第四話 申請用紙
「…は?」
元はアクリミナの言葉を聞きながら理解できなかった。
スキルの説明をし、クラスメイトに贈ったと言うスキルがもう無いと言う。
「いやだって、みんなに贈るためにスキルを用意してたんだろ?俺の分が無いってのは…」
「勿論、人数分用意してたわ。寧ろ多めに、ね」
「じゃあなんだって俺の分が無いなんて事になってるんだ?」
当然の疑問として元はアクリミナに尋ねる。
クラスの人数分用意した結果、教師の分が足りなくなって元の分を渡したとか、召喚魔法で喚ばれた人数が想定より多かったなどの理由ならばまだ納得できる。
しかし人数分より多く用意していたスキルが足りなくなったとはどういう事か。
「それがね、一人一つスキルを受け取ったあとに余ったスキルを分配し始めちゃったのよ。まさかあなたの分まで使い切っちゃうとは思わなかったわ」
「なんだそれ…」
困っちゃったわねぇと言いたげにアクリミナは苦笑している。
それほど親しいクラスメイトがいなかったとはいえ、教師も含め一人も元のスキルを残しておこうと言い出す生徒がいなかったとは。
ここまで人望がなかったとは元も思っていなかった。
怒りを通り越して呆れてくる。
ただでさえ召喚されるタイミングが他のクラスメイトとズレているのに、スキル無しの元を召喚した魔術師達は必要とするのだろうか?
後から来て役立たずだと気付いたら、下手したら殺される可能性もある。
「分かってて止めなかっただろ、自称女神さん」
自称に力を込めて元はアクリミナに言う。
「余ったスキルを分配する事は別に気にしてなかったけど、元の分を残さず分配するとはさすがに思わなかったのよ。それ以前に寝てる人がいると思ってなかったけど。元に気付いたのはみんなを送り出してからだもの」
「そう言われるとな。自業自得になるのか…?」
アクリミナに寝てる人がいるとは思わなかったと言われたら、確かに元にも反論できなかった。
聞けば送還の魔法は意識がある状態の生き物にしか掛からないらしい。
スキルを持たない状態で召喚されなかっただけ、マシなのかもしれなかった。
「スキルは今、手元に残ってないからあげられないんだけど。代わりと言ってはなんだけど、あなたにはこれをあげるわ」
そう言ってアクリミナは元に一枚の紙を差し出してくる。
「これは…なんに使う紙なんだ?文字が読めないんだが」
差し出された紙を手に取り、元は文字の書かれた表と何も書かれていない裏とを見る。
「今あなたにも読めるようにするわ」
アクリミナがそう言いながらパチリと指を鳴らすと、紙の上の文字がジワリと変化して元にとって馴染みの深い日本語に変わった。
元が目を落とした紙の上部には大きな文字でこう書かれていた。
[申請用紙]
と。