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チートスキルは無効です  作者: アルマカン
第二章 力の在り方
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第四十一話 兄

 

 建物の中へ歩を進めた元の目に飛び込んで来たのは、紙が飛び交う光景だった。

 大きさはA4程だろうか。

 長いカウンターが据え置かれた横長の部屋は、三階までの吹き抜けになっている。

 カウンターで隔たれた部屋の玄関側、元たちがいる側にはソファと言うにはお粗末な長椅子が整然と並んでいる。


 カウンターの奥側には、机が並べられていて、魔法省の職員であろう人々が黙々と仕事をしている。

 長椅子に座っている人が時折カウンターに立っている職員に呼ばれて、何かの書類と共に話し合っていた。


 カウンターの上、立っている職員の頭よりも高い位置に、部署が書かれている札が宙に浮いている。

 見えない壁にでも固定されているかのように、札は微動だにしない。

 魔法省内の各部署の名前が書かれているようだ。


 昔、祖父の用事について行った市役所の様子を元は思い出していた。


 始めに元の目に飛び込んで来た紙が飛んでいる光景は、比喩表現では無く実際に紙が飛んでいるのだ。

 部署から部署へ、来省した人から受付の人へ渡された書類などが飛び交っている。

 二階や三階からも様々な書類が各机へと送られていた。

 見えないレールでもあるかのように、淀みない動きで書類たちは決められた場所へと向かっている。

 遠目から見るとまるで鳥たちが羽ばたいているような、そんな光景だ。


 元は暫し、呆然とその光景を見ていた。

 周りの人々やグリーが特に無反応なのは、当たり前の光景だからだろう。

 書類飛び交う光景になんら心を動かすことなく進んでいくグリーの後に続く元は、つい横目でその光景をチラチラ見てしまう。


 玄関から見て左手奥に進んだグリーが立ち止まったのは、魔道具管理部と書かれた札が浮いているカウンターの前だった。

 グリーは受付の職員と一言二言言葉を交わし、そのまま奥へと向かった。

 グリーは元に一言、「こっちだ」と告げて先導していく。

 地下へと続く階段を降り、地下一階の廊下をすすんでいく。


「なぁおっさん。荒岩さんと柏木を待ってなくていいのか? 」


 廊下を歩きながら、元は前を行くグリーにそう問いかけた。


「ユリもユウも既に部屋で待っているようだ、問題ない」


 振り返ることなく元の質問に答えたグリーは、一度立ち止まってから元に振り返った。


「それよりもゲン。我々は義理とはいえ兄弟の間柄だ。おっさんはどうかと思うぞ」


 振り返ってそう言ったグリーの顔は、少し憮然としているように元には見えた。


「そう言われてもな… 。急な話だったし、おっさん呼びで慣れちまったからな。えっと、グリー… 兄さん? 」


 少し気恥ずかしさを覚えながら、元はグリーを兄と呼んで見た。

 もの凄い違和感である。


「… 照れながら言われると、こちらも恥ずかしいな。私は末っ子だったから兄と呼ばれたこともない。対外的な事もあるから、慣れていくしかあるまい」


 グリーから言い出した事だが、三兄弟の末っ子として育ったグリーにとっても兄と呼ばれるのは恥ずかしいらしい。

 元から顔を逸らして正面を見ながら発せられた言葉は、少し弱々しい響きを伴っていた。

 そのまま歩き出したグリーの背を見ながら、元もまた恥ずかしさを覚えていた。


 将来的にどうなるかは分からないが、この世界で生きて行く上でメクリミア家に世話になる以上、慣れていかなければならない事の一つだろう。

 男兄弟がいなかった元にとって、義理とはいえ兄ができた事は嬉しい出来事だ。

 実の姉が二人と従姉妹の姉の一人共に育った元は、男兄弟に憧れを持っていた。

 弟の元を構い過ぎる程に構って来る姉達を嫌いではなかったが、幼い頃に父を亡くしている元にとって男家族と言えば祖父しかいなかった。

 そんな家庭で育ったからだろうか、街中で見かける兄弟などに対して羨ましいと思う事は一度や二度ではなかった。


 意図せず急にできた義理の兄弟に対して、嬉しさと共に戸惑いを覚えているのが元の現状だろう。

 メクリミア家に着いたその日からセメリゥアからも義母ははと呼ぶように言われているが、一日二日でそうすぐに呼べるようになる訳も無い。

 おいおい慣れて行くだろうと、元は問題の先送りをする事を決めていた。


 廊下の突き当たりにある扉の前でグリーが足を止める。

 扉の上には『血晶錬成室』と書かれたプレートが張り付いている。

 グリーはためらう事なく無言で扉を開け、室内へと歩を進めた。

 元も黙ってその後へと着いて室内へと入って行く。


 室内にはグリーが言ったように、荒岩友理と柏木優が待っていた。

 二人の他に男性の老人と、元達よりは少し年齢が上に見える女性が二人と話しながら待っていた。

 老人の方は先日、元達が養子になる説明を受けた際にいたゲニアだ。

 チェレサ公爵家の前当主をしていた人物で、今は息子に当主の座を譲り老後の気ままな生活を送っていると本人が説明していた。

 もう一人の女性に対しては、元の記憶にはいない人物であった。


「お、荒木とグリーのおっさん。おっつー」


 グリーと元の入室に気がついた柏木が、右手を上げながら声をかけて来る。

 特に緊張する事もなく、いつも通りの軽い挨拶だった。


「お、おはよう。荒木君」

「おはよう、荒岩さん。柏木も」


 柏木に続き荒岩も元に声をかけて来る。

 元は二人に挨拶を返しながら、二人と話していたゲニアと女性に顔を向ける。


「おはようございます、ゲニア様。っと… 」


 二人に対して声をかけながら、元は歯切れ悪く口籠もった。

 ゲニアの名前は覚えていたが、女性の名前が分からなかったからだ。


「ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。私はメリア・サウマーレ。サウマーレ公爵家の四女です。ユウの義理の姉になります」


 優雅と言える所作でスカートの両端をつまみ上げ、膝を折りながら嫋やかに頭を下げメリアは元に自己紹介をする。


「あ、初めまして。荒木元です」


 そう言って元もメリアに対して頭を下げる。

 すると横からグリーがため息をつきつつ、訂正してきた。


「ゲン、お前は既にメクリミア家の一員だ。母から言われた名で応えねば」


 元はグリーにそう言われ、昨日聞いた名前を思い出す。


「あー、えっと。ゲン・メクリミア・アラキです。…よろしくお願いします」


 自分の名前のように思えない新しい名前で自己紹介し直しながら、元は再度頭を下げた。

 メリアは「よろしくお願いしますね」と微笑みながら応える。

 メリアとの自己紹介を終え、荒岩と柏木の二人とそれぞれの公爵家での話を暫くしていると、グリーから声がかかる。


「お前達は昨日まで一緒だっただろうが。そんなに積もる話がある訳でもないだろう。そろそろ今日の目的作業を始めるぞ」


 元達にとって異世界の公爵家の生活は一日とはいえ、想像もしていなかった生活様式であり、話したい事はいくらでもあったが、グリーの言う通り今日の目的はおしゃべりではない。

 居住まいを正し三人がグリーに向き直る。


「なんじゃ、グリーの坊主はせっかちじゃのう」


 ゲニアもグリーに向き直り、やれやれと嘆息する。


「話ならば魔法適性検査の後でもよろしいでしょう、閣下。血晶の完成には時間が掛かりますから」


 ゲニアの言葉になんら動じる事なく、グリーは淡々と言葉を返す。


 室内を見渡せば、高さ一メートルはある大きなかめが三つ並んでいる。

 その前までグリーは歩いて行き、元達三人に声をかける。


「では、血晶錬成を行う。三人共、それぞれの瓶の前に並べ」


 そう言って三人を瓶の前に並ばせた。


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