6携帯電話
ミーンミンミン・・・ジジジ・・・
蝉が鳴き始めた。
夏も直ぐそこまで来ている。
孝史は携帯電話でメールを作っていた。
作っては消して作っては消してを繰り返した。
送信ボタンがなかなか押すことができない孝史。
この前はどうも・・・
ところでユリチャンは何色が好き?
なんだか意味のないメールを送ってしまった。
しばらくして返事が返ってきた。
ヘンな人〜。とりあえずピンクとか水色かな〜あと黒も好き。
てゆ〜かぁ、もう少し違う質問ないの?彼氏いるの?とかね・・・
すかさず孝史は返信をした。
ゴメン・・あまりメールとかした事ないから・・彼氏いるの・・?
送信をしたと思いきや1分も経たない内に返事がきた。
居ないよ・・それに居たらメールしてないしね・・・
メール苦手なの?じゃあ電話ならへいきなの?
攻める様なメールの内容だ。
どちらかと言えばね・・・
孝史は曖昧な返事を返すと直ぐに090−XXXXーXXXXと電話番号の入った
メールが入ってきた。
孝史は速攻で電話帳に登録した。
これからバイトだから、後で電話するよ。
孝史はメールを返すとバイトに向かった。
行く途中に携帯が鳴った。
由梨からのメールだ。
バイト頑張ってね!今日もバイト先に行こうかなぁ・・・
孝史の脳裏に一瞬、元木の顔がよぎった。
マズイ・・・
元木にはまだ言ってない・・・
店に由梨ちゃんが来て元木にバレたらやばい・・・
慌ててメールを返した。
今日オレンジジュースないから、違うコンビニ行った方がいいよ。
じゃあまた今度行くから置いといてよ。
と返事がきた。
孝史は一安心して息をついて店に入った。
「おい孝史」
元木が声をかけてきた。
「早いなぁ元木」
二人の様子がおかしい。
何かを知っている様に元木が聞いてきた。
「そういえば、お前あの子の名前知ってんの?」
「あ、あ、うん」
「俺も知ってる、高野 由梨だろ?」
元木は勝ち誇った様に言った。
何で元木が知ってんだ・・・
でも、今が言うチャンスだ・・・
「元木・・実はこの前のバイトのとき・・・・」
「メール・・マジかよ・・」
元木のテンションが一気に下がってしまった。
すると元木がおもむろにレジカウンターの上に生徒手帳をポンと置いた。
孝史は生徒手帳をめくるとそこには高野由梨と書いてあった。
「この前店の外掃除してたら落ちてたんだよ」
「メールしておくよ」
「まだ遊ぶ約束とかしてないんだろ?」
「あ、あぁ」
「じゃあそれを口実に会う約束しちゃえよ。失敗すんなよ。」
「わかった」
孝史は話してスッキリした反面、元木も由梨のこと気になっていたから
少しだけ複雑だった。
いつものようにバイトが終わった。
自宅までの帰り道に由梨に初めての電話をかけた。
緊張のせいか、携帯を持つ手は少し汗ばんで震えている。
プルル・・・プルル・・・
「もしもし・・」
「あっもしもし・・・あっどうも・・こんばんわ・・俺・・だけど」
「ん・・・?孝史君」
「そうだよ」
「孝史君の電話番号知らなかったから解らなかったよ・・」
「教えなかった?」
「私のは教えたけど聞くの忘れてた・・アハハ・・」
「アハハ・・・」
「あっそうだ・・・店の前に手帳落ちてたから預かってあるよ」
「マジ?助かったぁ・・失くしちゃったからどうしようって思ってたの。孝史君に拾われて
良かったぁ・・明日はバイト?」
「明日は、休みだよ。明日暇だし手帳渡そうか?」
「うそー明日私も暇だから遊ぼうよ」
「うん。いいよ」
「じゃあ明日学校終わったら連絡してね。」
「わかった」
そんな会話をしているうちに孝史は家の前まで来た。
「俺、家ついたから。じゃあまた明日」
「うん。ドタキャンとかしないでよ。」
「わかってるよ。絶対しないから。」
「約束だよ。 オヤスミ」
「おやすみ」
孝史と由梨は明日会う約束をして電話を切った。
家に帰ると母親が話かけてきた。
「孝史、バイトもいいけど受験勉強してるの?お父さんも心配してるのよ」
「ちゃんとしてるよ。」
そんな空返事をしたが孝史の頭の中は由梨でいっぱいだった。
由梨の事を考えることで部活での悪夢、進路の不安から開放されていた。
その日の夜、孝史は眠れずにいた。
布団の中で目を閉じていると由梨の顔が浮かんでくる。
明日会って何を話そう・・・
でも・・手帳を渡すだけだし・・・
そんな事を考えていたら外は明るくなり始めていた。