第四十六話 曲解
遅くなった上に短いです、すみません
元は視線の先の人物、メニア・サウマーレから目が離せなくなっていた。
先程までそこにいたはずの人物が、途端に存在感を増した様な、そんな違和感。
認識はしていたが、あやふやな存在が鮮明になった様な印象か。
メニアが別人になったとか、入れ替わったと言う訳ではない。
その証拠に、大人達は気にしていないのだから。
メニアの髪は腰まで届くウェーブのかかった美しい金髪。
長い睫毛の乗った蒼い瞳は垂れ気味で、何処か愛嬌を感じさせる。
小さな鼻に可憐な花の蕾を思わせる唇。
口元は初めの印象通り、穏やかな微笑みを湛えている。
体躯は小さくも大きくもなく、華奢な印象。
すらりと手足が延びた細身ではあるが、ただ細いだけではなくしっかりと女性を主張している身体つきをしている。
大人と子供の境である年齢特有の危うさを何処と無く漂わせている美女がそこに居た。
元はメニアに対して、挨拶をした時に感じた印象の差に戸惑っていた。
穏やかそうな人だな、とは思った。
優しい微笑みを浮かべていたから。
しかし思い返して見ても、顔の作りも体型も思い出せない。
只々穏やかな印象のみが想起される。
そのあやふやな印象が、先程の精霊を呼び出した際に霧散したかの様だった。
「あらあら、剥がれちゃいましたか」
メニアは変わらずニコニコと微笑んでいるが、その表情は悪戯がバレた子供の様だった。
元は訳が分からず眉を寄せて怪訝な顔をする。
「あー、荒木。メニアさんはな、お前と会った時からずっと魔法使ってたんだよ」
メニアの横に立っている柏木がそう元に種明かしをする。
どうやらメニアは魔法を使い、初めから外見の印象を誤魔化していた様だ。
何故そんな事を、と思いメニアに顔を向ける。
「うふふ、父からは優秀な子達だと聞いていたものですから。つい悪戯心が働いて、試しちゃいました」
言葉尻に ♪ が付くように弾んだ調子でメニアが言う。
聞けば柏木もサウマーレ家で挨拶をした際にやられた様だ。
なんともタチが悪い冗談である。
荒岩は初見で見抜いた様で、魔法に関しての知見が彼女に及ばない二人は素直に感心してしまう。
感心された荒岩は恥ずかしそうに縮こまっているが。
「もう少し後で解こうと思ったのですが、先程感じだ魔力が異質で魔法の維持を怠ってしまいました」
私も修行不足ですね、と言って笑っている。
メニアは先程聞いた様に精霊魔法の適性を持っている。
適性精霊は光。
詳しい原理は元には分からなかったが、光の屈折を使って本人ではなく背景や周りの人物に意識が向く様にしていた。
魔力の流れの違和感に気づき、注意深く観察されると見破られる様な魔法で、比較的簡単な魔法だそうだ。
魔法陣から吹き出した神気とも言える霊気を、異質な魔力と認識しているらしい。
元にとっては馴染み深い霊気も、魔力に慣れ親しんだこの世界の住人にとっては違和感がある様だ。
霊気。
霊力とも言うが、霊気も魔力も目に見えず感じる物という意味では同じような物かもしれないと、元は一人納得した。
勿論同じものでは無いのだが、今そのことを考える必要も時間もないのだ。
魔法についての知識を深めてから、後々考えようと元は心の片隅に止める事にした。
「魔法ってのは色んなことができるんだな」
霊力や魔力についての考えは脇に置いておいて、元の口から出たのはそんな感想だった。
対象への誤認。
初めはそんな風に考えたが、メニアの話を聞くとそうではないようだ。
幻覚のように見えている物を別の物に認識するのではなく、無意識的に注視出来なくさせる。
そんな魔法だろう。
魔法初心者の元は、憶測を憶測のまま自分勝手に判断するのは違うだろうと思い、考えた事をそのままメニアに聞いてみる。
「そうですね。無意識に興味を逸らすような魔法ですから、違和感を感じれば直ぐに見破れる類のものです。幻覚魔法は精神に作用しますから、別物ですね」
元の考えは間違いなかったようで、メニアから合格点を貰えた。
メニアは終始ニコニコとしていて、なんだか元は全身がむず痒く感じられた。
幼い子供が頑張って考えた事を褒める母親のような、そんな表情に感じたからだ。
四人姉弟の末っ子として育った元は、母だけでなく姉たちからも同様の表情を向けられていた事を不意に思い出した。
元が中学に上がる頃にはその様な表情で見られる事は少なくなったが、それでも末っ子にちょっかいをかけてくる家族は時々そんな顔で構ってきた。
元を溺愛していた長女がある日を境に姿を消し、意気消沈して居た元を元気付ける為だったのもあるだろう。
それも元が祖父に連れられ、心天流の仕事を手伝う様になってからはめっきり少なくなっていた。
そんな幼い頃の思い出を思い起こさせる表情に不意に出会った事で、元の胸中にはなんとも気恥ずかしい感情が沸き起こった。
メニア本人はただ単純に魔法初心者が前向きに魔法について考えている姿が、この世界の魔法を覚えたての子供達に重なり可愛いと思っただけだったのだが。




