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俺が働く喫茶店は猫カフェになりました。

  「客が来ない・・・」

  カウンターテーブルに頬杖を付いて可愛い制服を着た女友達が溜息をこぼす。

  「お前は仕事しろ」

  「うぇー、だるいー」

  「よし、クビにされたいようだな?」

  「働きます。働かせてください」

  「最初から働け」

  俺が、彼女の前に立ってチョップをすると、彼女は渋々といった感じにふきんをピザ回しのようにまわしてからテーブルを拭く。

  それをため息混じりに見届けていると、隣から小さな頭がにょっと俺を見上げる。

  「お兄ちゃんは相変わらず真木さんと仲がいいね・・・」

  「そんなんじゃないよ。あいつとはただの友達。俺は凪咲が一番好きさー!」

  不安そうな顔で俺を見つめる血のつながった妹の凪咲に頬ずりをする。

  すると彼女は安心したように「お兄ちゃん、痛いよー」と言うのだ。

  ほんと、凪咲と結婚したい! 凪咲可愛い!

  「貴様も仕事をしろ!」

  最愛の妹と、愛を深めていると後ろから冷たい声がして頭を叩かれる。

  せっかくのいい雰囲気だったのに! と勢いよく振り返って怒ってやろうとして振り返った瞬間、後悔する。

  「げっ、隼颯さん・・・」

  「隼颯さん!」

  「げっ、とはなんだ、涌田兄」

  「その呼び方やめてって毎日言ってるじゃないですか!」

  そこには、ショートカットの顔が整った美少女が立っていた。

  でも、俺がこの人にドキドキすることは無い。

  なぜなら、妹が好きだからということと、もう一つある。

  「掃除しろ。涌田兄」

  「人の話を聞けぇ!」

  飄々とした顔で、平然と俺の話を無視する隼颯さん。この人にドキドキする方が難しいわ

  そう、文句を言いながらも麻愛を仕事しろと怒った手前、自分がサボるわけにはいかないのでほうきを取り出して床を穿く。

  木でできたこのカフェは、2年ほど前に前のオーナーが建てたものだ。

  中は綺麗で、ランチなども安くて美味しい。なのに、客が1人も来ない。

  昔は常連さんが何人もいたのに、ある事件が起こってからは常連さんが来なくなった。そして極め付きは、目の前に出来た大型チェーン店。それに客が持っていかれた。

  それからは赤字続きで閉店してしまいそうだ。それぐらい、客が来ない。ほんとに来ない。

  それなのに、バイト代はこのカフェでバイトしている4人にちゃんと払っていて、逆に怖くなる。バイト代を出せる余裕なんてないはずなのに。

  (ここ、結構好きだったんだけどなぁ)

  開店直後の2年前からずっとここでバイトをしている俺としては、少し寂しい部分もある。

  だが、ここまで経営に苦しんでいる理由を知っているから何とも言えない。

  「皆さん、お疲れ様です。すいません、掃除をやらせちゃって」

  ほうきで床をはきながらこのカフェの今後を考えていると、奥からウェーブのかかった髪の毛を揺らして巨乳美人のお姉さんがエプロンを着けながら慌てたように入ってくる。

  俺達はお金をもらっているのだから掃除位はして当たり前なのに、なんでこの人は謝っているのだろうか。

  (そういう人だからだよなぁ)

  彼女の奥ゆかしさに、幸せな気分になる。

  彼女は、俺の好きな人である。

  え、あんだけ凪咲大好き! って言っていたのに? っと思う気持ちもあるだろう。だが、恋とは複雑な物なのだ。

  凪咲は大好きだし、守ってあげたいし、本気で結婚したいと思っていた事もあった。でも、俺の凪咲に対する「好き」という気持ちは、家族だからだ。異性としての好きとはまた違う。

  俺は、2年前から彼女、相川七星さんに恋をしている。

  「あのね、皆に話があるんです。聞いてくれる?」

  「話?」

  「なんですか?」

  皆、手を止めてカウンターの前に立つ、七星さんに注目する。

  皆の注目を浴びながら七星さんは息を吸って

  「このカフェ、猫カフェにしようと思います!」

  爆弾発言をかましてきた。

  俺達は、10秒くらいその場に固まる。

  猫カフェ? どこが? ここが?

  「「はぁあ!?」」

  俺と隼颯さんの声が店内に響く。

  「ダメ、です?」

  「いやいや、経済的に無理でしょ! 猫を飼うなんてそんな余裕ないですよね!」

  「涌田兄の言う通りですよ!」

  俺の言葉に、隼颯さんも頷く。

  本当は、バイト代を出すのも苦しいはずなのに、なんで猫なんか・・・負担が増えるだけだ。

  この状況で負担を増やせば確実にこの店は潰れてしまう。

  それだけはなんとか阻止しなくてはならない。

  「あのさ、経済的にとかなんで雷羽と隼颯が気にしてるの?」

  「は?」

  どうにかして、七星さんを止める術を考えていると麻愛が口を開く。

  何を言っているんだ、こいつは。

  「気にするに決まっているだろう! 私はチーフをやらせてもらってるんだぞ!」

  隼颯さんが俺と同じ想いを口にする。

  すると、麻愛だけではなく、凪咲までも首をかしげた。

  何に文句があるんだ? 自分の好きな、自分が働いてる仕事場が無くなるなんて嫌だだろう?

  「ここは、私達の店じゃなくて七星さんの店でしょ? その店をどうしようと七星さんの勝手じゃん。そこまで私達が口を出していい事じゃないよ」

  たしかに。麻愛の言い分は最もだ。なんか情けなくなって、床を見つめてしまう。だけど、七星さんの事だから俺達のことを思って猫カフェを初めて、バイト代を出そうとしてくれているんだ。俺達に心配をかけないように。

  そんなの、好きな人がそんな風に考えてるのを黙って見過ごせる訳がないだろ!

  「だけど、七星さんは!」

  「お兄ちゃん?」

  下を向いていた俺が勢いよく顔を上げたことで、凪咲は心配そうに俺の腕に触れる。

  なんでこんな時まで可愛いんだ! 俺の妹は!

  胸きゅんが収まらず、悶絶していると腕にものすごい衝撃が走る。

  「おい、キモ兄貴。七星の心配ばっかりしてるみたいだけど、お前は私だけ見てればいいんだよ。つうか、経済的に無理とか、お前は七星の銀行の講座でも見てんのかよ。気持ちわりぃな! ストーカーかよ」

  え、誰これ? 凪咲? っていうか、腕が痛すぎて動かせないんですけど? これ骨折してるんじゃね?

  「あ、あの、凪咲さん?」

  「だから、私が言いたいのはさ、経済的に無理なら七星だってこんな事やらないって事だよ。好きにさせてやれよ! 分かったか、クソ兄貴! 次、七星七星って言ったら、私しか見れないように、私しか好きになれないように監禁して、私でしかイケない身体にしてやるからな! 分かったか、クソッタレ!」

  「あ、はい」

  妹の急変っぷりに圧倒されて、口からはかすれた声しか出なかった。

  当の凪咲は、深呼吸をして、いつものように俺を見上げている。

  え、まじでさっきの何?

  凪咲には、いろいろ聞きたいことが色々ある。だが、今は猫カフェ問題が先だ。

  確かに、麻愛と凪咲の言う通りだ。

  猫カフェにすると七星さんが決めたのなら、従業員でしかない俺達に意見する資格なんてない。だって、この店は七星さんのものなんだから七星さんが好きに使っていいに決まってる。それに、七星さんもちゃんとした大人だ。お金が無いのに、新しいことを始めようとするなんて有り得ない。

  隣に立つ隼颯さんを見ると、彼女も同じように思ったのか、俺を見る。

  「あ、あのね、その・・・」

  今まで、黙って私達の話を聞いていた七星さんが申し訳なさそうに呟く。

  俺と隼颯は顔を見合わせて同時に溜息をつくと、七星さんに向き直る。

  「俺は、賛成」

  「・・・私も」

  「や、や、やったぁあ!」

  俺と隼颯の言葉で七星さんが飛びながら俺に抱きついてくる。  おっほ、む、胸が・・・パラダイす・・・

  「いってぇ!」

  「おい、クソ兄貴。お前、今すぐ家に帰るぞ。そして、私以外とは面会できないように閉じ込めてやる! 私だけを見ろ私だけを見ろ私だけを見ろ私だけを見ろ私だけを見ろ私だけを見ろ私だけを見ろ私だけを見ろ私だけを見ろ私だけを、」

  「?」

  七星さんの胸攻撃で、正気を失いかけていたら凪咲からのグーパンチを腕に喰らう。

  なんか、今日も1日で凪咲のキャラが変わったように見えるんだけと気のせい?

  「つうか、ひっついてんじゃねーよ糞ビッチ七星。殴り飛ばすぞ! こいつは私だけの物だ! 産まれてきた時は別々だったが、死ぬ時は一緒だ! ああ、今から2人で死ねばいいのか・・・死ねば、お兄ちゃんは私の物になるよね? 私だけを見てくれるよね?」

  「びっち? なんですか? それ? って、凪咲、それはダメ!」

  凪咲は、七星さんをビッチ呼ばわりしたと同時に、どこから出したのかわからないカッターを手にもつ。

  標的は・・・俺のようだ。

  ・・・まじか

  「凪咲、流石にそれは雷羽が死ぬから!」

  「凪咲、涌田兄を殺すのはまだ早いぞ!」

  「隼颯さん、まだ早いってなんすか! しかも、凪咲だけ凪咲呼びだし! 普通、そこは涌田妹でしょ! って、うわ、凪咲、ほんとに危ないからぁ!」

  その日は、掃除どころじゃなくなって結局大騒ぎをしてしまった。

  客がいないはずの店なのに、賑やかで楽しくて。ちょっと怖かった。

  「お疲れ様でしたー」

  「でしたー」

  結局、9時までどんちゃん騒ぎをしてから真っ暗な道を凪咲とふたりで帰る。

  いつもは、隣を歩くだけなのに今日の凪咲は腕を組んでくる。

  我が妹ながら、整った顔立ちと柔らかそうな体とふんわり良い香りがする髪の毛。

  ほんと、典型的な美少女だ。

  「なんで俺がこの整った成分を譲り受けなかったかなぁ」

  軽く怒りを覚えていると凪咲がまた俺の腕にパンチをする。

  あの、さっきから思ってたんだけど右手ばっかり殴ってくるのやめてくれるかな? お兄ちゃんの腕は、再起不能だよ?

  凪咲が殴って、抱きついたままの右腕から力を抜いて、左手で凪咲の頭を撫でてやる。

  なんで右腕から力抜いたかって? 力抜かなきゃ凪咲が引っ張ってきて痛いからだよ。

  「やっぱり、クソ兄貴は私の。誰にも渡さない、私だけの物。ほかの女を見るのは許さない」

  「そのクソ兄貴って呼び方やめて?」

  「やだ」

  「嫌いになるy」

  「やめる」

  腕をきつく抱きしめて、凪咲が食い気味に答えてから、俺を心配そうに見上げる。

  なんだこいつ、可愛いな!

  「冗談。嫌いになんてならないよ」

  ハハッと笑うと、凪咲はバカといって、また右腕を殴る。

  だから、痛いからやめて・・・

  どうやら、俺の妹は、ブラコンでヤンデレ属性らしい。

  初めて、凪咲が怖いと感じて、愛おしいと感じた日だった。

  ちなみに、次の日、俺の右腕には大量のアザができた。それを知って、吾を失った凪咲に1日中部屋に監禁されたのは、また別の話だ。

  とにかく、俺の働く喫茶店は猫カフェになるそうです

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