野菜を作ろう1
ーある日の事ー
「そうだ。野菜を作ろう」
年頃二十歳以上。ロン毛の金髪に雄々しい角の生えた、顔だけはやたらイケメンの男だ。その美貌だけで見るものを圧倒するようなキリリとした視線。
しかし、今その目に輝くのは、よく分からない好奇心ゆえにだった。そばでそれを聞いていた赤毛のこれまた整った男が、聞こえなかったかのようにそっぽを向いた。
無視された金髪の男は
「野菜、野菜だ。作るんだ。」
ついには地団駄を踏み始めたのだ。赤毛の男は
「ファルオス様。たぶん、やめた方がいいと思います」
そういって、また視線を合わせないように逃げようと思った。
金髪の男、ファルオスは魔物を束ねる王だ。その魔王の血統を示す雄々しい角。見るものを魅了するその姿。多大まれなる魔力を誇る、我らの魔王。
しかし、現状はこの人の口にすることはろくでもない事ばっかりだ。頭がポンコツのせいで勇者との戦いにも負け、結果この辺境の地に追いやられたのだ。
その赤毛の男の逃げ道をふさぐように、ファルオスは言うのだ。
「野菜だ。今春キャベツの季節だろう?春キャベツとは、食べた事ないがな。ハハハハハハ」
バカも休み休み言ってほしい。あまりにも片腹痛い。なぜなら、さっきシェフが作ったお好み焼きに混ぜてあったではないか。
春キャベツ食べたいから何か、それを使った料理を作ってくれと。混ぜ混まれたそれに気づかなかっただと?こいつはお好み焼きにキャベツが入っていることを、そもそも知らないのか。
そこのテラスから食べたいと言い、持ってこさせたのだ。そこまでしておいて…赤い髪の男は内心怒り狂い、
「さっき…はいっていましたよ?春キャベツ…」
そう言ったらファルオスは
「なら言ってくれればいいだろ?アイディーンは気が利かないな」
ファルオスは口を尖らせた。アイディーンと呼ばれたその男は
「そうですね。配慮が足りませんでした」
心からそう思ってはいないことを口にした。怒ってはならない。
これは魔王、これは魔王。それを繰り返し、しっかりとしまいこみアイディーンは
「おきに召しましたか?春キャベツは」
適当に濁して逃げたい。ファルオスは目をキラキラさせて
「ああ。さあ、アイディーン作ろう。春キャベツだ。今春だろう?」
アイディーンと呼ばれた赤毛の男は、
「春キャベツ…もうシーズン終わってます。」
そういうと、ファルオスはポカンとした。
「今売っているのだろう?」
なんて地味にバカな男なのだろう。種まきから収穫まで、一瞬でできるとでも思っているのだろうか。
アイディーンはため息をついた。しかし、いいだろう。このバカな男がいつも口にするものが、どういった経緯で農家の人に育まれているのを教えるには持ってこいの話ではないか。
だいたい魔王であるファルオスは、まだ人の年齢で言う10才なのだ。体が生まれた直後から大人になり、しかし、知能はともなっていなかったようだ。
先代の魔王は切れ者と言うことで有名だったのにファルオスの事はとても残念だ。
アイディーンはため息をつきながら
「ええ。でも、今から始めるなら、夏の野菜にしましょう」
そう言ったらファルオスは
「ああ。お前にまかせよう。お前は素晴らしい男だからな」
もうすでに丸投げしようとしてる。アイディーンはこらえて、これは10才。これは10才と、心の中で呟いた。そして、
「では、早速始めるための準備に行ってまいります」
うやうやしく頭を下げたのだった。




