馬車の旅
魔王国。
魔族や獣人達の国。
過去何度も人間側の国と戦争し、その領土は一進一退。
現在は停戦状態にあり、公式には国交は無い事になっているが、ヒトやモノの交流はそれなりにある。
この状況は、穏健派の魔王の政策によるものだろうが、その魔王に対して反乱を起こして政権を奪おうとしている輩が存在する。
まだ魔王国が人間側に攻撃をしてきたという話は無い。
魔王も結構頑張っているらしい。
が、過激派が国の実権を握るのも時間の問題。
というのだが、天使や神様のいう「時間の問題」というのはどの程度の猶予なのだろうか?
億年単位で生きている連中の時間の感覚なんて当てにならないのではないだろうか?
「昭光さん、お腹が空きました」
「さっき食べたばっかりだろ!?」
うん、まるっきり信用できない。
さて、タイムリミットがよく分からないのも問題だが、魔王国に行く仲間が見つからないのも問題だ。
街道沿いにある街の冒険者の宿で、魔族や獣人の冒険者を見つける事はできるのだが、魔王国に行ってくれるヒトが居ない。
まぁ、こっち側に居る連中はあちら側から飛び出して来た連中ばかりらしいので、わざわざ帰りたい奴も居ないのだろう。
ホームシックになってる奴とか居ないかなぁ……
「あれ……ナニ?」
ミカの言葉に彼女が指示した方向を見ると、何やら土煙が上がっている。
ここ数日で何度か見た光景だ。
馬車が何者かから逃げている。そういう土煙だ。
俺はその現場に馬車を走らせた。
別に勇者一行らしく、正義の味方を気取るつもりはない。
追われている方を助ければ、大なり小なり報酬が貰える。
悪くても、次の街での宿代くらいは払ってもらえる。
大飯食らいを抱えた旅では、金はいくらあっても足りないのだ。
疾走する馬車。
追うガーゴイル(仮)。
放たれる、火炎の魔法を見事に避ける手綱さばきは見事。
つか、よく見たらあの馬首が無ぇー!
ついでに御者も首なし騎士!
デュラハンて奴ですな。うん。
「どう考えても魔族絡みですね」
ミカの呟きに全面的に同意する。
ここは盛大に恩を売っておこう。
馬車の運転をミカに任せて、俺は魔法でガーゴイルの迎撃を開始した。
あー、しんど。
いや、ガーゴイルだけかと思ったら、なんかよく分からん空飛ぶトカゲとか猿とかまで追ってきてた。
個別では大して強くないけど、数が多いし、空飛んでるしで、かなりメンドクサかった。
戦ってる間に逃げるかもと思ったけど、デュラハンの人も一緒に戦ってくれた。
これはお礼が期待できるか……?
「ご助力、感謝します」
デュラハンさん、女かよ!
「いえいえ、どうやら、身分のある方の馬車のようですが、中の方は御無事でしょうか?」
これは、カン。
馬車がやたらと豪華な仕様だったので、貴族か商人が乗っているとみた。
「申し訳ございませんが、訳あって主の身分を明かすことができません。ここで見たことはお忘れになって……」
「何を言うのです、助けていただいて、失礼でしょう」
馬車の中から、少女と思われる声が響き、扉が開く。
「姫!? あまり姿を晒しては……!」
「恩人に礼も言わぬは末代までの恥です!」
そう言って、馬車から出てきた少女は俺たちの方に一歩足を進める。
伏せていた目を上げ、俺と目が合う。
「姫様?」「昭光さん?」
「「結婚してください」」
俺たちは、同時に求婚した。