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恋する魔王のスローライフ  作者: フローラルカオル
恋するレベル2
30/67

最後の戦い1

各近隣の国々の様子がおかしい。アイディーンの各国へ放った部下の報告が届き、アイディーンはそれの目を通す。


平和になった人間の国の動向は気にかけておいて不足はない。魔王や魔物の脅威がなくなった世界は、やはり平和になっていくばかりではない事はわかっていた。潰し合う国と国。異なる思想や、利益を貪り合う心はどこからも消えはしない。


しかし、アイディーンの脅威に感じていたのは、それじゃない。

今や魔王城は手薄になっている。勇者によって和平を結ばれた今、魔王は人間に手出しはできない。どこの国を潰すより先に魔王であるファルオスの元に来るのは明白。


そのために攻略が容易でないいくつかある城の、一番便の悪い所に陣取った。せっかく平和になった世界に、再び一石を投じる事になるだろう。

それがいつになるか……思ったよりのんびり構えてる暇はなさそうだ。






ファルオスは

「アイディーン。遊ぶのだ」

いつも通り執務室にやってくる。


そう言った。アイディーンはいつも通りの涼しい瞳を向け

「そうですね。なら一人でお泊まりできますか?セレーディアの所に」

そう違和感もなく言う。


セレーディアの所なら大丈夫。あの屋敷にはそれなりに備えがある。ファルオスはごねて

「なんでなのだー。アイディーンも行くのだ」

一人でなんて認められない。


そしたら、アイディーンは

「そしたら仕事が終わったら行きます。先に待ってられますか?」


そういつもと同じように嗜めるように言ったら、ファルオスは

「うーん。ならいいのだ。早く来るのだ。それまでアイディーンの家族に婚約者として恥ずかしくない振舞いをしとくのだ」


そしたらアイディーンは苦笑いした。そして

「ではお行儀よくお願いします」

そう言ったのだった。






ファルオスを飛骨竜で見送った後、バドルは

「やれやれ、最後まで能天気なやつだったな」


そう言った。アイディーンは

「ああ、でも、ファルオス様らしくていい。魔王の血が生き続ければそれでいい」

そう言って、背を向けた。これはずっと用意し続けていた。


アイディーンは

「お前だって最後まで残る事はない。俺だけいればいいんだ」


そう言ったらバドルは

「まぁ、犬死にぐらいする奴がいないと、魔王が死んだなんて演技、誰も信じないぜ」


不敵に微笑む。アイディーンは鼻で笑った。

「犬死にか……こんな時に笑わせようとするな」


バドルは

「はは、笑えたんなら良かった」

そう言って肩を揺すってメンタルの弱い男は豪快に笑って見せた。






アイディーンは髪を金に染めた。ファルオスと同じ、金のコンタクトレンズを入れ、角をつける。

ファルオスの情報は人間には極力でないように心がけてきた。だから、美貌と金髪とロングホーン。これだけで魔王と思うだろう。

そのために、アイディーンは前魔王様にファルオスの側近として置かれていた意味もあった。もちろん、力や、技量を買ってくれた所もあったのだが、ファルオスと、少し面立ちが似ている所があったからだ。



全力で戦った後、城に火をつける。そしてこの城と共に魔王と言う存在は闇に葬れる。



ファルオスはセレーディアと、父の魔王軍大将もついてる。せっかく平和になった世界でファルオスが生き続けてくれないと意味がない。






バドルは何羽かの鷹が魔王城に飛んできたその、足につけられた手紙を見る。

「来るな。三ヵ国参加で、魔法部隊も組織されてる。こちらにつくのは明日の十時頃。数は一万以上はいるな。」


アイディーンはファルオスの服を着る。すっかり魔王のような姿になってしまったアイディーンは玉座に座り


「やれやれ。ここに来るまでに少しは減るさ。障気の荒野や毒の谷……なんでそんな所に魔王城があると思ってる?」

そう言ったアイディーンの姿はもはや、魔王のようだった。



バドルは

「すっかり魔王だな。アイディーンの方が魔王なんじゃないか?」

軽く言ったら、アイディーンはいつもと同じ、涼しい瞳をして

「そうだろう。あいつは平和な所に生まれるべきだったんだ」



そう言ったら、ファルオスのあまり考えもなく笑ってる姿が思い浮かんだ。それを思い出して、自嘲気味に笑うアイディーンは美しかった。








ファルオスが生まれて10年。束の間の平和に身を置いた幸運な魔王ファルオス。

戦う事を知らず、守られてきたその人は平和を愛する人になったと思う。

その存在は平和を築く為に産まれたと言っていいかもしれない。野菜作りやピクニック……そんな物に興味を示し、恋にうつつを抜かしている。その他大勢のように幸せな時間を謳歌する。


命を奪われる危険のない場所で平和の尊さを知る事ができた魔王なんて今まで他にいないだろう。


なぜなら、絶え間ない戦乱の日々を刻む世界は生まれた瞬間から己の責務をその肩に、魔物を率いて生きるために戦う。その渦中の中で傷付き、甘さを一切許されなかった者達は有能な魔王になっていった。

その魔王達の長い歴史。刻まれた憎しみや恨み。同族を殺されたその声を引き継いできた歴代の魔王達。


その恨みは魔族にも人間達にもあった。人間もまた仲間を殺された激しい憎しみを、引く事のできない戦いを繰り広げる事によって引き継いできた。


血で血を洗いながら、生を望み、守る者の為に血を流してきた。両者の願い。同じ物を望んでも幕を引く事はできなかった。そんな日々だっただろう。


それすらも知らない、不利な辺境の最期の望みとして立ったファルオス。あの人は戦いを好まない人だった。勇者との戦いであの人は迷う事なく和平を受け入れた。それはまさに快挙で、歴代の魔王達にはできなかっただろう。


腑抜けたバカな憎しみに囚われぬ、あの人だからこそできた。みんながファルオスを今までで一番の愚かなる王と言ったが、逆で、ファルオスこそ、その勇気ある決断を、そのスッカスカの頭でできた、愚者なる偉大な王なのだ。



だからこそ、無くす訳にはいかなかった。アイディーンは拳を強く握り混む。すると、わずかに手に平に血がにじんだ。


震えてなどいない。恐れない。あの人が悪く言われながらも作り上げた平和を、崩す事なく築いていく。その礎になる事……戦う事も、死ぬ事も恐れてはいない。


先代の魔王様に遣えて気高き死もたくさん見てきた。むごい惨めなばかりの死も。戦って死ぬ事……その血で血を洗う沼に沈んでいく事を恐れはしない。そこに勇敢な先代の魔王様もいる。


戦う事を定められたライオンの血を引く魔族の王妃様もだ。

ファルオスを守り育てるよりも、果敢に自分の守りたい者に牙を剥く者をほふるために剣をとった姿は、いつかは理解できなかった。でも今は理解できる。愛する者のためには戦える。その勇敢で気高き心を、自分の物としても重ねられる。












夜の風が吹く。少しさびれた秋の空気が暗い闇の中、吹きすさぶ。そんな風に吹かれ、最後の夜は更けていくのだ。

膝をかかえ、見晴らしのいい飛骨竜の乗り場、アイディーンはそこにいた。今夜は眠れそうもなかった。最後の夜は果てしなく寂しく、考えても無駄な事を永遠考えてしまう。それも最後なら許されるだろう。


バドルはその姿を見つけ、そばにやってきた。

「ここにいたのか。アイディーン」


どうやら探していたらしい。この男なりに心配してるのかもしれない。アイディーンは苦笑いして

「らしくないだろう?」

そう言った。


バドルは

「お前は一人じゃない。俺が最後まで守る」

そう、まるで告白のように言うのだ。


アイディーンは返事にも困ってしまう。守ってもらいたい訳じゃない。いや、それよりも……

「そうか。気が変わってどこかへ逃げてしまってもいい。むしろ、そうしてくれ」


そう言ったら、バドルは肩をすくめて

「そんな事……愛した者の前でできるとは思えない」

すごく真面目にそう言った。


アイディーンは笑って

「本気だったのか?」


真面目には受け取らない。その想いには応えられない。そしたら

「ああ、だから、そんな俺に祝福があってもいいはずだ」

バドルの瞳は真摯にアイディーンを見つめ、そらさなかった。


アイディーンは

「祝福か……」

つぶやく。


バドルは静かにアイディーンのそばに静かに近づき

「そうだ。愛しい女神の祝福があってもいい……」


そう囁いたその体は近く、膝を抱えたアイディーンの隣に座り、その距離はとても近い。触れあうほどに……その口元はアイディーンの耳元にある。逃げる事もできない。もとより、アイディーンの逃げる場所なんてどこにもない。だから答えるしかないのだろう。


アイディーンはそんなバドルの目を見つめながら

「女神にはなれない」

静かに断った。


そしたらバドルはそれでも優しく

「なら、そのまま、目を閉じてくれ」

アイディーンを見つめた。


近い距離。普段なら殴り飛ばしているだろう。それでも、今はそれもしなかった。アイディーンは死んでいくその身へのはなむけとなればいいと思った。バドルがその命を賭けるなら……


バドルの事を憐れんだ。惚れなければ命を落とす事もなかっただろう男だ。


バドルは静かに、その心の内にある淡い感情を吐き出した。

「愛してる……」

囁やくように言った。


バカな男だ……でも、その愚かさは自分の胸にもある愚かさと同じ物……

目を閉じると、そばでバドルの吐かれた暖かい息を感じた。

そして唇が重なり、しずかな夜のとばりが包んだ。



アイディーンは

「これで気はすんだだろ。お前の想いに応えられない。これが返事だ。思い残す事がなくなったら、逃げてくれたらいいと思う」


無駄だと思うけどそう言ったら、バドルは笑っただけだった。ヒラヒラ手をふって行ってしまう。

何を言っても無駄か……自らの想いに突き動かされ、命を賭けてまで突き進む愚かさはまさに今、自分の姿……



バドルにキスされても女にならなかったな……


アイディーンは過去キスをした破滅的な恋に気付いた時の事を今さら思った。

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