第五話 lv*
「申請用紙?」
元は紙に書かれた文字を読み上げる。
申請用紙の文字の下には空欄があり、下にはアクリミナのサイン。
サインの横に赤い色で円の中に読めない文字と幾何学模様がハンコのように押されている。
サインが読めるのもアクリミナの先ほどの指を鳴らしたおかげだろう。
「そ、申請用紙。その空欄に書いた願い事を叶えてくれるわ」
アクリミナが申請用紙について説明する。
この申請用紙に書かれた願い事は、サインをした神や人の力が及ぶ範囲で願いを叶えてくれるらしい。
人であるならば、その人の財産や権力、
腕力や魔法の範囲内でできる事であれば可能であり、神であればその影響力は桁が上がる。
勿論この申請用紙には制限があり、なんでも出来るわけではない。
サインをした本人の力が及ばない事柄は叶えられないし、洗脳や思考の書き換えなどは受け付けない。
今回の場合であれば、アクリミナに対して元に服従しろと書いても却下されるし、アクリミナの力で一国の王にしろと書いても国民や現王の意向に沿わないので却下される。
サインをした本人以外の他人への強制力も働かない。
知り合いを紹介しては貰えるが、知り合いと自分を恋仲にしたりは出来ない。
貨幣に関しても財産を持っている人からならば受け取ることができるが、神が人の世の貨幣を持っているわけではないので、もらう事はできない。
貨幣に換金出来る鉱物などを受け取る事は出来るだろうが、元にはこの世界の貨幣についての知識もなく、また、どの鉱物が価値が高いのかも知らない。
そもそもこの世界の鉱物の名前も知らないので申請用紙に書き込めない。
アクリミナに聞けば教えてくれるだろうが、別に元はお金が欲しい訳ではない。
折角、自称ではあるが女神のサインが書いてあるのだ。
神の力でしかできないような事を書き込みたい。
「少し質問があるんだが、ステータスがあるって事はlvもあるのか?」
「あるわよ。習熟度を表す値や存在の階位を示してるわね。ただ、元のlvを極限まで上げてくれとかは受理されないわよ?」
「そうなのか?」
「他人への強制に分類されるらしくて、元のlvを上げたり、スキルを授けるとかは出来ないの」
「結構融通が効かないんだな。じゃあ何が出来るんだ?」
「そうねぇ。季節を変えるとか、石を金に変えるとか。意思のある生物自体には何も出来ないけど、無機物とか世界自体には干渉出来るわよ?なんたって始まりの女神だから」
アクリミナは胸を張ってそう言うが、元にとってはあまり嬉しい情報ではなかった。
力が強すぎて元だけが恩恵を受けられそうもないし、寧ろ悪影響にしかならなそうだからだ。
召喚された国の天候を一年中嵐にする何て事も出来るかもしれない。
スキルを根こそぎ持って行ったクラスメイト達に嫌がらせは出来るかもしれないが、自分も嫌な目に合うだけだ。
スキルが欲しいと書いても受理されないらしいので、スキルは諦めるしかない。
ステータスをいじる事も出来ない。
そもそも自分のステータスがどうなっているのかも知らない。
そう思った元はアクリミナに聞いてみた。
「なぁ、自分のステータスは見る事は出来るのか?」
「出来るわよ。頭の中で『ステータスオープン』って唱えてみて」
そう言われ元は頭の中で『ステータスオープン』と唱えてみる。
すると頭の中に自分の名前や筋力、知力などの項目が浮かび上がり、項目の横には数字が存在していた。
比べる相手もいないので各項目の数字は置いておいて、元はlvに注目していた。
lv1
荒木元と名前が浮いている下に、確かにlvが表示されていた。
元はいつになったら召喚されるんだろう。