煩悩を飛ばす滝2
どこへ向かうとも聞かされぬまま、飛骨竜に乗る事一時間。
すっかり飽き飽きしたファルオスは
「あー。尻が割れたのだー。アイディーンのせいなのだ」
もはや、愚痴しかない。
アイディーンは
「今、いくつに割れてます?」
突っ込まずにはいられない。3つに割れたんだとしたら、もはや見せてみろである。しかし、本当に見る勇気はない。
ファルオスは
「ちょうど2つなのだ」
ちょっと相手をしてくれた事が嬉しいらしい。ニカッと笑って言った。
アイディーンは
「じゃあ、4つぐらいに割れたら教えて下さい」
無茶を言ってみたが、ファルオスは機嫌がすっかり良くなっていたので
「善処するのだー」
ニコニコしていた。
バドルが
「おいおい……」
一人だけまともなリアクションしていた。
尻が2つ以上に割れる訳ないだろう。もはや、病院行けである。
それはさておき、小一時間も飛骨竜に乗れば、だいぶ遠くまで来れる。
岩壁がそのまま立ち上がったような山々の連なる霊峰。ミネルバ山脈。おいしい水でも知られる登山家垂涎の遭難確率の高い山だ。
アイディーンは青く輝く峰を見ながら、薄化粧した白い雪の輝きに見惚れる。もはや今も風は乾燥し冷たい。あの山の頂きはもっと寒いだろう。そんな山へ行こうと言うのか……
ファルオスが
「まさか登るのだ?」
ちょっと嫌そうに言った。体力はいっちょ前にあるだろうに出し惜しもうとする。
アイディーンは
「それもいいんですけど、今日は滝です」
そう言った。そして、眼科に見えるチョロチョロとした川を指差し、
「あの支流の先に見えて来るでしょう」
そう言った。
バドルは
「……寒そうだな」
嫌な予感その1。
この気温で濡れるのなんてすっごい嫌だ。
嫌な予感その2
そして、バドルはアウトドアが好きなので、レジャーの情報も見るのだけど、ミネルバ山の滝……聞いた事がある。
ファルオスは
「まだ見えないのだー」
退屈そうに視線を向ける。
アイディーンは涼しい視線を向け、
「ええ。もう少し。ふふ」
笑っていた。なぜだろう。麗しいのにちょっと怖い。
川の流れに沿って少し高度を落とし、キラキラとしたせせらぎが近くなる。チョロチョロとして音がいい。この支流には水が少ない。もう少しいけば見えてくるだろう。
轟音とどろかせる、霊水50にも選ばれた白亜の滝。その名を『無欲の滝』
バドルが顔をしかめ
「思い出した。あまりにきつすぎて欲がなくなるとかなんとか言う奴だな」
聞いた事があった。あまりに辛くて、早くやめたくて他の欲が無くなるほど辛いのだと。今からそんな所に行こうとしているのだ。
アイディーンは
「そうです。バドルは怖じ気づきました?」
聞くと
バドルは
「いや。無欲なんてならないな」
滝浴びたぐらいで……そんな事ぐらいでアイディーンへの気持ちが冷める事もない。
ファルオスも
「欲なんてなくなるはずないのだ」
気軽に言う。
アイディーンは
「そうですか。楽しみですね」
そう微笑んだ。なんかさっきから、怖い。
そしたら、遠く離れた所から轟音も響いてきた。心なしか川も荒れ、流れがきつくなっている。支流の合流地点、片方の河は太かった。ゴウゴウダクダクと水は白く空気を含んでかき回される。丸太もすぐ持ってかれそうな水流。この時点でここに立つのも大変だろう。
バドルは
「これは……やばいな」
川がこれでは、滝はもっとだろう。
アイディーンは少しワクワクしたように
「ちゃんと白装束も用意してるんです」
無駄に恐ろしい事を言った。
バドルは
「なんでそんな物」
なんか死ぬのか?って気持ちになる。
アイディーンは
「これが礼儀らしいです。諦めて着ましょう」
拒否権などない。のこのこついてきた奴には。
ファルオスは
「花嫁衣装と思って着るのだ」
ポッとほほを染めた。
それを見たバドルは花嫁衣装だと思って着ようとするファルオスもちょっとおかしいな。と思った。




