作にすっかり満足していた。
すると、目の前で一生懸命に書いてる二人の姿が気になる。
バドルは真剣に絵に向かい合っている。ファルオスはうーん。なんか美人にならないのだーって顔だ。
そろそろ休憩はさんで、ほっぺたつまませてもらってもいいだろうか?真面目に頑張ってるバドルにはいいにくい。なのでアイディーンはファルオスの所へ行き
「ファルオス様。いい事しましょ?」
こそっと言う。ファルオスは驚いた顔で
「いい事……なのだ?」
それを言うとアイディーンはコクンと頷き
「ほっぺた……いいですか?」
目を潤ませてくる。ファルオスはわかっていたけど、ちょっとがっくりしながら
「いいのだ」
筆を置いた。アイディーンは腕を伸ばし、そっーと指先で撫で、
「いいです。すっごくいい」
その張りの良さとすべすべさを堪能する。そのふくよかな子供ならではのほっぺたは極上。この感触……まず、こうやって最初はそっと触れながら優しくしますよーって油断させていく。
そして指を折り曲げて、その指の背で撫でていく。ちょっとこれから揉んでくかもしれないですよーって言う気配を感じさせておく。
そして親指……からの手のひらを沿わせていく……
「あああ……」
アイディーンは悶える。手のひらにしっとりと馴染んでくる。たまらない。この辺まできて、さらに嫌がる様子を見せなかったら一気に……
「ああーーーーーーっ」
アイディーンはもにゅっと揉む。ファルオスの凛々しい顔がむいっと変わって
「めちゃくちゃ伸ばすのだ……」
思ったより引っ張る。どこまで伸びるかって所を確かめられているのだ。そんなアイディーンの目はキラキラとしている。アイディーンは
「素直なほっぺですねー?」
なんか誉められてるようだ。しかし、素直なほっぺの意味はわからない。ファルオスは
「いいほっぺなのか?」
「いいですよ。すっごくいいです。素直部門では百点です」
そんな話がチラチラ耳に入って仕方なかったバドルが、
「まったく意味がわからないのだが……」
そろそろ突っ込みを入れた。バドルはもはや、集中して書けない。こっちもそろそろしてもらってもいいだろうか?バドルは
「俺は何点だ?」
等と言う。アイディーンはドキッとしながら
「えっ……」
キュンってしてる。バドルは
「俺のほっぺたは素直じゃないのか?」
そう言って近づいてくる。ファルオスは
「固くて0点なのだ。岩石みたいなのだ」
だから、しっしとしてくる。アイディーンは
「もう。子供のほっぺにそんな物ある訳ないです。そんなの鍛えすぎてほっぺたまで固くなったオッサンぐらいです」
そう言って、バドルが自ら言ってきたのをこれ幸いとばかりに
「さぁ、来て下さい。おいたはダメですよー?」
等と中身は大人の男を煽った。バドルはぐっとこらえ
「……ああ」
などと短く返す。ファルオスが
「むっつりスケベなのだ」
プリプリ怒っている。
アイディーンは子供にもてるのは最高なので、そんなファルオスの姿もいい……と思う。
「ファルオス様、待っててくださいね。バドルのを採点します」
ファルオスにしたみたいにさわさわと撫で始める。最初は指の腹を使ってその質感を楽しみ……
「ああ……」
なんてすべすべ。バドルのほっぺはファルオスほどボリュームはない。青年へと成長しようとする気配を感じさせ、それでも子供としてのほッぺの柔らかさ。これは大人になろうとする戸惑いを表現するかのようなのだ。
「わかります。その気持ち……戸惑いと不安」
アイディーンの不吉な呟きに、バドルは
「いや、そう言った物はないが……」
何をほっぺたから感じ取ったのだろう。アイディーンは
「しーーーっ」
そう言って、何もかもわかってますよーって顔してくる。だからバドルは取り敢えず黙る。
アイディーンは指の背で撫で、そしてそっとほほに手を添えていく。
「はあぁぁぁ」
なんて……なんて伸びやかなほっぺた……ファルオスより伸びはいい。ファルオスはふんわりしているのだが、バドルのほっぺたは非常に伸びがいい。
バドルの険しい表情もむいっと変わっていく。アイディーンは
「ああ……いいです。未来に羽ばたいていく……不安やなんかを退け、飛んでいきます……」
なんの話をしているのだろう。どこか飛んでってしまったのはアイディーンの方だ。恍惚としている。バドルは
「何点だろう?」
抽象的すぎて、ファルオスに勝ったかどうかわからないのだ。アイディーンは
「ふむ。そうですね。伸びやかな自由に満ちたほっぺたですね。頑固な子が見せるこう言った少年のような心はいいです。したがって素直になれない。ツンショタ百点です」
ファルオスは
「納得いかないのだー」
等と言う。アイディーンはバドルのほっぺたに片手を残したまま、ファルオスのほっぺたもなでなでして
「そもそも、子供のほっぺたに優劣つけようなんて。子供はみんな天使なんです」
アイディーンにとったらそう言うことらしい。つまりほっぺたでは優劣なし。バドルは
「ならアイディーンはどうだ?」
そっと手が触れる。アイディーンは
「おいたはダメって言いましたよー?」
ファルオスも
「自分だけ触るのなんてずるいのだー。俺も揉み揉みするのだ」
もにゅっとほっぺた握られた。子供に両方からほっぺた触られる……
「ああ……悪くないです」
子供のもみじのような小さな温かい手。その手がペタペタと触れてくる。なかなかアイディーンは幸せそうな顔するのだった。




