待宵草
短いです。
×××
『ねえ、何故、待宵草は夕刻に開花すると思う?』
『それはね、一番美しいのが開花の瞬間だからだよ。』
『もちろん、開花してからも美しいんだけどね。』
×××
「はぁっ、」
息を切らせて路地裏に駆け込む。
壁に背をつけて荒く吐き出す息を片手で抑える。
バタバタバタッと足音が聞こえてきた。
思わず身体を固くして息を潜める。
「クソッ!どこ行った!!」
「二手に分かれるか?」
「あ゛あ?」
「逃げられたのはお前が油断したからだろう。」
「チッ!わぁったよ!!」
声が遠ざかって戻って来ない事が分かると同時に壁に背を預けてズルズルと座り込む。そのまま膝を抱えた。
「…………。」
このまま此処にいるわけにはいかない。
顔を上げると夜空に笑う三日月が見える。
はっと、我に返りもそもそと動きはじめる。
ボスの趣味なのか黒を基調としたシンプルなデザインのワンピースドレスを捲り上げて太股のベルトに挟んだ銃を取り出す。
そっと撫でると淡く光る。
額に銃を押し付けて暫くしてから立ち上がって歩き始めた。
×××
「ここ、かな。」
人気の無い廃墟となった屋敷を見上げる。
服越しに銃を撫でて屋敷に侵入した。
広いダンスホールのような場所に出ると、じっとその部屋の虚空を見つめて一人で頷いた。
あとは夕刻まで待つだけ。それまでは体を休めるとしよう。
×××
ふと、目が覚めた。
身を起こすと頬を銃弾が掠った。目の前には血を流す大量の死体。
そして、撃ち合う二人の男。
私の座っている所まで血が溢れている。
ふらりと立ち上がって二人の終わる瞬間を待つ。
発砲する度に元々割れていた窓ガラスがさらに飛び散る。
夕陽に反射してキラキラと幻想的な瞬間を創り出す。
互いが互いの銃弾で頬から血を流す。
踊るように、左に右に。前へ後ろへ。入れ替わり立ち替わり。
ステップを踏んで。
_その舞はいつ終わるのか。
_終わって欲しくない。
でも、もう今さらなのだ。全て。
流れるようなその光景は、終わりを告げる。
パァン
最後にお互いが同時に引き金を引いて終わる。時間差で倒れる二人。
その直後に駆け込んで来た男。
そこからその光景にノイズが走る。
『どうして!こんな男に付き合う義理はお前に無いだろう!!』
『……そうだな。』
『まだ、助かるかもしれない。待っていろ、今……』
『もう無理だ。聞け……』
目の前の光景はそこで途切れたが、彼は、言いたい事を最後まで言った。
それは分かった。
そして、私は目を閉じて。開いた。
ホールの隅で寝ていた私は立ち上がってホールを見渡す。
もちろんあれだけ流れていた血は無い。
「……ここ。」
彼が最期に居た場所。
だから銃は惹かれたのか。
彼はきっと、心配症なのだろう。残された彼の、唯一の友人が心残り。でもきっと、信頼しているから大丈夫だとも分かっている。それでも心配せずにはいられない。
笑みが零れた。
優しい想いは好きだな。
「それじゃあ、始めようか。」
彼が横たわっていた場所に膝を付いて銃を置く。
射し込んだ夕陽に背を向けて手を合わせた。ふわりと浮かんだ蒼い淡い光が手のひらに集まる。
「大丈夫。ちゃんと彼を探して渡すから。もしかしたらすぐに会えるかもしれない。」
だから、どうか、此処に独りで居ないで。
光が収束して銃に吸い込まれる。
それが終わると共に夕陽が傾いていく。
夕陽が落ち切る前に、黄昏が終わる前に、場所を変えなくては。
銃を拾い上げ、太股のベルトに挟むとすぐ近くの窓から外に出た。幸い、あのホールは1階だったから良かった。
走り出して数分。何処か分からない街に出た。でも夜になるというのに人は沢山いる。
舗装された道を歩く。これからどうしよう。目的は決まっている。人を探さなくてはいけない。彼の顔と名前は覚えている。
この銃の元持ち主の名前と顔も。
あとは、この銃が反応してくれればすぐに見つかる。
此処は川が沢山ある。揺らめく水面を橋の上から見つめていた。
今日はこの橋の下で寝ようかな、と。
×××
宵闇に影が一つ。
×××
連載……無理…。
気ままに更新していこうと思います。