煩悩を飛ばす滝3
滝の近く、飛骨竜をおろし、アイディーンは滝を見て、嬉々としている。
こんなに自然好きな人だったか?
バドルは不信な目で見るが、滝を背負った姿を見ると、やはりアイディーンは美しい。これで女の子になってくれたら、倍……いや、三倍。振り返ったアイディーンは妖しい微笑みを浮かべ、さながら滝に引き込む美しい水妖……
アイディーンの向こうには、滝行などと生易しいのは一切抜きの打ち付ける滝。この滝は200メートルより上から打ち付けてくる。
本当はそこの滝の後ろ側に窪んだ水のかからない場所があって、そこでチョロっと上から流れた水を浴びて、ここまで来た人は御利益を得て帰ると……人間はそうしてる。
こっちの、ガチな滝は無欲って言うか、この滝にあたると生きている意外望まなくなるという、死者も出た事がある滝なのだ。まぁ、それは人の話。魔族なら大丈夫だろう。しかし、魔族は滝なんて浴びにいかない。
アイディーンは
「ほら。マイナスイオンですよ」
清々しく空気を吸い込む。魔族にマイナスイオンは必要なのだろうか。
隣でファルオスもスーハーやってみるが、ただの空気との違いはわからない。しかし
「空気がうまいのだ」
要点はついてる。
バドルは
「それで……まさかそっちの滝浴びるのか?」
一応聞いてみる。
アイディーンが湧き水みたいのでキャッてしてるのだけ見たい。しかし、アイディーンの視線の先は常にゴウゴウと空気を震わすこっちの滝なのだ。
アイディーンは
「もちろんこっちです」
ガチな方を指差す。
そっちの滝は罪をおかした僧侶に罪を吐かせるために使ったりした滝だからあんまり良くないと思う。バドルはそう思うけど
ファルオスは
「こっちなのだ」
ついでにファルオスも、なんかのっかってくる。
その目は、チキンはそこの水溜まりで行水してるのだって顔だ。アイディーンの前だから言わないけど、目で語ってくる。
バドルは
「よし、やるぞ」
受けてたってやる。そして、そこの調子のった10才のやつ、泣かす。
アイディーンは
「じゃあ、始めましょう」
バザーと上着をひるがえした。その下、まさかの白装束。家から着てきたってやつだ。
清々しいまでの白は、滝に似合うが、これから辛い目に合う証でもある。
アイディーンは涼しい顔で
「早く着替えて下さい」
準備万端で言った。
バドルのやつはバドルのサイズピッタリだ。ついてくる事を前提に下準備していたアイディーンのあざとさを感じられる。
無欲などとさせて、諦めさせるのが狙いだろうが、そうはいかない。
ファルオスも着替えて
「白無垢なのだ」
きゃははってしてる。しかし今、白無垢三人着てる事になるのだが?
そうしているとアイディーンは
「さあさあ、行きましょう」
足取りも軽く、歩き出した。
滝に近づくにつれ、跳ねっ返るしぶきが空気を含んで風となり、霧吹きで吹き付けられるような飛沫が体に付く。音も大きくなり、話しもなかなか難しいまでの轟音だ。
足元には水が溜まり、その冷たさは、凍りつきそうなほどの温度だ。魔物だから耐えていられるけど、進んで触れたくない。
滝の裏から回って真ん中らへんまで来た時、アイディーンは滝に向かってうやうやしく手を合わせ、頭を下げる。滝行に入る前にこうするのが礼儀らしい。小綺麗な背筋のいい姿が前に屈められた。
自然とファルオスはアイディーンの尻を見る。桃みたいにキュッと上がってるのだ。白装束ごしの尻もいいのだ。
そうと思われてる事は知らずアイディーンは、ゆっくりと歩を進めた。
ドドドド…………
とたんにアイディーンの姿が消えた。
いや、あった。はるか下方の揉まれた波の向こう。波の合間に消えそうだ。
ファルオスが
「なーーーーー⁉」
一瞬で流され過ぎなのだーー‼
アイディーン溺れてる。時折沈んだりしながら、もはやヤバい。流れが早く、すぐにでも見失ってしまいそうだ。
バドルは
「行くぞ‼」
果敢に飛び込んだ。
すると、瞬く間にバドルの姿も水に揉まれてどこかへ行ってしまった。
ファルオスは
「あわわわわ。行くのだ」
覚悟を決めて、飛び込んだ。
ザバーン
滝を通る時は痛かった。けど、すぐ水に揉まれて上も下もわからなくなった。アイディーンはどこかなんて見つからない。水の中はかき混ぜられて空気で真っ白。
ファルオスが、なんとか顔をあげると、岩に捕まってるアイディーンが見えた。
ファルオスは水をかき、アイディーンの近くにやって来た。
ファルオスは
「ぷはっ、アイディーン無事なのだ?」
そしたら、アイディーンは首をふる。もはや、岩に捕まってるのがやっとのようだ。
ファルオスはアイディーンのそばまでなんとか岩づたいにやって来てアイディーンの体を支えた。
「岩に登るのだ」
背中から支えて、流れが緩くなるようにしてやる。
アイディーンは言われたように岩に捕まってなんとか腕をかけた。その下から支え、
「よいしょーなのだー」
ちょっとアイディーンの桃のようなお尻を触った。
アイディーンは一瞬咎めるような目をしたが、岩に登り
「手に捕まって下さい」
今はそんな事言っていられない。お尻触られた事は咎めなかった。
ファルオスに手を差し出す。その手に捕まって岩を登った。
大きな岩だ。それでも、二人いるのがやっとで、ファルオスは自然にアイディーンを抱き締める。
アイディーンは少し逃げようとしたが、逃げる場所もない。そのまま意地をはって暴れてしまってはどちらかが落ちてしまいそうだ。黙ってその身をファルオスにゆだねる。
ファルオスは
「ケガはないのか……?」
たずねながら、抱き締めた冷たい体が震えているのがわかる。今の一瞬で奪われた体温をファルオスは変わらず温かく、ぬくめてやる。
アイディーンは震える視線を上げ
「ないです……ファルオス様は?」
聞くと
ファルオスは安心させるようにニコリと笑い
「魔王は平気なのだ」
そう言って、温めるようにさらに優しく抱き寄せる。アイディーンは
「良かった……」
震えながら、やっと少し安心したようだ。ファルオスはアイディーンの髪を撫でながら
「大丈夫なのだ。このぐらい」
それに、水もしたたるアイディーンを逃げられる事もなく抱き締めている。アイディーンは艶のある唇は濡れていてまだ少し震えていた。
そう、ちょっといい想いをしている。
アイディーンはまだ安心しきることができない。バドルが流されて行ってしまったのが見えたからだ。溺れながらバドルが飛びこんだのはわかったが、ここにたどり着いてないという事はもっと下流に流されてしまったのだろう。早く探してあげないと大変な事になる。
「ごめんなさい。俺の勝手でこんな事に……」
そう言った。愁傷な態度は珍しい。
ファルオスはアイディーンの濡れたほほにキスしながら
「謝る事はないのだ。妻のピンチに旦那は駆けつける物なのだ。身をていしても守るのが男の喜びなのだ」
そう言う。けど、キスされてもアイディーンは拒まない。ファルオスは
「白装束セクシーなのだ」
合わせが揺るんでいるし、これで透けてくれたら最高だが、水浴びる前提の白装束は透けない。
アイディーンは
「………」
悪かったと思ってるせいか、何も言い返さない。が、今は違うと思う。
しかし、ファルオスは今ならいける。と思う。
「アイディーン……」
キスしようとした。
アイディーンは逃げる場所もない。けど、やっぱり
「いや……ちょっと……」
少しは抵抗する。狭い岩の上、抵抗しすぎたら落ちてしまいそう。
抵抗むなしく、さらに強く抱き寄せられて唇が重なってしまう。
ポン
やはり女の子に変わる。
「うっ」
その体が儚くなってできた隙間をさらに埋めるように抱き寄せ、ファルオスは
「綺麗なのだ」
濡れた髪をすく。アイディーンが逃げ場がない。
「やっ……ちょっと」
困っていると、ファルオスは
「このまま、滝のような猛り狂った気持ちに身をゆだねてしまうがいい」
本当に何言ってんだ‼
アイディーンは悪かったからと思うけど、これ以上はちょっとまずい。助けてもらって悪いとは思うし、さっきまでちょっと見直してたけど、このスケベはこれ幸運とばかりに何かやらかしそうだ。
バドルがどうなったかわからない今、こんな事してる暇はない。
ファルオスは
「さぁ、旦那の愛を受け入れるのだ」
「この‼スケベ。落ちろ、落ちろ‼」
グイグイ押すアイディーン。ファルオスは本当に落ちそうだ
「あっ、押しすぎなのだ。やめるのだ。落ちる、落ちるのだーー‼」
アイディーンは思った。
本当に落ちて、無欲になってみろ。このヤローと思った。




