第三話 スキルとステータス
「元ね。さて元、さっきも説明したけど召喚されたのはあなたのクラス丸々全員よ。教師もいたからあなたを含めて三十三名ね。見ての通りもういないけど」
周りを見るまでもなく、元が眠りから覚めた時から誰もいないのだ。
クラス単位で喚ばれたはずなのに。
別々の場所に喚ばれたのかとも思ったが、アクリミナの話からはまとめて説明したと言われた。
まさか…。
「置いて行かれた…?」
入学してから一年と半、クラスにいる間は常に寝ていた記憶しかないが、まさかこんな異常事態で置き去りにされるとは元も思っていなかった。
教師がいたにもかかわらず、である。
「寝ていたあなたもあなただけど、教師含めて誰も起こそうとはしなかったわね。スキルの説明をした後は遠巻きにしてたわ」
「スキル?」
「えぇ。さっきも説明したように、いきなり異世界に召喚されても何の力も持たない少年少女じゃすぐに死ぬでしょ?それじゃ可哀想だからみんなに便利なスキルを贈ったのよ」
「なんかゲームみたいだな」
アクリミナの説明によるとクルセリアと呼ばれる世界には個々人にステータスが存在し、努力や生まれつき、加齢などの様々な要因でスキルを覚えるらしい。
攻撃スキルや補助スキル、アクティブスキルやパッシブスキル。貴重なスキルとしてユニークスキルや継承スキルなどがあるらしい。
「ステータスやらスキルやら、ピンとこないな。数値化された筋力とかって見た目に反映されるのか?」
「基本的にはね。スキルもステータスに付随するものだから、力を上げるスキルを持ってる人は、見た目華奢な女の子でも大人の男より力が強いって事はあるけど」
「…ファンタジーだな」
スキルの説明を聞きながら、元は腑に落ちない気持ちでいた。
地球での常識で考えたらあり得ない事だが、聞けば魔法もある世界らしい。
さらにステータスにスキルである。
地球でさえ格闘を真面目にやっている人間は体格を超え子供でも大人を組み伏せる事はできる。
それが外から見ただけではわからないスキルによって、ただの素人が武器を持った戦士に打ち勝つことさえ出来るという。
はっきり言って詐欺である。
「俺もただの素人の子供に負けるかもしれないって事か…」
元はそう言って自分の手に視線を落とす。
元は祖父から幼少の頃より武術を教え込まれていた。
組み打ち投げのある現在で言うところの総合格闘技だ。
祖父の三人の子供には女の子しか生まれず、孫も元を除いてみんな女の子だった。
母が元を産んだときには狂喜乱舞し、市内のジムや道場に片っ端から道場破りに赴いたらしい。
孫には最強の武術だと言いたかったらしいのだが、周りの人達からしたらいい迷惑だ。
最も、祖父から教わったこの格闘技は普通の武術ではない。
寧ろ、武術でさえない。
対外的に武術だと言っているだけだ。
結果、元は幼い頃から祖父はもとより、道場破りの時に縁が出来た各ジムや道場からの出稽古に赴いた人々から英才教育と言う名の扱きを受けて育った。
授業中寝ているのも朝稽古と帰宅してからの稽古が激しいのも原因であった。
それとは関係なしに寝るのが好きなのも理由ではあるのだが。
そんな武術漬けの毎日を送っている元であっても、スキル一つで子供に負けるかもしれない。
そんな話を聞かされては心中穏やかではいられなかった。
しかし元はさっきのアクリミナの言葉を思い出す。
便利なスキルをみんなに贈った、と。
「俺もそのスキルって奴を貰えるのか?みんなも貰ったんだろ?」
好きなスキルを選び放題と言うわけにはいかないだろうが、クラスメイト達は便利なスキルを貰ったらしい。
地球に帰ることができないのであれば、せめて身の安全を確保するようなスキルは欲しい。
それがないのであれば仕事に役立つだとか、生活に役立つだとか。
何故、地球の高校生を喚び寄せたのかは分からないが、元としては別に強くなって無双したいとか、世界に名を轟かすとかいった目的はない。
生活の保障さえされていればいいのであって、名誉欲などないのだ。
そんな期待を込めてアクリミナを見たのだが、アクリミナの返答は予想外であった。
「それがね、もう無いのよ。スキル」