デュラハンの憂鬱
「俺の名前は結城 昭光。貴女の名前を教えてください」
「アイリス・バル・シャリアープです。アイリスとお呼び下さい、ユーキ様」
「結城は姓です。昭光と呼んでください」
「はい。アキミツ様」
お前ら、名前も知らないのに求婚したんかい!
もう、どこから突っ込んで良いのか分からない情景に、うっかり頭を落としそうになる……が、何とか耐えた。
頭を落としたら結構痛い。
私はデュラハンの名家、グリーフォール家に生まれ、魔王様の娘たるアイリス様の側近として今日まで仕えてきた。
しかし、王国宰相マヌタ様の失踪を契機に王国の過激派がクーデターを起こした。
王国No2を欠いた状態では過激派の台頭を止められないと察した魔王様は、娘のアイリス様を城から逃がし、自身は反乱軍の迎撃のため城に残られた。
アイリス様は私も含む護衛隊に守られながら(非常に遺憾だが)人間の国に亡命しようとしていた。
だが追っ手にやられ、次々に護衛隊は戦死。人間の国まであと僅か。という所で残りの護衛は私一人となった。
満身創痍で逃げ続けた先に颯爽と現れた救世主。
それがユーキという男だった。
ああ、分かる。
美形だし、強いし、命助けてもらったし、惚れる要素満載なのは理解できる。
だからって、一言目が「結婚してください」はねーだろ!
しかもハモったし。
ああ呆然としている間にアイリス様、なんか自分の身分とか状況とか説明しちゃってるよ。いや、私もうっかり「姫様」とか呼んじゃったけどさ。隠そうよ。少しは。
あ、あちらも自分たちの事説明しだしたわ。
え? 何? ユーキは異世界から来た?
宰相は異世界に飛ばされた?
その原因が隣の小娘剣士で勇者!? 実は天使?
ミカエルって、あのミカエル!?
私と同じ様に状況に付いていけてない普通の人間に見えますけど?
いや、剣の腕はもの凄いのはさっき見たけど。
え? ナニコノヒトタチ怖い。
いや、出鱈目の大嘘言ってるアタマがカワイソーな人たち。ってのも怖いけど、本当の事言ってる方がもっと怖い。
だって、異世界て。天使て。勇者て。
天使で勇者って。
完全に魔族の敵じゃないですか。
存在自体が童話とか昔話のハナシだけどさ。
実在するとは思わなかったけどさ。
あー姫様、何でアッサリ受け入れてるんですか?
え、ちょっと、魅了とか催眠とかそういう状態異常にかかってませんか!?
は? ああ、そうですね。姫様の固有スキルは状態異常完全耐性でしたね。
魅了も催眠も効きませんよね。
でも貴女今、明らかにオカシイですよ?
……聞く耳無いすかそうですか。
え? ちょっと、人間。えーっと、名前なんだっけ? ユーナントカ。
お前今なんて言った?
オトーサマニアイサツニイク?
私の解釈が正しければ、それって魔王様に挨拶に行くてこと?
それって、城にもどる。って事だよ? バカなの? 今逃げてきたんだけど?
姫様、付いていっちゃダメ……ぇ、嫌なら私が残れ?
おい、ちょっと、そこのボサっとしてる小娘!
天使か勇者か知らないけど、ちょっと説得手伝え!
何? 前に「年上は女と認めない」とか言ってた?
ああ、人間よ。姫様はお前などより年上の60歳だぞ。
はぁ? 愛に年齢は関係ない? オイコラ天使。情報が違うぞ。
あれ? 姫様、何で私の頭持つんですか?
へ? まだ58歳……ですか? いや、そんな1、2年どうだって良いじゃ……
ちょ、私の頭はバレーボールじゃな……!
……姫様のスパイクで地面にめり込んだ頭を掘り起こした時には、城に戻ることが完全に決定していた。
どうしてこうなった?