ベリーのパイを作るのだ1
翌日から平常運行のアイディーン。徹底して今まで通りの暮らしを守ろうと、なんとかうやむやにしたい本音を垣間見せる。執務室にこもって、仕事三昧。
ファルオスに隙を見せないように自室には鍵を取り付けた。
態度にはやや、近づき過ぎるとビクッとするって事が追加されただけ。甘ーい言葉を囁きたかったファルオスのそんな空気を察しては、
『一緒に仕事して下さい』
等と、仕事を持ち出してサクッと逃げてしまう。
ファルオスは考えた。
このままではダメだ。
アイディーンはちょっとビビるようになっただけで、まったく進展していない。もっとなんとかしたいのだ。
そんなこんなで考えたのだ。
アイディーンの執務室にファルオスがやって来て、かまってほしい視線を向ける。ボールで遊んでほしい子犬のようだ。しかし、そんなお子様な態度には騙されない。
「ちゃんと仕事やって下さい」
ツーンとしているアイディーン。婚約は受けません。それを全面から滲み出させている。
絶対流されたりしない。キスされてフワッとしたぼんやりした状態で、人生の大切な選択はしない……と。この悪党の敷いたレールに乗っかてはいけないと……
アイディーンは話を変えるために、ついさっき渡した仕事の件をたずねる事にした。
「それで、どうなりました。さっき渡した数学のドリル……終わりました?」
あまり頭の良くないファルオスには、それを渡してあった。10才なんてそんなもんだ。このポンコツにはちょうどいい。
ファルオスは涙目で、そこまでバカにされてるのも悲しかった。
しかも、満点とって見返してやろうと思ったそのドリルは難しかったのだ。
「もう、ドリルはなんて嫌なのだ。バドルは仕事で、なんでこっちはドリルなんてやらないといけないのだ‼」
アイディーンは考える。癇癪起こしたお子様は面倒だ。致し方ない。
「バカな男は嫌いだからですよ」
そう言っても、数学のドリルができるくらいで好きになる訳でもない。小学生程度の賢さではどうにもならない。
ファルオスはそれでも希望を見いだした。
「な……なら、頭が良くなれば、その態度も少しは変わるのか?」
失言だった。アイディーンは少し青筋浮かべ、
「ほぅ。その態度?」
好きだといってる癖に、態度が悪いなどといってくるなんて、随分上からじゃないか。
ファルオスは
「う……好きなのだ」
しかし、そんな態度すらも愛しているのだ。破滅的なほどに。
アイディーンは
「なら、ドリルして下さい」
もはや、好きとかなんかはスルーされて、取り合わない。
ファルオスはこれではいかんやつなのだ。
と、
「ベリーのパイを作るのだ‼」
アイディーンの机をバンっと叩いて言った。
アイディーンはちょっとビクッとする。やはり、急に近づくと、まだまだこんな反応する。その態度には傷付くが、意識されているいい変化と前向きに検討‼
アイディーンは
「また急に……まさか、一緒に作れと?」
ちょっとビクッとしたドキドキを押さえて言った。
ファルオスは
「と……友達なのだから、一緒にやるのは当然なのだ。そして、みんなで食べるのだ」
みんなとか、そんななら少しはやってくれるはず。しかし、本音はアイディーンの手作りお菓子が食べたいからだ。
アイディーンはまた逃げようと、
「仕事……」
今まで通りのワガママを通そうとする男に文句言おうとしてる。
ファルオスは
「仕事ばかりではダメなのだ‼もちろん賢いばかりでも‼これからの魔王はもっと開かれたグローバルな存在にならなければならないのだ。だから、足掛かりとしてまずは、簡単な所から始めなくてはならない。アイディーン、ベリーのパイを焼こう。まずはそこからだ‼」
拳をふるって熱く語った。
アイディーンは
「………」
少し考える。
バカだと思っていたファルオスが、バカな事を言っているが、なかなか考えてる振りをしてまで、何か言ってる。はぁ、何か言ってるなぁとは思うけど……
まぁ、少しは考えたんだろうけど……
アイディーンは
「仕方ないですね。早く作ってしまいましょう」
山が動いた。
ファルオスは嬉しさをこらえきれない。
「ピクニックの時のベリーがうまかったから、あのベリーで作るのだ。アイディーンにも食べてもらいたいのだ」
これで手作りお菓子は頂いたような物。きゃはっとして言う。
アイディーンは
「なら、お菓子を作る材料や手配は私がするので、ベリーを摘んでくるのをお願いできますか?」
いつもなら、うまく転がされる所だ。アイディーン、たぶんコック長に丸投げして、デスクワークする。
ファルオスも少しは学んだのだ。なかなか距離を、置こう、置こうとしてる。
なので、アイディーンと離れてしまっては、意味がない。
ファルオスは
「やなのだ。一緒にいくのだーーー」
アイディーンの服を引っ張る。
さらに子供っぽくなったファルオスに
「わ……わかりました。服引っ張らないで下さい」
ちょっとビクッとするアイディーン。仕方なく立ち上がったのだった。




