ニチコー氏の配信記事
異世界ファンタジーを書いてみる。
人類が誕生する以前の、どこか遠い宇宙の地球型惑星での出来事だ。
主人公は、経済情報サイト「ブルン・ベルグ」の名物記者ニチコー氏としておこう。
ニチコー氏という一ジャーナリストが引き起こした4月28日のヤパン国経済の混乱についてのお話である。
この惑星で4月に入ってから非常に注目されていたのが、経済大国であるヤパン国の中央銀行が28日に金融政策として追加緩和を行うかどうか、という事だった。
惑星最大の経済国家であるメリケが、長らく行ってきた経済緩和策を見直すかどうかを考え始め、メリケの通貨ドールはジワジワと上昇しつつあった。
ドール価値の上昇は、強いドールを求めるタイプのメリケ人にとっては好ましい事ではあったのだが、反面メリケ国生産品を海外に輸出するのには不利であるとして、ドール価値の上昇を警戒する向きもあった。
惑星第二の経済国家となったチーナは、その経済規模にもかかわらず、通貨ギェンはドールにベッグするという奇妙な経済形態を持っていた。理由はギェンの国際的信用が低いためである。
チーナは時としてドール/ギェンの交換レートを突如として変更し、惑星経済を混乱に陥れた。
最近も、ドールの価値が上昇しそうになると、チーナの輸出企業保護のために数次の通貨切り下げを行っていた。チーナではパルタイと呼ばれる組織が軍を掌握しており、パルタイが大手国営企業も経営しているためである。
ユローと呼ばれる経済共同体は、ユロルを共同通貨としている。
ユローはユロルの価値が高くなってくると、共同体参加国の中に経済危機国を生み出す演出で、ユロルの価値を抑える方式を取って来た。
しかし、ユローに旧植民地からの難民が流入するようになると、ユロー参加国内部での対立が顕在化・先鋭化し、危機が演出ではなく現実の物と成りつつあった。
ヤパン国は、長らく調整弁もしくは被害担当艦の役割を担わされてきたのだが、数年前から方針を変更し、金融緩和を行い始めていた。
ヤパン国の方針変換は、惑星経済を非ゼロ-サムゲームと考える立場からは歓迎されたが、ゼロ-サム競争を行っていると考える勢力からは、警戒を持って見られる事となった。
4月22日のヤパン経済平均は、17,220エインで始まった。
22日10:00にブルン・ベルグはニチコー氏の署名記事で、ヤパン中央銀行の10兆エイン規模のETF追加買い入れ予測の記事を出した。
続いて同日13:30に、同じくニチコー氏の署名記事で、中央銀行が金融機関に貸し出す金利にもマイナス金利を検討と報じた。
中央銀行が市中銀行にマイナス金利で貸し出しを行えば、市中銀行は中央銀行から借金するほど金利分が儲けになる事となる。
銀行株を中心にヤパン経済平均は急騰し、その日の終値は17,572エインと352エインの株高となった。同時にドール/エインの交換レートも2エイン半ばのエイン安となった。
記事が配信される前に、株式を購入するか、エインを売ってドールを買っておけば、たいそう儲かったわけだ。
ヤパン国では4月29日からは春の大型連休に入るから、利益確定を行うマーケット参加者が多いが、エイン安・ヤパン株高の傾向は続いていた。
そして4月28日が来た。
ブルン・ベルグは0:01にニチコー氏の署名記事で、追加緩和の有無と緩和が見送られるならばいつ行われるか、についての記事を配信する。
ヤパンでは、真夜中の配信だ。
28日、ヤパン株式平均は17,439エインで始まった。
11:03に高値17,572エインを付ける。
そして12:01。株価が暴落を始め、同時にエインは3エインの急上昇となった。
ニチコー氏は12:15に、金融政策現状維持の配信を行った。
28日のヤパン平均株価は16,666エイン。まさに高値からは906エインの暴落であった。
連休中日の5月2日。エイン相場は107エインの防衛ラインを突破すると、106エイン半ばとなり安値から5エイン近く上昇して、エイン高を望む勢力が求めている105エイン越えに近づきつつある。
平均株価も続落して16,174エインとなり、28日高値からは、1,398エインの大暴落となった。
22日とは逆に、株売り・イエン買いで、大儲けが出来た訳だ。
非常に興味深いのは、ヤパン国の報道では「海外旅行で沢山買い物が出来る。」というニュースを取り上げたりはしているけれど、ニチコー氏の果たした役割を報じる事が無かったという事だ。不思議な話である。
なんだか、嫌な話であります。