第十八話 今更の
「あそこでいっか」
男子生徒が一つのベンチを指し示しながら言った。
歩いて近づきそのまま男子生徒は座る。
間を開けて荒岩友理がその横に座った。
元は二人の正面に立ったままだ。
「あれ、座んないの? 」
「三人座ったら話しにくいだろ。俺は立ったままでいいよ」
「そ」
男子生徒は元の返答に、短くそう返した。
「んじゃ、何から話そっかね。俺は二人の名前知ってるけど、一応名前から言おっかね。俺は柏木優。特にこれといった特技とか無いし、成績も運動も普通。一応弓道部に入ってる。クラスには特に仲がいい奴は居ないな。査定官にもどこでもいいって言ったし」
柏木優はそこまで言って、元に目でお前は? っと問いかける。
「荒木元だ。クラスじゃしょっちゅう寝てたからクラスのことはよく分からん。俺もどこでもいいって答えたな」
元は荒岩を見る。
「あ、荒岩友理です。趣味は読書で、文芸部に、所属してます。査定官には、希望はありませんって答えました」
三人が其々自己紹介をする。
高校二年になりクラス替えでクラスメイトの顔ぶれが変わってから既に半年、今更の自己紹介だった。
「じゃあどこでもいいって言った奴が集められた感じだな。まさか戦争してる国に行かされるとは思わなかったわ」
柏木の言葉に元と荒岩は頷き、同意を示した。
「だな。まさか戦わされるのか? 殺し合いとか勘弁願いたいんだが」
元の言葉に荒岩が「殺し合い… 」っと小さく呟く。
その顔は心なしか青くなっている。
「正直分かんねーよな。召喚なんてよく分かんねー事になってんのに、戦争だぜ。テレビの世界だもん。分かんねーよ」
柏木は分かんねーを連呼する。
現代日本で生活していた、ただの高校生達だ。
それが見知らぬ世界に喚び出され、戦争をしている国へ連れて行かれると言う。
冷静でいられる方がおかしいだろう。
柏木は「ビンボークジだわー」と嘆いて天を仰ぐ。
「ま、まだ、戦うって決まったわけじゃないです。今の私たち、戦えませんし…」
荒岩が青い顔のまま男子二人に言う。
半分以上、願望から来る発言だが、確かにまだ何をさせられるかは伝えられていない。
元達を召喚した意図さえ、召喚された者達には伝えられていなかった。
召喚された途端、ステータス消失という大事件が起こったのだ。
この世界の人々はその対処に追われ、召喚者達にはとりあえず言葉の習得をさせておくという対応を取った。
未だに世界は混乱の只中だ。
元達への対応は後回しにせざるを得なかった。
しかし何時迄も不安要素を放っては置けないという事で、今回各国への振り分けを行い、それぞれの国が対応する事に決まった。
良くも悪くも、一国に召喚者達が留まっているのも都合が悪かったと言う事情もあるが、そんな事を元達は知る術が無かった。
「だよなー。折角貰ったスキルも意味無くなっちゃったしさ。スキルさえあればまだマシだったのに。なんで無くなったんだろなぁ」
柏木が「ないわー」と言いながら首を振っている。
その言葉を聞いた元は複雑な顔をした。
そんな元の顔に気を止めたのか、荒岩が元に対して口を開く。
「どうしたんですか? 」
元は荒岩の質問にどう答えようかと悩んでいると、柏木が横から口を出す。
「そういや荒木は遅れて召喚されてたよな。あれ、なんで? 」
「いや、なんと言っていいか…」
やはり元は柏木の質問にも言い淀む。
当たり前だ。
素直に「神様のところでステータス無くしてました」なんて言える訳がない。
数秒悩んだ後、元は口を開いた。
「先ず、俺はスキルを貰ってない。起きたら誰もいなくて、女神だって奴から召喚されたことを聞いた。クラスメイトが根こそぎスキルを持って召喚された後だって事もな。そんで意識のない奴は送れないから俺だけ送れなかったとも言ってた。だから俺は遅れてきたし、初めからスキルも無い状態だったんだよ。だからスキルについては思うところがあるし、遅れたのはそういう理由だ」
元は二人を見ながら努めて冷静に聞こえるように答えた。
内心は焦っていたが、それを表に出してもいい結果にはならないだろう。
嘘は言っていないのだ、嘘は。
「え、マジで。スキル無しとか罰ゲームじゃん」
「お前らが全部持ってったんじゃねーか… 」
少し声の調子を落として柏木が元に向かって言う。
それに対し元は、溜息を吐きながら柏木に答えた。
呆れと安堵がない交ぜになった溜息だ。
それを聞いて荒岩が少し、申し訳無いといった顔になる。
「あ、あの…荒木くん…」
荒岩は元に対してなんと言っていいのかわからず、それだけ言って黙り込む。
そんな態度の荒岩に元は自分の顔の前で手を振って言う。
「あー、気にしなくていいよ。結果的には皆んな同じだし。今は何とも思ってないから」
そんな元の言葉に荒岩は安心して、俯けていた顔を上げる。
「荒木はカンダイだなぁ」
俺なら絶対根に持つね、っと柏木も軽い調子に戻っておどけて言った。




