重要課題
銀竜亭の名物はドワーフ料理。らしい。
豪快な火力と繊細な技術によって生み出される、料理の数々は冒険者以外からも好評で、食堂は連日賑わっている。
肉料理が人気だが、同じくらいに野菜料理の人気も高い。
野菜嫌いのお子様でも、ここの野菜炒めだけは率先して食べるとか。
そして、厳つい顔のドワーフのオヤジからは想像もできない、可愛らしい盛り付けのデザートも人気の一角を担っている。
そんな銀竜亭の料理の数々が俺の前に並べられている。
否。
並べられていた。
そのほとんどが目の前の少女に吸い込まれていった。
見た目は決して下品ではなく、むしろ優雅に食事をしているように見えるのだが、
テーブル一杯に広げられた料理の数々は恐ろしいスピードで消えていき……今、最後のデザートが彼女の口の中に消えた。
「すみませーん、野菜炒め追加で~」
「もう金がないから要りません!」
「ええ!?」
ミカがこの世の終わりのような顔でこちらを見る。
「つか、朝からドンだけ食うんだよ!」
「朝ごはんしっかり食べないと、体に悪いんですよ?」
「限度があるわ!」
これから旅費を稼ごうって時に、初期資金が朝食だけで吹っ飛んだ。
何を言ってるのかわからねーだろうが、俺も何をされたのか分からない。
「とりあえず、食費とか生活費は二人とも別管理な」
「ええ!?」
「朝食でこんだけ食う奴と同じ財布使えるか!」
しかし、これはマジに大きな問題かも知れない。
魔王国に行く旅費、どれだけ必要になるのだろうか?
主に食費。
神様、コイツを勇者にしたのって、もしかして食費節約の為だったりしませんか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
無一文になった俺たちは、とりあえずゴブリンの群れが目撃された地域までやってきた。
結構時間がかかった。
ミカも俺も、特に歩く速度が遅い訳ではないのだが、そこはやはり人の足。
「乗り物が必要ですね……馬とか」
「だよな」
移動に時間がかかってしょうがない。
それに、疲れる。
乗り物の購入は決定だ。
「ここまで来たのは良いけど、どうやってゴブリンを見つけるんですか?」
ミカが聞いてくる。
あてもなく探したり、向こうから襲撃してくれるのを待つのは得策ではない。
「探知魔法を使う」
ゴブリンとは一度遭遇している。
探知魔法は、遭遇したことのある魔物の気配を感じ取れる魔法だ。
早速、魔法を発動する。
ふむ、近くに気配多数。
「こっちだ」
ミカを気配の方に案内する。
暫く進むと、洞窟が見えてきた。
その前には多数のゴブリンがうろついている。
多分、洞窟が巣なのだろう。
見えている奴だけなら、俺一人でも何とかなるだろう。
「朝言った通り、ミカが戦ってくれ。どの程度戦えるのか、実力が知りたい」
「ふふふ、私の実力を見て、恐れおののくがいい!」
俺を恐れさせてどうする。
そう言う前に、ミカはゴブリン達に向かって走っていた。
ゴブリン達はまだこちらに気付いていない。
気付かれる前に、見張りは倒すべきだろう。
ミカがゴブリンの背後で剣を振りかぶる。
「エンジェルスラァァァッシュ!」
ミカの声が辺りに響き渡った。