最後の戦い3
そしたら、そこの塀の辺りから
「あの………お邪魔します」
そう言って、怯えがちに顔を出したのは、この戦禍の渦中に似合わない平和ボケした瞳だった。桜色の長い髪、ウサギのようでとても勇者には見えない。しかし、こう見えてこの勇者はとても強い。
大軍を引き連れ、勇者自らここに出向いたのであれば、和平の条約など、破棄するつもりで来たのだろう。
アイディーンはファルオスの前に立ち
「勇者フィオルよ……まずは私を倒すがいい」
もはや、すべてのシナリオは消えた。いつかつけれなかった決着を、今ここでつけようと言うならば、もはや戦いは避けられない。
それでも体には力が足りずその体には、もはや盾としても役に立たない。その背負っている大きな剣で一閃されたら真っ二つだろう。ファルオスはその体を強引に引き寄せ、守るように前に出る。
「さぁ、お前の相手は私なのだ‼来るがいい」
ファルオスは魔王のように言う。
すると、その横からこれまた戦場にそぐわない少女がのぞく。
田舎ヤンキーのようにスカジャンを来て悪ぶってるような少女、アイラだ
「違うってば。手紙送ったのにちゃんと届かなかったのか?遊びに行くっていったろ?」
その横から冷徹な瞳をした少女も静かすぎる声でメガネを上げ
「ちょうどいい時に来たわ。平和条約違反ね。こんな事、許されるべきではないわ」
そう言った。
その横でとんがり帽子の少女が胸に着いた赤いでっかいリボンの胸を張り、
「ほら、なんか来なきゃって思ったの。あとで城周辺の薬草摘んでもいい?」
魔法使いのマヤもそう言った。
薬草?
アイディーンは思った。
髪の短い寡黙な眼差しなのに、蛍光色のメイサの上着を羽織った背の高い少女、サーラも言う。
「戦士として見過ごせない」
憤っていた。
アイディーンは
「……そんな事を信じるとでも思っているのか」
このタイミングに現れた勇者とその一行。大軍を引き連れ、自ら和平の条約を破るため現れた……そうとしか思えないじゃないか。
ファルオスはキョトンと
「助けに来てくれたって事なのか?」
こんな時にぽんやりと聞く。スっと魔力が少し収まったようだ。最終形態への変形もピタリと止まり、人の姿にまだとどめている。
フィオルは博愛に満ちた微笑みを浮かべた。いつかと同じように勇者からは優しさに満ち溢れた空気に包まれている。
あの時、負けを認め、平和の条約を受け入れた時と同じなのだ。
しかし、勇者と言えど、この大軍を前に何かできるとは思えない。むしろ魔王に味方した裏切者として人によって裁かれるだろう。
なのに勇者の瞳は揺るぎない。まるで何の危機感もないようだ。
「うん。今神と連絡ってて。人間ならなんとかなるから、すぐだから待っててねって。なんかお仕置きだかなんだか言ってるの」
ふんわりとこの戦場にそぐわない空気で言った。場の空気がふわりと和らぐ。
神……?
そしたら、空に黒く暗雲が立ち込めるように広がり、光を閉ざすように厚く覆っていく。嵐でも来るように空が鳴り、稲妻が走る。
戦いを繰り広げていた者達も空を見上げる。喧騒は断たれ静まり返った大地に強い風が吹く。すると、全軍に轟くようなような神の声が響いた。
『平和の条約を犯す愚かな者達よ。自らの恥ずべき行為を悔やむがいい。神の裁きを受けよ』
厚い雲の下、轟音が響いた。光と音、無慈悲に大地に降り注ぐ。一万もの軍の上、光の閉ざされた世界に閃光が煌めく。四方の空気を耳をつんざく神鳴りが揺らした。
ガラガラピッシャーン
人間達も一溜まりもない。なすすべもなく、あわただしく走り回る人の群れ。光は視界を染め、雷は景色を埋めつくし、白い光で見えなくなった。
そして、光が晴れていく。すると
バタバタバタ………
その大地の下、無数白い鳩が飛び立った。
すぐにその数は増え、一万もの平和の象徴である鳩が晴れていく青い空を雲のように神聖な白で染めていく。……飛び立つ音は耳に響き、空の下を飛散し、広がっていく。
厚く覆った雲が四方八方に散り、流れ始める。
光は注ぎ、争いに傷ついた大地を照らし、美しい地平までの景色は一枚の絵画のように、光のカーテンを描く。
すると神の声が聞こえる
『罪深き者達よ。1000キロの旅を終えた時、再び元の姿を取り戻すだろう。それまで自らの心に、平和の意味を問いかけるがいい。そして意味のわからぬ者は果てしなく飛ぶがいい……』
晴れ行く空に、まだ動揺を隠しきれないように四方八方に飛んでいく白い鳩達。白い紙吹雪のようにも永遠広がりを見せ、その羽ばたきの音は世界中に飛んで行くのだろう。その目が覚めるように美しい光景……まるで教えてくれるようだ。世界は平和に溢れ、美しいのだと。
戦いを繰り広げていた荒野の下、空っぽの鎧が残される。槍や剣……もはや、それを振るう主はいない。みんな鳩になって飛んで行った。
ファルオスは愛しい人と向き合い
「誰かが犠牲になる世界なんておかしいのだ……」
アイディーンをいたわるように、その目を見つめた。
ならば言ってもいいのだろうか。この心に秘めたトゲを抱き締めたような苦しい日々を送ってきたこの気持ちを……隠し、偽り、そして愛のために生きた日々……
自分の存在した未来を描く事を、どこか夢見ながらも否定してきた日々。愛してるなどと言えない日々……その重さ……あどけない子供のような心に、自分はいつも救われてきたのだと……
アイディーンの瞳は揺れ、こぼれ出す。長き時を、その愛を受け入れる事を拒んでいた苦しさから解放されて、未来が見えるのだ。
そのファルオスの瞳を見て、愛しい人を見るように、そしてお互いの視線が同じ感情を持って溢れ出す。
すべて終わったのだ。その想いに溺れてもいいのだ。
「結婚しましょう……」
涙に濡れた花嫁となるその瞳は美しく輝いた。
勇者一行はキョトンとする。
男同士が愛を誓い合ってるようにしか見えない。いや、薄々は気付いていた。なんかこの二人怪しいな。って。
いつかの戦った時もそんな空気で、魔王が大好きだって空気醸し出していたからだ。もはやお幸せにって空気だった。
女の子達には男同士って勘違いされたけど、結婚式に呼んでもらえれば誤解とけるから(笑)
……でも続く。




