第一話 白い世界
「…ん。……あぁ?」
見渡す限り白い空間が広がっている。
男は目を覚ましたばかりで働かない頭を振り、目をこする。
「どこだここ…?俺は確か教室で寝てたはずだが…」
右も左も前も後ろも、上も下も真っ白な空間。
なぜか影さえも出来ない場所で、男は頭を掻きながら独り言ちる。
全てが白い場所で地面であろう面に座っているが、影ができないことで座っているのか自信がない。
「白すぎて怖いな…。影もないから座ってんのか浮いてんのかも分からないし」
キョロキョロと周りを見てもやはり何もない。
「んー、夢か?」
あり得ない光景に夢かと思う。
今まで夢の中で夢だと思ったことはない男だが、夢以外に思いつかない状況だった。
「残念、夢じゃないわよ」
突然後ろから声をかけられる。
今の今まで誰もいなかったはずの場所から。
「なっ!」
慌てて振り返るとそこには女がいた。
波打つ金髪は輝きを持ち、腰まで伸びている。
アーモンド型の目はクリクリと可愛らしく、細く美しいカーブを描く眉。筋の通った鼻と小さく、しかしぷるりと主張する唇。目が離せなくなるほど整っている女だ。
服装は布を巻きつけて肩口で縛っており、腰をベルトで締めていた。
古代ギリシャかローマの服装とでも言えばいいのか。
「…夢じゃないならここは何処だ?ってかあんたは…何だ?」
男は女に対して〝誰″ではなく〝何″かと尋ねる。
作り物のように整った見た目をしている目の前の存在が、人に思えなかったのだ。
「あら、ひどい聞き方。こんな美女に対して」
にこりと笑って話しかけるが、完璧すぎるその笑顔は、綻びが無さすぎて不気味に見える。
「まぁいいわ。私はアクリミナ。〝あ″であり〝A″である始まりの女神。あなたに分かりやすく言うなら、ここは神界…かしら?」
アクリミナと名乗った自称神はそう言った。