昼寝と仕事と
自分を客観的に見つめ直せない人って痛いですよね……。
×××
医務室では消毒液の匂いがした。
「まったくー。宵待ちゃんは無茶するねー!レオンの腕が良くてよかったよー」
「レオンには、迷惑をかけた。」
「うんうん。上手く弾が抜けてるし、急所は外してるもんねぇー。」
「後でお礼しに行かなきゃ。」
「命令とはいえ、宵待に発砲するとかレオンは男前だね!!」
微妙に噛み合ってない会話に周りは苦笑する。
でも、
「そもそも貴方のせいだ。」
「なんのことぉー?」
舌打ちをしたくなる。このチャラ男が。
コイツが私に銃を見せ、渡したきた奴だ。
コイツのせいで私は脱走する事になった。
でも、後悔はしてない。今は無事に彼の元に辿り着けるように祈るだけだ。
×××
あれから2週間は経った。傷は治ってきている。だが、元からの体質が貧血かのだから未だに血が足りてない。
ベンチに座ってブラブラと足を揺らしながら目の前で飛んだり跳ねたりして遊ぶ子供達を眺めていた。
……若いっていいね。
背もたれに凭れて空を眺める。今日は快晴だ。飛行機雲も見える。
つまり昼寝日和だ。
立ち上がってビルに向かって歩き始めた。
無駄に豪華なエレベーターで最上階まで行って屋上に出た。持参の寝袋を抱えて。とてもミスマッチだ。
さっそく日当たりの良いコンクリートに敷いてアイマスクを着けて寝る体勢に入った。
×××
シグレに呼び出されたレオンはビルにやって来ていた。
「レオン」
「それで?なんの用だ?」
「ボスが宵待を呼んでいるらしいのだが連絡が着かないらしい。」
「またかよ!」
「いや、それがGPSはビルを指しているらしい。」
「はァ?じゃあビルの中にいんだろ。」
「探しても居ないと言っているだろう。」
「間宵に探してもらえよ……今いねェのか。」
「そうだ。また俺達が知らない所を見つけてそこに居るんじゃないかとボスが言っていた。」
「で?」
「つまり今手の空いている人は宵待を探さなくてはいけない。」
「チッ。」
「心当たりがあったりするか?」
「まァな。」
レオンはくるりと反転してエレベーターに乗った。
「心当たりと言っても虱潰しに探すつもりだから別行動の方が効率が良い。」
「分かった。何処から探せばいい?」
「とりあえず隙間。」
「は?」
「隙間。」
「隙間?隙間ってあの隙間か?」
「あァ。机と机の間。棚と壁の間。ベッドと床の間。何処でもいい。隙間だ。」
「……何故そんな所に。」
「知らねェよ。宵待の考えることなんて。アイツは大体なんとなくで行動する奴だ。大方居心地が良いからとかだろう。」
「そうか。」
チン
「では、俺はこの階の幹部から入れるエリアを探そう。」
「あァ。」
スッとエレベーターを降りたシグレは足早に去って行った。
レオンは溜息を付いて最上階のボタンを押す。
「どうせ屋上で昼寝でもしてんだろ。」
天気が良いし。
そして、その推測は当たっている。
×××
チン
最上階で止まったエレベーターから降りてそこからは徒歩で屋上へ向かう。他の階とは違って証明が暗く設定してある。
両手をズボンのポケットに突っ込んで颯爽と歩く姿はとても様になっている。
ガチャリと屋上に出るドアを開けると、途端に日の光が目に鋭く刺さる。
「まァったく。」
毒づきながらドアを開け放ち、平坦なコンクリートを眺めるともっさりとした寝袋があった。
近づくと白い髪が見えた。
真上から覗き込むような体勢で話しかける。
「オイ、宵待。起きろ。ボスが呼んでいるぞ。」
「……んー……まだ、もう少し、眠い。」
「はァ……。」
……俺も馬鹿だよな。いろいろと。
寝袋に入ったまま器用に丸くなった宵待を肩に担いだ。
「レオン。下ろして……」
寝起きなのか何時もよりハスキーになった声だった。宵待はもぞもぞと寝袋から腕を出してアイマスクを取った。
「時間がもったいねェ。オマエぐらいだそ?ボスを待たせて殺されないのは。」
「多分、レオンも殺されない。」
「ソレはどうだろォな。とりあえず顔なんとかしろ。」
「酷い言い草だと思う。」
「思わず本心が出た。」
「酷い。」
その会話はエレベーターに乗り込んでからも暫く続いた。
チン
「レオン。まさかこのまま行くつもりなの?」
「あァ。俺らの苦労を知ってもらおうと思ってな。」
「えー」
「オラ、着いたぞ。」
二人のガードマンが重そうな扉を開けた。
「やぁ、レオン。ほんと君はいい働きをするね!ありがたいよ!!」
「はぁ。ありがとうございます。」
嬉しそうにうんうん。と頷いたボスはレオンの肩に担がれた私を見た。
「宵待……何処に居たんだ?」
「屋上。」
「何をしてたんだ?」
「昼寝。」
「…………。」
「…………。」
「そうか。」
「うん。」
「そろそろケジメを付けなきゃいけないと僕は思うんだ。ねぇ、宵待はどう思う?」
「別に。」
どうでも良さそうに応えた宵待にボスは方眉を上げた。
「それはどういう意味?」
「どうもこうもない。私は別に此処に居たくて居る訳では無い事を貴方は知っているはず。立場なんて、貴方が取って付けたものだ。」
「……」
緊張の糸が張り巡らされている。
レオンは肩に担いだままの宵待を放り出したくなった。
何で俺がこんな目に合わなきゃいけないのかと。
「まぁ、ね。君への誘い文句は覚えているけど。」
「なら、そういう事だと思う。」
ボスは机の上に肘を付いて深い深い溜息を付いた。
「宵待はそういう子だったね。組織に引き込められただけ良いとしよう。っと、レオンごめんね?宵待は置いて行っていいよ。」
「……分かりました。失礼します。」
ガチャンと重そうな扉が閉まった。
「さて、宵待。仕事だ。」
床に転がすように下ろされた宵待は寝袋からでて髪を整えていた。
仕事と聞いて、とても面倒くさそうな顔をした。
「いや、そんな顔されてもね。僕困っちゃうなぁー。」
「内容は?」
簡潔に返してきた言葉に肩をくすめたボスは黙って書類を差し出した。
宵待は書類を受け取るとその場でざっと目を通した。
そして書類から目を離して虚空を一瞬見やってから目を閉じた。
数秒
「断る。」
資料に添付された写真を見つめて宵待は軽く身震いする。
「うーん。やっぱり?補助だけでもいいから現場に行ってくれないかな?」
「現場に行くと多分、体力が持たない。」
「そんなに?」
「……持ち帰った物とかある?」
「うん。ちょっと待ってねー」
ボスは受話器を取って何処かに電話を掛け始めた。
そして数分。
事務処理の人員が数人、持ち帰った物や写真と動画の入ったUSBを持ってやって来た。
動画と写真をパソコンで流しながら持ってきてもらった物を眺める。
「これぐらいかな。どう?」
「どうもこうもない。どうしたらこんなになるのか理解に苦しむ。」
「……いや、まぁ。いろいろあったんだよ。」
「私はそれを聞いている。」
「あ〜。君達、説明よろしく。」
と、事務処理の人員に全てを投げた。
彼らのうちの一人が『はい。』と、冷静な声で返事をして説明を始めた。
黙って聞きながら持ってこられた物を見ていた。
「──ということになります。以上です。」
「ありがとう。」
説明をしてくれた彼にお礼を言ってからボスに顔を向けた。
「どう?受けてくれる?」
と笑顔で聞いてくるのがとてつもなくイラッとする。
「生理的に無理。」
「いや、僕も無理だけどさ。」
「それを他人にやらせるな。」
「だって僕ボスだもん。」
うざい。そしてコレも。
「こんな人間初めて見た。本当にいると思わなかった。」
冷めた視線でソレを見やる。
「自分を正義と信じて疑わない人ほど気持ちの悪い奴はいない。サイコでイカれた野郎の方がまだマシ。」
そして、
「これで実力が無ければ良かったものの、無駄に実力が合ったせいで被害が大きくなってしまった。どうして誰も止めない?」
「それを調べてもらおうと思ってね?」
「……普通に考えるなら、権力が絡んで動くに動けなかったか。彼に力が有るとしたら能力のせいか。」
「そうなんだけどね?どうやらさ、もっと事態は悪いようでね。」
ノリノリで話してくるボスが本当にうざくなってきた。
手のひらを向けて黙らせる。
「この件、私じゃなくても時間を掛けるなら絶対に解決出来る。私に拘る理由を言って。」
「……」
目の前の物に視線を向けてそう言った。
「……君は魔法を信じるかい?」
「あったら嬉しいと思う。」
「……そうか。いや、あのね?僕らの能力があるだろう?これはどんな人でも使えるらしいんだよ。」
「能力には魔法だなんて便利な機能は付いていない。能力を魔法と呼ぶなら私はこの組織から出て行く。」
「いや、怒んないで!そうじゃなくて。使えない人からしたら理解出来ない、不思議な、それこそ魔法のようだと表現出来る能力を皆が使えるようになったらどうする?」
「暫くは世間は混乱するだろうけど、そのうち何とかなる。」
「とても現実的な意見だね。そうじゃなくて、もしそうなれば。僕らの専売特許にならなくなってしまうじゃないか。」
なるほど。信憑性など無くても早急に対応しなくてはいけない。もし、本当だったら致命的になるから。尚且、彼自身が能力者だったなら動かざるを得ない。
「分かった。善処する。」
「ありがt「注意事項のみを今説明して。」
「……うん。」
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