第二話 名前
「女神に神界…ね」
男は呟きながら周りを見る。
何もない白い空間。
上下も分からず果てもないように見える。
自分の知識にない場所なのは確かなようだ。
「んで、その自称女神さんは俺に何か用なんですか?用がないなら帰りたいんですが」
神を名乗る得体の知れない存在を前に、多少言葉を選びながら男は言葉を吐いた。
恐れがない訳ではなかったが、畏まった言葉使いが苦手なのだ。
「自称って言われるのは心外だけど、まぁいいわ。ここは通過点であって、終着点ではないの。だからここから帰ることはできないわね」
眉を八の字にして困ったような顔つきでアクリミナは告げた。
「通過点…?」
男はアクリミナの言葉に訝しげに聞き返す。
「そう、あなた達を呼んだのは私じゃなくてクルセリアって世界の魔術師達ね。早い話が召喚魔法で呼び寄せられたのよ」
アクリミナの話によれば、クルセリアと呼ばれる世界の魔術師達が、大規模な召喚魔法を行使した結果、男が所属している高校の一クラス丸ごと地球から転移させられたらしい。
ここはクルセリアを管理する神達が住まう神界の一部らしい。
強制的に喚ばれた人間達に同情したアクリミナが、クルセリアで使える力を授ける為に用意した場所なのだとか。
一通り聞いた男はジト目になりながら自称女神を見ながら呟く。
「嘘くせぇ」
聞いた話はここ最近定番になったラノベの設定そのままだ。
しかし嘘くさいと思ったのは異世界や召喚と言った話ではない。
「女神さん、あんた面白がってるでしょ?」
男が嘘くさいと思ったのは自称女神が「同情して」と言った部分だった。
何故ならばぱっと見、眉を八の字にして顔を俯き加減にふるふると振る仕草はいかにも「私同情してます」と言いたげだが、座っている男からは薄っすらと弧を描いている口元が見えていたからだ。
イタズラ好きな男の姉が同じ仕草をよくしていたのも疑った要因だが。
疑心を抱いた男は言葉選びを辞め、ぶっきらぼうな言葉使いに戻っていた。
「同情もしているし面白がってもいる、が正しいかしら」
男を見ながらアクリミナはクスクスと笑いながら言うのだった。
「そう言えばまだあなたの名前も聞いていなかったわね。他の子達はまとめて説明したから名前なんて聞かなかったけれど、折角だから、ね」
アクリミナが前屈みになり、豊満な谷間を見せ付けながら聞いてくる。
「荒木…。荒木元だ…です」
胸元から視線を逸らし、辿々しく名乗る。
からかわれているのは分かるのだが、頬が赤くなるのはしょうがなかった。