動き出した歯車
昔々、とある国にアリスという名の魔法使いがいました。
その国はアリスを心臓として動いていました。
ある日、アリスは第2のアリスに殺されてしまいました。
時が経ち、第2のアリスは第3のアリスに殺されてしまいました。
時が経ち、第3のアリスは第4のアリスに殺されてしまいました。
時が経ち、第4のアリスは第5のアリスに殺されてしまいました。
そうして、国の心臓は"新しく"代わってゆきました。
時が経ち、第5のアリスが第6のアリスに殺されようとしたその時、1人の少女がそれを阻止しました。
第5のアリスは救われましたが、永遠に眠る呪いをかけられたのです。
そして―――
カツン...コツン...
真っ暗な廊下に無機質な音が響く。そして水槽の前に音がくると、その音はやんだ。
音―少女は、ガラスの水槽に手を添えた。血のような紅の瞳に、水槽に閉じ込められた金髪の少女がうつる。
「絶対に――お前を目覚めさせてやる。」
20XX年 東京
その日はやけに暑かった。
お天気お姉さんはピクニック日和などと言っていたが、そんなものではすまないほど、日差しは強かった。
立本 碧斗は汗の滲むシャツをはためかせ、クーラーを求めて校舎へと駆け出した。
―― どうせならサボろっかな。
ビビリな俺の精一杯の抵抗を叱るように、蝉がけたたましく鳴き始めた。
―― やっぱり行こう。
チャイムが鳴るまであと僅か。俺は全力疾走した――
筈だった。
????年 東東京國
「此処は...何処だ?」
駆け出した瞬間、意識がプツンと切れたかと思うと、草むらに放り出されていた。
なんとか起き上がったものの、どうも体がうまく動かない。
(夢の中みたいだな。)
起き上がった俺は――息を呑んだ。
そこは戦場だった。
「「殺せ!」」
「「叩き潰せ!!」」
火の粉を巻き上げ、月光を浴びて踊る剱。地を揺らす銃声。血の匂い、腐った膿の臭い。
おびただしい死体の数。
見ているだけで吐き気がする。俺はパッと目をそらした。とにかく、この夢から目を覚ましたい。授業が始まっているかもしれないのだ。
――こういうのって、だいたい頬をひっぱたくといいんだよな。
パチンッ...
痛い。
―― ...な、なにかの間違いだよな。
パチンッ...
痛い。
俺は全てを悟った。その瞬間、俺は叫んでいた。
「うぁああああああ!!!ヤバイヤバイヤバイ!!」
―― いやさ、たまーにおもうよ?異世界生活してみてーなとか。高校生にもなって何考えてんだ俺ってね、自制してるよ毎回。うん。でもね、カワイイ女の子がいっぱい出てくるアニメとか想像するじゃん。異世界ってこんなのかなって。キャッキャウフフしてーなって。でもさ、実際はこんなにグロい戦場でしたなんて、笑いごとじゃねーし。いつ死ぬかわかんないし!まって、落ち着こう。落ち着くために落ち着こう。何言ってんだ俺。
あーもう、今更だけど冷蔵庫に残してたプリン食べたい――
ゴンッ!
苦悶する俺の頭は鈍い音をたてて、たんこぶというお山をつくった。
「いっつぅーー」
「おい、少年!なにボサッとしてるんだ!お前はそれでも東東京國の男か?」
胸ぐらを掴まれてゆすられる。「さっさと戦え!」
胸ぐらから手が離され、俺は地面に膝をついた。見上げると、俺に拳銃を突きつける少女がいた。
黒いフード付きのパーカーを着ていて、黒と銀の髪を耳の下でツインテールにしている。銀と赤のオッドアイで俺を見つめていた。
「此処で死ぬか、戦死するか。さぁ、はっきりしろ!」
拳銃を俺の額にピタリと当てて怒鳴っている。ビビリが発動した俺は、首を縦にガクガクと振った。
「よし、いけ!」
何がよしなんだ?などと考える暇もなく、少女に背中を押された。
「え?え、え、えェえええええ!!」
坂を転がり落ち、馬に乗った兵士の前に着地した。
斬!
兵士が剣を振るった。俺は転がり、間一髪で剣を避ける。が、二度もそんな幸運には恵まれない。剣は俺をめがけてまっしぐら。
「うわぁぁああああああ!!!」
俺の最後の抵抗、手を振った。
斬!
ビチャッ...
血を撒き散らしたのは俺、ではなく、馬と兵士だった。
「...?」
はてなマークの冠を被った俺はしきりに首を傾げていた。
その時だった。
「「「ワァアアアアアアア!!!!!」」」
歓声が空間を揺らした。辺りを見回すと、青いマントを羽織った人々が一点を見つめているのだった。
俺?!
「「「勇者だ!」」」
「「「我らの希望!!!」」」
皆はお互いの肩を叩き合い、涙を流していた。歓声は間違いなく俺に向かってだった。
「え?ぇ?エ?ェ?」
肩をポンッと叩かれた。振り返ると、あの少女が頷いていた。
「よくやった!首領の首をとったお前は英雄だ。」
―― 俺は英雄なのか?その気はないけど。てゆーか!!
「あのー、学校に帰りたいんですけd」
「今からちょっと行くところがある。お前もこい」
俺の言葉を遮って、ずんずん前に歩き出した。それも、死体の上を平気で歩くのだ。
とりあえず、ついていく他がない。俺も歩き出そうとした――
ドサッ
俺の意識はそこで消えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。