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恋する魔王のスローライフ  作者: フローラルカオル
恋するレベル2
18/67

ガーデニングで戦闘1

ファルオスは算数ドリルを終わらせる。何事も、すぐには進まない。

アイディーンを見てるとそう思う。

いきなり優秀な男にはなれない。したがって、漢字ドリルもやってもいい。


好き放題甘やかされてきたボンボンは頭を下げる。まずは真摯な態度で、心を掴むしかない。いい男とはきちんと尽くすのだ。

と言うアピールをかねて、やたらキラキラした目でそれを差し出す。

「できましたのだー」


うやうやしく、その美しい水色の瞳を見つめながらその女神に献上する。泉の沸き立つ山麓から溢れてきたような美しい過ぎる瞳は冷徹でもあり、時に優しくもある。所により諦めている。

そんな女神の瞳は仕事モードでピリリと今日は厳しい表情を見せる。あなたの想いは受け入れませんと言った顔をしながら男の姿をして、デスクワークに精を出しているのだ。


そんなファルオスの女神であり、男神であるアイディーンは

「随分早かったようで……答えをカンニングしましたか?」

仕事の手を止め、冷徹な視線を向けファルオスを射抜く。アイディーンのそんな一つ一つの美しさにメロメロなのだ。


たとえ男の姿をしていても。



いや、欲を言えば女の姿になってほしいとは思ってはいる。しかし、贅沢は禁物。すぐに咎めてくる女神の機嫌は気まぐれで、すぐにイラッとした気配を醸し出す。


今もそう。咎めようとした瞳が、すがめられ算数ドリルのページを見ていく。

ペラリとめくった指先が美しい。その男とは思えない指先すらも素晴らしい。婬魔である血がそうさせるのか、見る者をうっとりとさせて、ファルオスは産まれた時から夢中なのだ。



しかし、早くできすぎた事であらぬ疑いをかけられているらしい。カンニングなんてしてはいないが、そんな風に思われるのは困る。それは愛ゆえにと思ってもらいたい。


アイディーンが赤いペンを持ち直し、その手が見えないくらいシャシャシャーと動く。


「バツバツバツバツバツ…………」


アイディーンは遠慮なく言う。

酷い物だ。ドリルの開かれたページには丸がほとんどない。くしくも、間違いだらけだったから、カンニングしてないとわかった。むしろ痛々しい。


ファルオスはそれを見て、納得がいかない顔で、

「バツ?そんな。頑張ってやったのだ。」

こんなドリル一冊も一時間かけずにやった。自分としては最大限の努力と敬意をもって取り組んだ。なのにこんなにバツばかり。やってられない。


アイディーンは甘やかすわけではないが、

「まぁ、カンニングではなかったので、それなりに頑張りました」

つい誉めてしまいたくなるのか、そんな事を言うのだなー。

……などと、普段のファルオスは思うのだが、まだドリルのバツを不満顔で覗きこんでいるファルオスにはむくれた気持ちしかないようだ。


そして、アイディーンは引き出しからスタンプを出してその3つのスタンプの中から一つ選び、ポン。

『良くできました』

のハンコをドリルにもらった。

このスタンプは3つのうち、真ん中のやつだ。ツンツンしたアイディーンが最大限甘やかしているのにも気づかない。


ファルオスは口を尖らせ、

「もーやめた。なんかするのだ。」

ついには不満が爆発したようだ。頑張らない人が頑張るとすぐ弱音を吐く。


アイディーンは書類をトントンとまとめ、引き出しにしまった。

涼しい顔でこう言う。

「ああ、ちょうど良い。最近庭師が王室の庭園庭師として引き抜かれました。よって、庭師がいなくなりました。ガーデニングをしましょう」


なんと、アイディーンの方から何かしようとは‼

これはやっと想いが届き始めた兆候ではないだろうか?

まるでデートにでも誘われたような気持ちだ。ついにその時がきたのだ。


アイディーンは

「バドルも呼んで下さい。あと、武器も持参で」

ひたすらクールなその一言で、ファルオスは重要な所聞きこぼした。


「バドルいなくていいのだ。二人っきりがいいのだー」

などと言った。


ファルオスは後で、

ん?武器?


などとも思った。










言われた通り、武器を持ってバドルにも声をかける。不服ではあるが、人手もあればすぐ終わるのだろう。そう思って力作業だけやらせたらいいというような男を連れ、ファルオスは庭までやってきた。


庭に続くみっしり張り付いた蔦の絡む窓。開けられないのだ。蔦生えすぎなのだ。

仕方なく、外から回って来ると、そこにアイディーンもいた。アイディーンも剣持参だ。


声をかけようと駆け寄ったら、その前に気づいた。庭はなくなっていた。

あまり庭に関心のなかったファルオスは驚愕する。はびこる蔦に覆われた地面に、入り組んだ緑しか見えない景色。さながらダンジョンを形成するかのように草がはびこっている。それは庭だけじゃない。地面を求め、遠く、荒野まではびこってその先、まるで城のようなこんもりとした何かも見える。


アイディーンは表情のない顔でただひたすら遠くを見つめ、

「庭師がいなくなって、なぜか荒野までこの草ははびこっています。」

淡々と言った。


なので、庭との境目のない、庭から続く緑の絨毯……いや、ジャングル。いったい、どうしてこんなにはびこったのだろう。どの蔦も太く、腕くらいの太さはあるだろうか。

荒野は障気が吹きすさぶ生き物には厳しい環境なのに……ただの植物がこんなに育つだろうか。


バドルは

「ただ事じゃないな」


あまり頭が良さそうでもない男がその異常事態を語るなんて片腹いたいのだ。ファルオスは思う。しかし、チャンスだ。

アイディーンに良い所を見せて、頼りになる男をアピールするのだ。

「焼き払うのだ」


そう言ったとたん、草が蠢いた。



シュバッ



蔓が動いて攻撃してきた。腕ぐらいある鞭みたいな植物が向かってくる。

まさか、意思を持っている⁉


アイディーンは素早く反応する。さすがに油断ない冷静な対応。

剣でその蔦を両断される。


スパッ


良い切れ味。良い腕。


ファルオスに当たる事もなく地に落ちる。そこの黒いだけの男なんて微動だにしなかったというのに、アイディーンはやはりできる男。


アイディーンは涼しい顔で

「まったく。一人では手におえないと思ったんです。じゃあ、それぞれ除草作業始めましょう。魔法を使うと全部枯れそうなのでそれは良くないのです。適当に片付けていきましょう」

まるで、草でもむしるような言い方をしてくる。除草作業なんて、冷静すぎるだろう。


バドルは

「除草って言われても………」

さすがに困った顔だ。どこから手をつけたらいいのかわからない。それ所か、除草っていうか、瓦礫解体と、運搬じゃないか?近いのは。

生きているこんな訳のわからないモンスターを相手にしないといけないのか。


バドルが不用意に草に近づく、と、とたんに

「うわぁぁぁぁっ‼」

伸びてきた蔦に練り込まれて、全身包まれ、その蠢きはどんどん向こうの草の城みたいになった所まで連れていかれる。


今あそこだな。わかるぐらいだ。


アイディーンは

「ああ、バカバドル」

イライラしてる。


気を付けろ。俺は助けない。


そんな顔だ。


ファルオスは

「本当にこれ!ヤバいのだ」

ガーデニングとか言ってるレベルではない。被害者が1人出た。


アイディーンは

「でしょう……」


そしたら、アイディーンは疲れたように遠くを見た。その、一人でなんとかしようと思ったけど、できなかったアイディーンの苦悩が伝わってきそうな疲れた顔だった。


これは張り切る時。旦那に選ぶ男がどれだけ良い男か見せるチャンスなのだ。

肉体労働は算数ドリルより得意なのだーーー‼


ファルオスは、

「とりあえず、少しずつ刈るのだ」


サクッサクッ


格好つけた割にはあんまり打つ手がなかった。地味な作業が始まった。アイディーンも静かにまだ細い草から抜き始めた。











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