日曜大工をしよう1
やたら、腹立たしいのだが、バドルが野菜を街に売りに行っている。あのトマトのモンスターを使ってトマト以外も実らせる事が出来るらしい。
生き生きと農作業に精を出す黒い男を見ると腹がたつ。仕事もそこそこに毎日畑に行って農作業してるようだ。地味に小銭を稼いでる。いつか、それがメインで暮らしだしそうだ。
そのせいか、荒野のバドルのプライベート農園は徐々に拡大し初めているのだが……見ないふりはしてる物の、そこは魔王領だ。当の魔王は何も言わないからほっておいてはいるが……
バドルがいないとなると、ファルオスはやたら張り切るのだ。それこそ、渡していた数学ドリルもほっぽり出して、アイディーンの執務室に入り浸り。今も、向かいの席に座ってうっとりと見つめてくる。
「アイディーン。二人っきりなのだー」
なんか、ハートの目でこっちを見ている。何か、気をそらす物、ないだろうか。
犬なら骨を投げるだけでいいのに、ファルオスにも、そんな何かが必要なようだ。
そんな事もあろうかと、こっちで準備はしていた。アイディーンは引き出しから雑誌を取り出して差し出す。
「かねてより、庭にウッドテーブルがほしいと思っていたんです。それに合わせてウッドチェアー。せっかく庭がきれいになったので、くつろぎのスペースを作りたいんですね」
わざとらしいプレゼン。いかに気を引くかだ。
ファルオスは
「ほうほう」
さっそく食いついた。
アイディーンは
「木目の自然な仕上がりの木で、温もりあるデザインがいいんですけど、買うのは面白くないです。なので、作ってみてはどうかと思いました。」
きっとうまくできないから買えばいい。しかし、大切なのは気をそらす。という事だ。最後ゴミになってもいいから、なんかしててほしい。そう、仕掛けてきてる。
アイディーンは
「こういった器具を使って作れるそうです」
『お父さんの日曜大工』
そんな雑誌を見せつつ言う。初心者でも簡単にできるように使う工具もわかりやすく紹介している。これを使うと格段作りやすくなるらしい。
板の採寸とか、そんな所から丁寧に作り方を紹介したページが載っている、見やすくて分かりやすい雑誌なのだ。
ファルオスは少し考えて
「オールドトレント切って置いとくのはどうか?」
真剣な顔をして言った。
自然な……といった所がひっかかったのだろうか。オールドトレント切った時点で丸太なのだが、それをポンと置いとけって事か。
自然な木目が、はなはだしい。デザインはどこ行った。
アイディーンは諦めに似た目をして
「やっぱりバドルに話した方がよかったか」
わざとらしくため息をついたら
ファルオスは
「やる。あいつは野菜の事しか考えてない男だ。まかせろ」
力強くそう言った。キリリとした張り切った瞳。嫌な予感しか感じない。
アイディーンは釘を刺しておく事にした。
「魔力……込めないで下さい」
そのせいで変なモンスター作られるのはうんざりだ。ファルオスならあり得る。だってこんな奴だ。前科もある。
ファルオスは魔力に関してはスルーして
「よーし、お父さんの……か。照れるのだ」
まさか、そこに引っ掛かった⁉雑誌のチョイス間違えたか‼
ファルオスは
「これはお父さんがやるから任せるのだーーー」
あっ、なんか変な勘違いした‼スタターーーっと、雑誌持ってってしまったし……もはや心配である。
って言うかお父さんじゃねーし。
やれやれ。こっそり見守った方がいいかもしれない。変に指を釘で打ち付けたり、どっか切って魔王の血で染まったウッドチェアとか、洒落にならん。それに、そんな家具は動き出しそうで怖いし。
アイディーンは仕事そっちのけで、お使いに行く子供を見るように、ファルオスの動きを観察した。庭に行ったようだ。アイディーンは身をひそめる。
ファルオスは、雑誌を一通り目を通して、首を傾ける。
「全然わからないのだ」
つぶやいた。
アイディーンは思う。しょっぱなからか。まずは必要な木をホームセンターかなんかで見に行けばいいのに。
あとは必要な工具も載っていて、その雑誌を持ってけば、自分がわからなくても定員さんに聞けば、なんとかなるくらい、材料まとめて書いてくれてあるのに。
ファルオスは自信満々に立ち上がった。
「まず木を切るのか」
オールドトレントか⁉
ダメダメダメ‼
生木は乾燥したらサイズが変わったり歪んだりする。それに動く木はなんか嫌だ。もう、買ったらいいのに。
ファルオスは雑誌に顔を近づけ、
「魔力でこういう木育てたら楽なのに」
また恐ろしい事いってる。それが意思持って襲ってくるぞ。椅子とか、絶対座るなって言われそう。ファルオスの魔力なんていつもろくな事にならない。
それでも、木だけではどうにもならないとわかったらしい。釘やなんかもいるからだ。
ファルオスは首をかしげ
「ホームセンター?なんだ。家、真ん中?」
そのままの意味かい‼
あっ、知らないんだ。お馬鹿だった。この子
アイディーンは耐えきれず、影から出て
「仕事が一段落ついたんですけど、手伝ってもいいですか?」
とたんにファルオスは
「お母さんはダメなのだ」
拒否。
お母さん………勝手になんてポジションに……
アイディーンは丁寧に言い直す。
「まだお友達。ね、作りたいです。作りましょう」
ニコニコしてみせる。もはや、ファルオスに任せておけないのはわかった。自分で作った方がいい。適当な新しいモンスター作り出されそうだ。
ファルオスは
「まぁ、ある意味、今のアイディーンはお父さんか。お父さんならいい」
なんだと。今お友達発言スルーされた上に、お母さんじゃなく、お父さん扱いされただと⁉衝撃なのだか‼
ファルオスは嬉しいのか張りきって
「じゃあ、木を切りに行くのだー」
えいえいおーってする。
いやいやいや……行くのはそこじゃない。
アイディーンはサクッと正解を言う
「ホームセンター行きましょう」
諦めた瞳で、諦めて正解を言った。
日曜大工と言う物は、だいたい日曜張り切るお父さんがやるような大工仕事って事なのだろう。
ノコギリやトンカチは上級向け。最近は電動の物を使うといいのだそう。コツのわからない人でも上手に作れるのだそう。どうせやるなら失敗したくない、形通りこだわりたいアイディーン。
人間の姿に変えたファルオスとアイディーン。二人は何気ない顔してホームセンターまでやってくる。街の近くまで飛骨竜で、少し離れた森の中に降り立ったファルオスは歩くと文句を言った。それは軽くいなしておいた。
温もりを感じる森を背負った位置にあるこのホームセンターは建物だけでもログハウスのような暖かい作りになっている。
街のはしっこにあるのだ。それが、自然の中で暮らす素敵な空間のようで、アイディーンは一目で気に入ってしまった。
以前、偶然ここでファルオスのためにトマトの苗を買ったり、土を買ったりした。わがままに振り回されたが、ここはなかなか気に入った。
まさかもう一度来る事になるとは思わなかったが、ここにくるのは二回目だ。
ファルオスは口を開けて見上げている。
「ふぁー?」
人間の暮らし事態が面白い。といった様子だ。思えば、ログハウスなど見た事はないはずだ。その可愛さに恐れ入っただろう。
アイディーンは
「ほら、花や、木も、売ってるでしょ?暮らしに必要な物を売ってくれるんです。中には木材もありますよ」
子供に言うように言う。初めて子供連れてきたみたいだ。
中に入ると、何に使うかもわからないくらいの種類のネジが置かれたコーナーや、釘、工具もある。
あっ、ファルオスが、いなくなっている。置いていっていいかな?
アイディーンは構わず雑誌のページ開けて、定員さんに聞く。使うネジのサイズなどは、アイディーンでもわからない。それぐらい多かった。
慣れた手つきで定員さんは集めてくれる。仕事のできる男はいい。その頼もしさは惚れそうだ。
そして、必要な物が集まると、大きなカートに入れて、店内を歩く。
あっと言う間にいなくなったファルオスを探した。ファルオスは、ここぞとばかりに家具のコーナーのソファーに座っていた。
何を勝手にそんな所に……
恥ずかしいな。座っていいからって勝手に座るな。
ファルオスは、無邪気に新品のソファーのスブリングを楽しむ。
「楽しいのだー」
そうだろう。
けど、取り敢えず立とうか。
アイディーンはファルオスの両手を掴んで、
「さぁ、あとは買うだけですよ」
軽く引くと、ピョンっとファルオスは立ち上がった。
ファルオスはでっかいカートに木材とかを入れてるのを見て
「これ、押してやろう。優しい亭主なのだ」
張り切った子みたいにカートを押した。
アイディーンはやれやれって顔で
「あんまり外でそう言うの言わないでください。ただの友達です。早く帰りましょう」
すでに奇異の目で見られた。もういい。
支払いの時、やたらレジスターを楽しそうな目でみていたファルオス。次ぐらいからはお金払いたいとか言いそうだ。むしろ、レジスターで遊びたいのか?
本当にお子様だ。さすが10才。
やっと買い物が終わって、そばにあった屋台でソフトクリームを買ってやる。10才といったら、アイディーンの妹は、ちょうどこんな物を好んでいた。この大人な男でも喜ぶのだろうか。
ファルオスは案の定喜んで
「うーん。なんか、いい夫婦って感じなのだ」
また言ったな。このやろう。記憶力はチキンか‼
むしろ、親子で買い物といった感じだろう。
イケメン二人がソフトクリームなんて食べてると目立つ。しかも、今はもはや、ホモのカップルを見る目に変わってる。
アイディーンはさりげなくサングラスをかけておいた。まったく、おちおち安心して買い物もできない。
その時声が聞こえた。屋台が向こうに、真っ黒な日に焼けた男が
「太陽の恵みたっぷりのトマトだよー。甘いよー。さぁ、奥さん。このキュウリも食べ頃だ」
なんかウザイ声だと思ったらバドルか。こんな所まで来て野菜を売ってるらしい。自前の荷車が丁寧に歩いて来た事を伺わせる。
アイディーンは、バドルの前に立ち、サングラスをずらす。
「だいぶ繁盛してるみたいだな」
朝もって行った物はあらかた売れている。もう売り切って帰りたいと言った所だ。
バドルはニヤニヤして
「アイディーン。まさか、俺を追ってきたか?」
光の早さで勘違いした。
んな訳あるかい。くそぼけ。
アイディーンは
「いや、日曜大工の道具を買いに来たんだ」
そしたら、バドルは目を輝かせた。犬に骨見せたような輝きだった。




