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チートスキルは無効です  作者: アルマカン
第二章 力の在り方
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第四十話 米

 

「なぜそんなに疲れた顔をしている? 」


 朝食が済んだ頃グリーがメクリミア家の別宅を訪れ、元と顔を合わせて初めに口にした言葉はそんな物だった。


「昨日の疲れが残ってて… 」

「? 」


 元の今一要領を得ない返答に、頭の上に疑問符を浮かべるグリー。

 グリーが仕事場へ帰った後、セメリゥアの宣言通り元は充てがわれた部屋で採寸を行なった。

 採寸自体はすぐに終わったのだが、その後が大変だった。

 布の材質選びから色の選定、デザインやボタンの数、服に合った靴選びなどが始まった。

 元の好みを根掘り葉掘り聞かれたり、元に合う色はどうだとか以外に鍛え上げられている身体に似合うデザインはこうだとかの議論? が熱く交わされることになったのだ。

 主にセメリゥアとメイドたちの間で。

 呆気にとられ流されるまま女達のオモチャと化した元は、夕食まで付き合わされることとなった。

 実家で姉や母親に同じようなことをされてはいたが、人数と経済力が違うと此処まで長丁場になるのかと、辟易してしまった。

 夕食時にセメリゥアから家具の話を出された時は、思わず「おまかせします」と口にしていた。

 服作りと同じような未来が元の脳裏に浮かんだからだろう。

 そんな前日の疲れが未だに残っている元の顔は、グリーから見ても明らかなようであった。

 本人が言わないのなら大した事では無いのだろうと、グリーもそれ以上追求する事はしなかった。


「まぁいい。今日は血晶を作ってもらう。意別の間で血晶については説明されたか? 」


 グリーは元を迎えに来たらしく、別宅で顔を合わせてから客間で話すことなく別の場所へ移動するため、別宅の廊下を歩きながらそう聞いて来た。


「いや、聞いてないな。何、ケッショウって? 」


 元もグリーに追従して廊下を歩きながら聞き返す。

 初めて聞いた血晶と言う単語が気になったからだ。


「魔術制御に必要な媒介だ。昔は無かったものだが、十数年前に開発されてからは魔術師には必須の物だ。単純な魔法ならば必要ないが、複雑な魔法回路を使う魔術などでは安定性が増すため今では広く普及している」


 グリーは元に説明しながら廊下を歩いていく。

 玄関の前にあるエントランスに留まっている馬車に乗り込み、御者が元とグリーの二人が乗り込んだのを確認して目的地へと馬車を走らせる。

 グリーは元と向き合うように座った馬車の中で、血晶の説明を続けた。


「魔法については意別の間で教わったと思う。詠唱と陣の二系統が個人で扱う魔法だ。儀式魔法については学院が始まれば教わるだろう。今は詠唱と陣を組み合わせた魔法が主流になっている。魔力光で陣を形成し、起動の為の短い詠唱を唱えると魔法が発動されるのが今の魔法だな。血晶は主に陣の形成補助と、魔力の安定供給に使われる。他にも使い道はあるが、今はいいだろう。今日のところは血晶の作成をするだけだ」


 相槌を打ちながら公都の大通りを進んで行く馬車の中でグリーの説明を聞いていた元は、ふと馬車の窓から外を伺った。

 朝の時間という事もあって、通りには仕事に赴く人々の姿が多くある。

 朝食を外で済ます人を対象にした屋台が所々並んでいて、朝から元気に客寄せのために声を張り上げている店主の姿がチラホラ見える。

 持ち運びやすい手の平サイズのサンドイッチの様な軽食を売っている屋台が多い様だ。

 地球で言う西洋の食文化に近いこの世界の食べ物は、元の知っている食べ物と似たものが数多くある。

 今の所食べ物で困ったことはないが、この世界に来てから米を食べる機会が無いことだけは不満であった。


「あぁ…。米が食いてぇなぁ」


 窓から外を見ながら、ついポツリと日本語での愚痴がこぼれた。

 対面に座っていたグリーが元の呟きを聞き、怪訝な顔をする。


「…なんだって? 」


 元は自分が日本語を呟いたことに気付き、慌てて取り繕う。


「あ、いや。故郷の食い物が食いたいなって言ったんだ。こっちに来てから見たことがないから」


 元は先ほど日本語で言ったことをラポニア語で言い直す。

 まだラポニア語で話すことが当たり前になっていない元は、ふとした拍子に日本語で独り言を言ってしまう。

 ラポニア語で日常会話が出来る様になったからと言っても、思考や独り言までもが急には変わらない。

 人に聞かれたくない呟きなどならば良いだろうが、会話する相手がいる時には気をつけなければならない。


「成る程、食事か。しかし前に聞いた時には殆ど同じ様なものなのだろう? 」


 グリーには公都までの道中で、元達の元々の世界、地球での食事とこの世界の食事に殆ど差異がないことは伝えていた。


「まぁね。大体は同じだけど。主食がこっちはパンだろ? 他の国ではパンが主食って所もあったけど、俺達の国は〝コメ″ってのが主食でさ。無い物ねだりってのは分かるけど、そろそろ恋しいなってね」


 諦めてるから良いんだけどね、と元はため息交じりに呟いた。


「コメ、か。聞いたことがないな。いや、お前達の国の言葉でコメと言うのなら、探せばあるのか?それはどういった食べ物なのだ? 」


 グリーが元の言うコメに興味を惹かれたのか、米について聞いてくる。

 元としても米が食べられる可能性があるのならと、米についてグリーに説明しようとする。


「コメってのは白くて小さくて、えっと、〝炊く″ってなんて言えば良いんだ? 蒸すでもないし、煮る? いや、違うな。炊く…水と合わせて蓋して熱して食うんだ」


 元は米について説明しようと思ったが、改めて考えてみると説明が難しい。

 元の知っている限り、炊くと言う調理方法を用いる料理が米以外思い浮かばなかったのだ。

 案の定、グリーにはあまり伝わっていなかった。


「白くて小さい、か。麦とは違うのか? 麦は轢いて粉にして使うが、粒のまま食べるのか?それは実か? 種か? どんな植物だ? 」


 グリーが矢継ぎ早に元に質問する。

 グリーの質問に元は答えようとして、言葉が詰まる。


「えっと。実? 多分実だよな? あれ、でもテレビで芽が出てるの見たな。じゃあ種、かな? うん、種だ。それで見た目は麦に似てる植物、だったと思う。米が出来るとこう下向くんだよ、重みで。確か殻がついてるから、殻をとって〝炊いて″食べるんだ」


 憶測と想像に基づいた元の米の説明を聞いたグリーは眉根を寄せながら、怪訝な顔で元に言葉を返す。


「なんとも曖昧な説明だな。機会があったら聞いてみるが、期待はするなよ」


 そう言って窓の外に視線を向けたグリーがこの話は終わりとばかりに目的地への到着を口にする。


「そろそろ着く様だな。血晶の説明が途中だった気がするが、ユウとユリが来てからでも良いだろう」


 いつの間にか血晶の話から米についての話になっていたが、そんな事を話しているうちに、馬車は三階建ての建物の前に留まった。

 煉瓦造りの建物は清潔感があり、入り口の前には屋根付きの段差のゆるい大きな階段が存在感を放っている。

 屋根を支える柱には『魔法省』と文字が書かれていた。

 馬車から降りた元とグリーは階段を上り、建物の中へと入っていった。


ちなみに米は稲の果実だそうです

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