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恋する魔王のスローライフ  作者: フローラルカオル
恋するレベル2
27/67

海に行こう1

執務室の机の向こう、やたら張り切った男が言う。

「海にいくのだ‼」

力強く机を叩く。迷惑な事に書類が風でバフンと飛ぶ。やめてほしい。今見てる書類なのに。


キラキラ輝く瞳。美貌の口元にはにっこり笑みが刻まれ、キチッとした八重歯も見える。見映えはいいのに、この人本当に言ってる事子供だなー。むしろ、わがままなチビッ子って所か。

アイディーンは諦めないといけないかもしれない。仕事の書類をそこにまとめて、やれやれと言った風に

「海ですか?」

あまり気も進まないまま言った。


そんな塩味のベタベタした、微生物だのがなんだかいっぱいいる水の溜まり場に行かなくてもいいだろうに。

どっかの市民プールでも行ったらいい。そして、ちっちゃい10才くらいの奴に遊んでもらえ。精神年齢同じだから楽しいだろうよ。


鼻っから相手にする気のないアイディーンに気付いたらしい。ファルオスは

「そして、水着着るのだ」

恐ろしい事を言った。


アイディーンは冷たい目で見る。つまり、そのスケベ心で海に行こうと……水着なんて、露出の高い物着せるために。

そんな男でもいい。なんて言ったファルオスの前で水着なんて。それに何かの間違いで、いきなり女に変わったら大変な事になる。かといって最初から女で、女性の水着を着るのは耐えられない。


そんな火に油を注ぐ事はしない。アイディーンは

「泳がないですよ。それでいいなら行ってもいいです。水着も着ません。それでいいですね?」

涼しい顔で言う。


ファルオスは

「むむむ………」

海には行ってくれそうなのはわかる。しかし、水着は着てくれない上に、きゃはは。とか水かけあってはしゃぐのもダメらしい。


ファルオスは

「着てほしいのだーアイディーン。海で一緒に遊びたいのだ」

机でごろごろしながら言う。


こらこら、書類がくしゃくしゃになる‼


アイディーンは書類をできるだけ片付けながら

「せめて海女の格好ならしてもいいです」

妥協できるとすればあれだ。あれなら男でも、女でも安心だ。露出はまったくないからな。


徹底して肌を見せようとしない男にファルオスは

「せめてアロハシャツと短パンとビーサンで頼むのだー」

もはや頼んだ。

もう一緒にきてくれるだけでいいから、花を添えてほしいのだ。海女は絶対違うのだ。夏らしさがないのだ。







日取りも決まって、なぜか海の話を嗅ぎ付けてきた男、バドルが、浮き輪やボート、ビーチパラソルにサマーベッド。用意はバッチリだと言った。夏が似合う日に焼けた男、バドルは輝いていた。まるで彼の季節のようだ。


アイディーンは首をかしげる。

「思っていたのだがどうやって嗅ぎ付けてくるんだ?」

薄々不思議だった。話してもいないのに、当然と言った顔で準備しているのだが……


バドルは爽やかに

「ああ、まずファルオスの部屋の近くに本を落としておくんだ。そうすれば自動的にこうなる。そして遊びに行けるって訳だ」

キラッと白い歯を輝かせて笑った。


こいつ、うまい事利用して、遊ぶ事ばっかり考えてるな。ピクニックの時もそうだったか……おかしいとは思ったんだ。都合良く本拾ってるなって。


アイディーンはやれやれと言う風にあきれて咎めもしなかった。

まぁいい。たまに遊びに付き合ってやるのも情操教育ってやつの一つだ。お子様なファルオスが少しでも成長して、一気にちゃんとした大人になってくれたらな。そしてまともになってほしい。


そんな事を思いながらもこちらも色々準備する。麦わら帽子とサングラス。アロハシャツや短パン、ビーチサンダル。タオルもいるだろう。

嫌な予感だけはする。なので、着替えは持っていく事にした。絶対ファルオスは水かけてくるはず。なので、こっちは水鉄砲忍ばせておいた。


あとは花火でもやるか。食べ物や飲み物は当日でいいだろう。クーラーボックスに保冷剤やら氷を入れて持っていこう。


なにやら、思ったより楽しみになってきた。アイディーンは、でも海には入らない。心には決めておいたのだった。水着もギリギリまで迷ったのだが、業務なのを忘れそうになるのと、浮かれて海に入ってしまいそうなので入れないでおいた。











眩しい太陽がテンション高く魔王城を照らす。まだ朝の8時だと言うのに、もはや紫外線はバリバリだろう。こんな日は外に出るだけで嫌になるのだが……


麦わら帽子とサングラスの男、アイディーンはそんな太陽を見上げる。飛骨竜ではすぐ着くはずの海までの道のりを、バドルは車で行きたい等と言ったため、ワンボックスカーが魔王城の門の所には止まっている。

そこに何やら色んな物を詰め込んでごちゃごちゃしていた。なんだ。サーフボードだと。こいつサーファーか?なんか腹が立つ。


目的地は人がいる所はさけ、人はいないが、モンスターは出るって穴場的な砂浜を目指すそうだ。だいたいのモンスターはファルオスの言う事は聞くはずだし、聞かない奴らのほとんどは知能の低い奴等だ。したがって、そいつらのほとんどはデコピンで済むだろう。デコピンですまないのはクラーケンぐらいか。あいつはあんまり出てくる事もない。浅瀬にはあんまり好んで現れない奴だから大丈夫だろう。


アイディーンは車の助手席に乗り込むと、ファルオスは

「アイディーンそっちじゃないのだ。こっちなのだ」

等と隣に来るように言った。


アイディーンは

「なら、地図見たりとかは誰がするんです?」

助手席とは、運転手のアシスタントするための重要なポジションなのだ。のらりくらりと乗ってていい訳はない。

ペットボトルのキャップ外したり、何かつまむ時には爪楊枝にし刺して用意したり、片手で運転しながら全部できるように渡したりする。時には地図を広げ、方向を指示する。


ファルオスはプクーと膨れて

「いつか免許とってやるのだ」

そう言った。


しかしアイディーンは、いや、お前の運転は不安……絶対切り返しとかできないだろ。




そんなこんなしていたら、バドルは

「よーし。揃ったな。行くか」

そう言って、車はエンジンの音を響かせて走り出した。


当たり前のように音楽をかけ始めたバドル。いかにも海行きますって若者が聞くような音楽のチョイスはともかく、嫌がおうにも海への期待は高まる。

バドルが車の免許など持っている事は知らなかった。運転もなかなかの物で快適だ。


アイディーンは

「運転なんてよくやるのか?」

聞くと


「ああ、まぁな。アウトドアとかはこれで行くのがいいんだ」

若干チャラっとして言った気がした。サーファーに対しての先入観のせいか?

なるほど、確かに少し楽しい。ゆっくりと目的地に近づいてる感じや景色も、移動その物がレジャーと言った所か。


ファルオスも風景すっごく見てる。しかし、そんなお子様は飽きるのも早かった。

「ヒマヒマヒマーヒマー‼」


なんか鳴いてる。セミか‼

まぁ、そうだろう。そうなると思ったが、思ったより早かった。


アイディーンは

「じゃあ、しりとりでもしましょう」

優しく言った。古典的だが、意外とやった事ない奴ならこれで充分。たまにやると意外と楽しかったりする。


バドルがクスッと笑って

「懐かしいな」

等と言った。こっちはやり尽くしてそうだ。


アイディーンは

「まずは、しりとりの『り』から。りの付く言葉なんかありますか?」

まずはルール説明。


ファルオスは

「リ……リンゴなのだ?」

お約束通り。


アイディーンは

「そうやって、また次の言葉の最後の文字から始まる言葉をいっていきます。順番を決めて、ことばが思い付かなかったら負け。『ん』で終わる言葉を言っても負けです」


バドルは

「同じ言葉や名前もダメだ。よし、じゃあ、次は『ゴ』だ。アイディーン」

その時、アイディーンは気付いた。さりげなく順番をバドルの次ファルオスに来るように仕掛けてる。

これは、面白い。たぶん読みが正しければ、ファルオスは…………






10分後


「もう『ル』の付く言葉思い付かないのだー」

そう言いながらファルオスは泣きの体勢だ。


バドルが運転しながらニヤニヤしている。まったく、悪い男だ。初心者をボコボコにするなんて。しかも、結構な割合で困る言葉はあるのだが、『ル』は本当に困る。

アイディーンなら気を使ってもう少し言葉の多い所で攻めてやってもいいかなと言った所だ。しかし、


「なんかないのだー?もうないのだー。ルールールールー‼」

なんか狐でも読んでるのか?

ファルオスはルーばっかりさっきから言っている。ヒントとか出しては来たけど、アイディーンも『ル』はそろそろネタ切れだ。


バドルは

「はは、負けだな。そろそろ降参しろ」

ドヤ顔だ。こいつ、父親になったら子供全力で遊んでるふりして勝って子供に嫌われる奴だな。


ファルオスは

「もう、やなのだ‼全然楽しくないのだ」

ついにはそんな事を言い出した。


アイディーンは

「パスは三回までですよ?」

そう言って助け船を出す。


ファルオスは

「パス‼」

力強く言う。


アイディーンは思い付いた。だからパスを進めた。

「ルール。はい、バドル、『ル』」

軽く微笑む。少し悪い笑みだ。


バドルは

「やらしい奴だな。アイディーン」

こちらも見ずに言う。まだ余裕あるようだ。


アイディーンは

「そうか?自信あっただろう?まだいけるって顔してるもんな」

その顔を見るからに、結構な自信を持っているはずだ。

そして、次はファルオスには『ル』以外いきそうだ。


バドルは

「ルージュ『ゆ』だ」

そう言った。まだあったようだ。


ファルオスは

「やっと『る』以外なのだー。やったのだー。ゆ……ゆめ。『め』なのだ」

やっと楽しくなってきた。そんな顔だ。


アイディーンはニヤリとして

「メダル……バドル『ル』だ。どうする?」

またしても凶悪な微笑み。


バドルは楽しむように

「そうだな。攻められるのも悪くない。ルンバだ『ば』か『は』だな」

またしてもスルっとかわした。


ファルオスは

「バカなバドルのバーなのだ。バカなのだ。『カ』」

ここぞとばかりに言った。


バドルが

「くっ」

腹立ててる。運転だけはしっかりしてくれよ。


アイディーンは

「カンガルー『ル』だ。」

そう言って楽しむような色をうかがわせる。アイディーンの瞳には見つめたいほどのイタズラっぽくも凶悪な光をたたえる。


バドルは

「アイディーン……」

運転中なので、チラッとだけ見る。


アイディーンは

「ほら、俺を退屈させるな」

急かして見た。待ってる間、面白いようにバドルを見つめ続ける。


そしたらバドルはドキドキしてきた。

「る………ルッコラ」

気弱な声を出す。


まだあったか。ちっ

アイディーンは内心舌打ちした。


ファルオスはルッコラがわからないらしい。

「なんなのだ?ルッコラ」

確かに、知るわけないか。


アイディーンは

「ハーブですよ。イタリアンに使われるやつですね」

また見かけたら教えてやるとしよう。ここにないから説明できない。


ファルオスは

「うーん。こ……こ……米なのだ。『め』」

ル以外ならスラスラ出てくる。


アイディーンは

「メール」

涼しい顔で言った。


バドルは

「なっ、また『ル』か」

慌てたようだ。頭でもかきたい顔してる。


その様子だと、そろそろないか。アイディーンは

「まさか、もう終わりだと?」

一応聞いてみる。その様子は楽しんでる。


バドルは

「む……アイディーンは意外と攻めるタイプだな」

そう言った。少し落ち着きがなくなったようだ。


困ってるな。

そう言いながら考えているんだろ?時間稼ぎか?


アイディーンは涼しい顔で甘ーい声で囁く。

「攻められたいんだろ。やらしい男はお前だ。バドル」

アイディーンは楽しむように水色の瞳を向けた。





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