なぜそうなる1
色々感慨深い夜。大変だった1日の終わり、婚約した人に部屋に行きたいと聞けば、静かに頷き、今夜は眠れない夜になる……
「いいのか。アイディーン」
ファルオスはアイディーンと向かい合う。
ここはアイディーンの自室。
アイディーンは静かに目をふせ、男の姿のまま、少し考える間があった。
「いいえ、ダメしょう」
何考えてんだ。この変態魔王。そんな目を向ける。
自室に招き入れたのは今後の二人の話しをするため。なのに、色んな順序すっとばして何言ってる。
アイディーンのまったく高潔な瞳を見て、ファルオスは、待て待て。何を言ってるのだ。そんな顔をして
「結婚するって話しだったのだ。ついさっきの話しなのだ。なのに、どうしてそんな態度なのだ」
ファルオスの慌ててる顔に対して、アイディーンはキリッと、この変態めって顔を崩さない。むしろ、より強固な表情の変わったかもしれない。油断なく警戒してる空気がもはや悲しい。
さっきまでかわいく泣いていた顔が嘘みたいに、いつものアイディーンに戻っているのだ。
結婚しましょうって言ってたアレはなんだったのだろう。まさか幻か白昼夢で、鳩の羽の音がすごかったから聞き間違えたとかじゃないだろうか……
僧侶に傷も癒してもらったし、勇者一向は今夜城に泊まってもらってVIP待遇。
そんな接待も終わり、やっと二人っきりの時間を取れて、やっと本格的にイチャイチャしようというそんな時間ではないか。二人の心を確かめ合うのは今だと思うのに……
アイディーンはけっしてドアの近くから離れない。ドアも念のために少し開けておいた。
「そんな態度……ですか?」
まるで触れる者を凍てつかせる瞳でファルオスを見つめるアイディーン。
また惚れてると言ってる相手に対して……そんな人に何度結婚しようっていったのか忘れたのだろうか。
ファルオスは弱い。
そんな視線や、冷めた態度も破滅的に愛してしまってるのだ。美しいとか思ってしまうほどに。
「好きなのだ。でも、愛を確かめあったのに、どうしてそうなるのだ?もう結婚するって決まったのだ。だから、いいと言えばいいのだ」
もはや何の捻りもなく軽い言葉が飛び出す。その言葉に、即座にその軽い頭をサッカーボールのようにポーンと蹴ってやりたい気になる。
アイディーンは
「いいえ。まだ結婚してないです」
まだまだ男女の中と言う物を勘違いしてるらしい。この空っぽな頭の中には、空気の変わりに綿でも入れないといけないかもしれない。
そう思っているとファルオスは愛しさ余って憎さ百倍。
「もう婚約したのだ‼」
強引に抱きついてこようとした。
そんな甘い考えはすぐに見透かしてしまえる。
アイディーンはそんなの読めている。
「甘いな」
霧になって逃げてしまう。
ファルオスは
「なぜなのだーーーー‼」
ファルオスの吠える声が遠くに聞こえる。
しかし、アイディーンはスススーと霧になってどっかに行ってしまった。
アイディーンは暗い廊下の先、姿を現す。
やれやれ。すぐに手を出して来るなんて、思わなかった。なかなか紳士じゃない。
あの人も、今夜は二人の今後や、将来。想いを伝えあった感動やなんかの気持ちを残したまま、それぞれの想いを胸に別々に寝る……と。
勇者一向も城にいるというのに、何考えてんだ。
暗い魔王城の中を移動し、角を曲がった時
「……アイディーン」
ガシッと腕を捕まれる。
ギョっとする。いつからそこに。
その腕といい、あまりに真っ黒で気づかなかった。その見事なまでに闇の溶け込ませた男。バドルに
「ど……どうした?」
アイディーンは動揺する。
バドルは
「なぁ……どうしてだ。」
バドルの腕に力が籠る。
アイディーンは少し顔をしかめた。
バドルは
「うおぉぉぉぉ。なんであいつと結婚なんてすると言うんだーーーー‼」
泣くのか。
アイディーンはそれを見て、やはりメンタルが弱いなと思いながら、昨夜の事を思い出した。
アイディーンを守るために城に命がけで残った男。キスをしてしまった男……
「すまない。泣くな」
アイディーンはそう言った。
もっといい奴だったとか、幸せになってくれとか、そんな事言ったとたん勘違いしそうだ。
バドルは
「俺の方が命をかけて守る気持ちだってある。あんな仕事もできない、思いやりもない、わがままで、自分勝手な奴に………あいつは今回だって美味しい所だけ持ってっていつもじゃないか……」
本音がポロポロ。
アイディーンは
「そうだな……」
バドルはちょっとかわいそうだ。
バドルは光の早さで、その心の変化に気づいたらしい。
「アイディーン。俺と結婚するんだ」
そしたら、思いっきり抱きついてくる。
だから、それはアイディーンもすぐに見透かしてしまう。
「やですよーっと」
ササーと霧に変わって、その腕は空をきり、アイディーンはいなくなってしまう。
「アイディーンーーーー‼」
声が響いた。
霧はフワーと漂ってどっかに行ってしまう。
バドルは夜の闇の中、すぐに見失ってしまった。
アイディーンは思う。
霧になれるんだってば。
まったく、学ばない奴らだ。それに、頭の中が軽いと言うかなんと言うか……どいつもこいつもである。
アイディーンは飛骨竜の乗り場で風に吹かれる。
そもそも、やたらと好き好き言ってくるのは、あの男達が清い体である……という事があるのかもしれない。
アイディーンは婬魔なので、薄々わかってはいた。
なので色々抑えがきかないのだろうが、それをこっちに向けられるのはいただけない。
高い役職をになって真面目に清いまま生きてこれた魔族はあまりにも少ないのだが、ここに、三人もいる。
そうした事もあって狙われるのはわかっていても、そんな気軽に手を出されるのはもっての他なのだ。
それに、結婚もしてないのに……アホじゃないか。
アイディーンの貞操観念は古くからの日本女性のように鉄壁だった。
なので、結婚するって言ってるのに、それまで待てないファルオスも、結婚するって言ってるのに手をだしてくるバドルももっての他だ。
自分にとっては結構思いきった決断なのに待てないなんて、もはや切り捨ててもいいか?なのだ。
そうしていたらファルオスは
「アイディーン。ここにいたのだ」
現れる。
ファルオスは
「反省したのだ。ごめんなのだ」
しょんぼりと肩を落とす。
拒まれた事がよほどこたえたのだろう。そうは思えたけど、もうちょっと大人になって下さい。
アイディーンは
「反省しましたか?」
本当か?なんか怪しいな。
アイディーンはそう思いながらも優しげに
「ちょっと怖かったですよ。やめて下さいね」
締めておこう。
そしたらとたんに
「なーーーんちゃってなのだーーー‼」
掴みかかってきた。
アイディーンはそうだと思った。そう思って、体を反転させ、塔のヘリを蹴る。
その体は空を切り、塔の高いここから落ちていく。
ファルオスは慌てて
「アイディーン⁉」
その手を伸ばしたが、届く訳もない。
すると、何の合図も送らず、飛骨竜がその横を抜け、ファルオスの長い髪を揺らした。
飛骨竜はアイディーンの下に。
タンッ
身をひるがえして、猫のように着地する。タイミングはバッチリ。
アイディーンは涼しい顔で竜の頭を一撫でして、手綱を持つ。
それをファルオスが
「アイディーン。なんでそんなに意地悪するのだ‼本当は好きじゃないのか?俺を必要なんてしてないのだーーーーそうなのだ」
何か言っている。
アイディーンの長い髪がたなびく。
夜の月の下、骨の竜を操るアイディーンの姿は死を司る戦神のようだ。
やれやれ、あなたの為に死のうとした人が愛してない等と……本当に子供。
アイディーンは塔の周りをゆっくり回りながら、
「じゃあそうしますか?」
アイディーンの冷たい目がファルオスに注ぐ。
ファルオスは
「嫌なのだ。アイディーンがどう思おうと、気持ちは変わらないのだ」
そう一生懸命言う。
アイディーンは
「なら来たらどうです?」
少し意地悪だった。
ファルオスは迷いなく、塔のへりに足をかける。
そして飛んだ。
それは飛骨竜の動きを読んで、アイディーンのもとへ届く。
アイディーンは
「おっと」
その体を受け止めると、
「捕まえたのだーーー。もう離さないのだ」
そう言ってアイディーンの体に抱きついた。
アイディーンは
「竜の上では暴れたりしないで下さい。さあ、このまま、飛びましょう。体に捕まってて下さい」
ファルオスはアイディーンの背中にしっかりとつかまり、
「ああ。そうするのだ……」
そう夢を見るように言った。
アイディーンはもっとわかってもらいたい。
大切にしたり、想ったり……
雑に扱ってしまうようなそんな人でいいと思われるぐらいなら、なくていい。
そんな気持ちがほしい訳じゃないんだってわかってほしい……
そしたら、
「綺麗な景色なのだ。星も月も……そしてアイディーンも……とても」
アイディーンは振り返って微笑む。
そう、愛しい人とはこうして、かけがえのない時を重ねていきたい。
空の色、風の匂い……
同じ物を見て、同じように感じられるように。
そしたら、
「んーーーーっ」
ファルオスが耳元でなんかそんな声を出す。
とたんに、その唇がアイディーンの首筋に触れた。
ポン
ファルオスは
「あっ、女の子になったのだ」
もはや、首筋にキスされただけで………
アイディーンはかわいい顔に鬼のような表情を浮かべる。
ファルオスのその手は瞬時にウエストからスッと上に上がって、当たり前のようにそこへ。
むにっ
「おのれ……腐れ魔王‼」
ポーンと蹴りだした。
ファルオスは
「あーーーーーっ、ひどいのだーーーーー‼」
メリッ
地面に、角付きの人型にめり込んだ。
だいぶめり込んだ。
角も綺麗にしっかりと。
アイディーンはそれを見届け、
「ふんっ」
飛骨竜をひるがえして去っていった。
翌朝戻ってきた魔王。
ピンピンしていた。
バドルの方が深く沈んでいた。




