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チートスキルは無効です  作者: アルマカン
第一章 異世界クルセリア
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第三十話 告白

 

「え…魔女? 」


 柏木が呆気にとられた顔を荒岩に向ける。

 魔女と聞いてグリーが口を開いた。


『魔女?お前たちの世界には魔法は無いんじゃなかったのか? クルセリアで魔女と言えば魔法を習熟させた女性魔法師が名乗るものだ。お前たちの世界では、別の意味があるのか? 』


 グリーが三人の顔を眺めながら聞いてくる。


「いや、俺たちの世界で魔女って言えば魔法を使う女じゃねーか?箒にまたがって空飛んだり、でっかい鍋で怪しい薬作ったり」

「漫画やアニメだともっと色々してるけど、まぁ物語の中の話だな」


 柏木と元がそれぞれ、自分の知っている魔女のイメージをグリーに話す。

 グリーはどういう事なのかと荒岩に目線で問う。


「一般的な、話としては、間違っていません。正しくは、魔女とは、魔女術を扱う者で、男性の魔女も、いますが。私たちの、世界では、魔法の存在は、知られていません。私たち、魔に連なる力を扱う者たちは、存在を隠して生きています」


 果実水の入ったコップを両手で握りながら、荒岩が地球での魔法使いたちの事を話し出す。


「…魔法使い、と言われる存在は、お二人が言う通り、物語に登場する事が、多いです。日本語で魔法、と一言で言われる事が、多いですが、地域や系統で、呼び方は沢山、あります。今は、その話は置いておきますが。私の知る魔法とは、西洋方面の事だけなので、他の地域については、詳しくありませんし、魔術や魔道の話は、今は、必要ありませんものね。私たちが暮らしていた、現代の地球には、魔力の元となる魔素が極端に、少ないんです。神という存在が地上にいた神代でさえ、魔力を行使出来たのは、神と呼ばれる方々が殆どでした。神々が使うその力を、人々は恐れると同時に、憧れ、羨みました。あ、ここで話している神々とは、ゲルマン神話や、ギリシャ神話などに出てくる神々の事です」


 いつもは自信なさげに辿々(たどたど)しく話す荒岩が、いつの間にか流暢りゅうちょうに話していた。

 今まで話す事ができなかった自分の秘密を打ち明ける事が嬉しいのか、その頬は少し緩み、楽しそうに話し続ける。


「しかし、少ないながらも魔法を扱う事ができる人が出始めます。きっかけが何であったのかは、諸説あります。小神族であったエルフとの間に出来た子供からだったとか、文字に起こされる事が無かった神の子、半神からだったとか。なんにせよ、神の血を引く人間からだったとするのが、一番支持されている説ですね。魔法を扱う事ができる人間、分かりやすく魔法使いと呼びますが、魔法使いは古代ギリシャには既にいたとされています。あ、古代ギリシャとは大体三千年位前の時代だと思ってください、グリーさん。道具を使わず火を起こし、嵐を呼び、川を逆流させ、大地を動かす。そんな事が可能であったと言われています。しかし神々が去った神代の後の世界からは、魔法の根幹であった魔素が減少し始めたそうです。古代ギリシャの時代では、既にそこまで大きな力を発揮できる魔素の量ではなくなっていました。そんな折、エンペドクレスが四大元素を提唱。アリストテレス等がその考えを元に錬金術を始めます。アルケーとは何か、という物質の根源を一つと考え解明しようとする考え方を発展させたのです。魔法使い達は魔力を作り出す魔素も、アルケーが変質したものと考えていたので、錬金術によって魔素を発見する可能性が広がりました。魔法使いの血を引く者達は、錬金術によってかつての神代の頃の魔法使いに近づこうとしたのです。しかし研究が進むにつれて分かったことは、万物に宿っていると考えられていた魔素は物には宿っていない、という事でした。魔素が少なくなり、使える魔法も手のひらに火を浮かべる、小石を二つに割る、前髪を揺らす程度の風をおこす。魔法使い達はこのまま、力が無くなっていくのかと諦めていたそうです」


 荒岩は楽しそうに語りながら、果実水で喉を潤す。

 元、柏木、グリーは呆気に取られてそんな荒岩を見ていた。

 こんなに生き生きと話している姿を見た事が無かったのだから、仕方あるまい。


「な、なぁ荒木。何言ってるか分かるか? 」

「魔法使いがいた、という事は分かった」

「だよなぁ… 」


 元と柏木は顔を寄せ合い、ひそひそと話す。

 そんな二人を気にしたそぶりも見せず、荒岩は話し続ける。


「時代は流れ力を失いかけていた魔法使い達は、ある話を耳にしました。無機物から命を生み出した錬金術士の話です。ホムンクルスを生み出した男、パラケルススの話です。興味を惹かれた一人の魔法使いが、パラケルススを訪ね、フラスコに入っているホムンクルスを見たそうです。魔法使いは驚きました。命を生み出した事にでは無く、ホムンクルスには魔素が宿っていたのです。魔法使い達はホムンクルス研究に飛びつき、魔素の存在を発見するに至ります。物質に宿ると考えられていた魔素は、血に宿っている事がわかり、そこから更に発展した研究により、物質では無く霊的な力によって生み出されている事が分かりました。あ、でもこの世界ではどうなんでしょうか? この世界に来て魔法がある事は聞いていますが、まだどのような系統があるのか、聞いてませんよね。素風症は魔力が原因という事でしたが、大気に魔力が満ちているのですか? 魔素では無く魔力自体が存在しているとなると、それはどんな形で存在しているのか気になりますね。物質に魔力があるのであれば、物質が存在する事で世界に影響があったりするのですか? いえ、影響があるというより影響を与えるのでしょうか。この世界では…」


 話しているうちに地球の魔法の事から離れ、この世界の魔法の話に逸れていく荒岩に、グリーは「まぁ落ち着け」と言って話の軌道修正を求める。

 嬉々として話していた荒岩は、一旦口をつぐむ。


『この世界の魔法については公都に着いてから話されるだろうから、今は忘れろ。聞きたいのはお前の事だからな、ユリ。お前達の世界にも魔法があったと言うのは分かった。細かい歴史などは省いてくれていいから、今回の原因について思い当たることを話してくれ。まぁ素風症についての話なので聞かれたついでに伝えておくが、お前達が魔法について知らないだろうから魔力と言ったが、ユリの言った通り大気に宿っているのは魔素だ。詳しくは省略するが、体内に魔素を取り込み、魔力に変換する際の反応が素風症だ。生まれたばかりの赤子はそれまで、母体の胎内にいるからな。母親の胎内では魔素を変換した魔力を供給されていたのだ、自力で魔素を変換する事が初めてだから起こる反応だと言われている』


 荒岩に話の続きを促すように、グリーは視線を向ける。

 荒岩も頷き、続きを話し始める。

 興奮はまだ冷めないのか、辿々しい喋り方は見受けられない。


「成る程、そういう仕組みなんですね。簡潔に言ってしまうと、私は魔素や魔力に対しての耐性が元々あった事から、素風症の治りも早かったと思われます。ただ、大気に魔素が満ちているような環境は初めてだったので、同じく素風症になったのかと。この世界の魔素と地球の魔素が同じなのか別物なのか、それは分かりませんが、地球の魔素は血に宿ると先程説明しました。しかし、魔素は物質では無いという事も分かっていたので、血、その物に宿っているのでは無く、血を命の根源と考え、霊的な物に宿っているのでは無いかと魔法使い達は考えました。この事から考えると、私という存在事態に魔素は宿っているわけです。地球では力が弱まっていたので周りに影響を与える事はありませんでしたが、この世界には魔素が満ちています。その大量の魔素を取り込み、自身の魔力の制御がうまく出来なかった結果、その…お二人に知らず知らず、影響を与えていたのでは無いかと… 。お二人が寝込んでいる時の、現象は、私のせいだと、思うん…ですよ」


 最後の言葉は消え入りそうに小さくなり、嬉々として話していた態度から一転、いつものように途切れ途切れに荒岩は言葉を絞り出した。

 顔をうつ向けて申し訳なさそうに、元と柏木にチラチラと視線を向けている。


『…つまり、この世界に来た事によるユリの魔力の暴走で、二人に影響が出た。という事か? 』

「…はい、そう考え、られます」

『ふむ…。考えられなくは無い、か。魔力は世界に干渉する力だとされているからな。この世界とは別の構成魔法を使うユリの影響を、二人が受けてもおかしくは無い』


 グリーが考え込んでいる横で、荒岩は小さく縮こまり、元と柏木に申し訳なさそうに「ごめんなさい」と呟く。

 元としては寝込んでいる間の現象については、自分の力が関係していると思っている。

 事実はどうか分からないが、荒岩が一方的に罪悪感を感じる必要は無い。

 柏木については荒岩が言っている通り、荒岩の魔力の影響があるのかもしれないが、自分はそうでは無いのだと、隠している力について話そうと元は思った。

 戦争をしている国に来た事や、魔物や魔獣が跋扈ばっこしている世界だ。

 いつまでも力を隠しておけるとは思っておらず、この機会に話してしまおうと元は決めた。


「荒岩さ… 」

「いやー多分それ、違うと思うんだよね、俺。魔法とかよく分かんねーけどさ、素風症って病気はその、魔素ってやつが体の中で魔力に変わるからなるんだよな。俺のは多分、別の力が影響したんだと思うんだよね」


 元が口を開いたのに被せて、柏木が話す。

 自分の考えを否定された荒岩は顔を上げ、怪訝な顔で柏木を見つめる。

 グリーも興味深そうに柏木に視線を合わせる。


「で、でも… 」

「まぁ聞いてよ、荒岩さん。荒岩さんが自分のことを話してくれた事だし、俺の事も話さないとって思ったんだよね」


 そう言って柏木は右手を視線の高さに上げ、親指と人差し指を開く。

 銃の形を手で真似るような形だ。

 何をするのかと三人が手に注目すると、バチッ!と音がなり指の間を電気が走る。

 三人は驚きに目を開き、柏木の顔を見る。


「こんな事も出来るぞ」


 そう言って柏木は右手を開き、てのひらをグリーのコップに向けた。


『? 何を… 』


 何をするつもりだ、と言う前にグリーの前にあったコップが柏木の手に引き寄せられるように浮かび上がり、その手の中に収まった。


「俺、超能力者なんだよね」


 驚く三人に対して柏木は、なんでも無いように言った。

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