宵待
前のよりは長い……?
×××
橋の下で膝を抱えた少女はぼんやりと水の流れを眺めていた。
そこに一艘の小舟が来た。目の前を通り過ぎるその瞬間。
少女は反対方向に駆け出した。
それとほぼ同時に、後ろから銃声と共に荒っぽい声が掛けられる。
「やっと見つけたぜ!!」
足元の土が抉れる中、目の前にもう一人立ちはだかる人影があった。
「ボスからの伝言だ。『ちょっとおいたが過ぎるよ。』だそうだ。」
無言でその手に握られたナイフを躱して土手を駆け上がった。
いつもより荒っぽい。それぐらいボスは怒っているし、彼らは焦っている。
逃げ切らなきゃ。
「お願い。助けて。」
呼びかけると呼応するように丸い光が周りから浮かぶ。
「時間稼ぎをお願い。」
そう頼むと強めに光った。それを了承と取って、道路を走り始めた。
どうやらこの街はとても活気が良いようで、夜中だというのに人で賑わっている。
"人を隠すなら人の中に"の言葉に則って早歩きで人混みをすり抜ける。
それに、この人混みの中で攻撃はしないだろう。
と、思った瞬間。
ドオン
と爆発音がした。
唖然として見上げた高い建物から黒い煙が見える。
人々は逃げ惑って逆方向に進んでいく。
グッと奥歯を噛み締める。
このまま人混みに流されると元来た道を戻る事になる。それだと後から追いかけてきたあの人達に見つかる。
だからといって爆発した方向に進むのも目立つ。部下の人達に見つかる。
人混みに混ざる選択を取って波に流されようと体を反転させた瞬間。
頬を銃弾が掠った。
もう見つかったの?!
銃弾が来た方向の死角となる建物の影に飛び込んだ。
「ちょっと、予想外……!」
もう少し穏便に来ると思ったのに。
「宵待。」
後ろから静かな声が聞こえた。振り向くとナイフを構えて私を見据えていた。
「以外にやるなぁ、オマエ。非戦闘員なのに幹部の俺様達を二日も翻弄するなんて。」
後退しようとすると後ろから声を掛けられた。
「うそ……」
速すぎる。時間稼ぎが通じなかったのだろうか。
じりじりと距離を縮められていく。
「あの時間稼ぎ初めて見たぜ?中々オモシロかった。俺様にかかればどうってこと無いけどなァ。」
「……手こずっていたくせに。」
頭の上を軽口が飛び交う。
せめて、せめて。銃を届けなくては。この人達に取り上げられる訳にはいかない。
だからと言って、逃げ場は無い。ここは狭い建物の後ろだ。
「大人しくすれば怪我はしない。」
「抵抗するなら死なない程度に撃つけどなァ。」
コレを、届けなきゃいけない。
今までは彼らの言う通りにして来たけど。でも、なんとなくだけど。
コレだけは渡しちゃいけない。
黙って俯く私を抵抗しないと思ったのか銃口を私の肩に押し当てながら器用に手錠をかけた。
「まァったく。ここ二日生きた心地しなかったわ。」
と押し当てる銃口が離れた瞬間。体当たりをかまして走り出した。
表の通りに出れば人が集まっているはず。
早く、早く。
と、左肩に激痛が走った。
「ぐぅっ……!」
「こ、の、宵待!!手間かけんじゃねェ!!」
「油断したお前が悪い。」
「ウルセェ!!」
二人の足音が迫ってくる。幹部の中でもずば抜けた戦闘員の彼らには絶対勝てない。でも、
「負けられないの……」
『この街は、川が沢山ある。』
私は初めにそう思った。ふとよぎった考えに身を任せて走り始めた。
まだ、私の時間だ。勝ち目はある。
賑わう街から少し外れた最寄りの小さな小川に辿りついた。
「お願い。コレを彼に……」
ぼちゃんと川に投げ入れた。
と同時にその場に立っていられなくなった。
左の太股を撃たれたからだ。崩れ落ちながら頼む。
「ぐっ、……お願い。」
控えめに光る彼ら。空気が読めるのだと場違いの事を思った。
「宵待。ここまでだ。」
「ホンット、オマエって見た目にそぐわない行動するよなァ。」
今日見たあの血溜まりの光景を彷彿とさせる。
私から溢れる赤。
「もう、逃げないよ。」
「あぁ?まだ逃げる気だったのかよ。」
「私の勝ちだから。」
「?」
彼は銃口を私に向けながら不思議そうな顔をした。
それを最後に意識が暗転した。
×××
「オイ、止血すんぞ。」
「あぁ。」
「てか、オマエなんもしてねぇじゃねェか。」
「すまない。」
「チッ。わあってるよ!オマエだとやり過ぎるもんなァ。」
「レオン。宵待が言っていた勝ったとはどういう意味だと思う?」
「あ?知らねェよ。てか、こいつ戦闘員でいいんじゃねェか?」
「ボスが許さないと思うが。しかし、宵待の力を分かっていたから傷を付けてでも連れ戻せと言ったのだろう。」
「……なァ。」
「なんだ。」
「いや、やっぱ何でもねェよ。」
×××
ネタが早々につきそう。