依頼達成
「ふふふ、私の実力を見て、恐れおののくが……どうしたんですか?
イキナリ腕つかんで」
ああ、恐れおののいたさ。
大声で技名を叫んで、ゴブリンに気付かれ、巣の中のゴブリンが一気に襲いかかってきたのは、軽くトラウマものだわ。
まぁ、所詮はゴブリンなので、襲ってきた奴等は難なく倒せたのだが、半分以上に逃げられてしまった。
アレでは依頼失敗だろう。
「奇襲するんだから、技名とか叫ぶなよ」
「……? 当たり前じゃないですか」
うーわ、殴りてぇ……
だが、ここで騒げば元の木阿弥だ。
改めて、奇襲をかけるミカを見守る。
よしよし、今回はちゃんと奇襲になっている。
見張りのゴブリンが声を上げる前に全滅させた。
とりあえず、剣術の腕 だ け は良いようだ。
「さて、次は巣の中だな」
「何匹くらい居るんでしょうね?」
それは分からない。
数えるのも嫌になるくらい居るのは確かだが。
巣ごと爆破するのも手かもしれないが、それでは魔物コインが回収できない。
俺たちは金が必要なのだ。
「とりあえず、片っ端から駆逐するぞ!」
「はい!」
なんて、意気込んでみたが、結果的には楽勝だった。
予想以上にミカが強かった。
巣の中という限定空間とはいえ、剣の一振りで10匹くらいのゴブリンを倒していく。
流石に数が多いので、何匹か撃ち漏らしてはいたが、それは俺の魔法で各個撃破。
巣の最奥にはデカいゴブリン(ゴブリンキング?)が居たが、コイツも瞬殺。
巣のゴブリンを全滅させて、コインを回収。
銀竜亭に持ち帰ったら、結構な収入になった。
「まさか、こんなに大きな群れとは思わなかったわ」
女将さんも驚いていた。
ミカの戦力はかなり頼りになる。
戦 力 は
今回の収入の半分(ミカの取り分)が夕食として奴の腹の中に消えた。
燃費悪いってレベルじゃねーぞ!
「女将さーん、何かガッポリ儲かる依頼とかないですかね?」
「貴方たちに出せる依頼は無いわね」
ダメモトで聞いてみたけれども、やっぱり無いらしい。
正確にいえば、Aランクとかの高難度依頼の報酬は高いらしいのだけれども、失敗した場合、仲介した宿の信用問題にもなる。
なので、俺たちのような実績のない者にはそんな高ランク依頼は任せられない。
まぁ、分からなくもない。
「迷宮に挑戦できれば、稼げるのでしょうけどね……」
女将さんがポツリと言う。
「迷宮?」
どうやら、この世界にはインスタントダンジョンと呼ばれるものが現れるらしい。
正確な原理は解明されていないが、魔力の濃度が高い場所に迷宮が発生する。
ある日突然発生するから、即席迷宮。
その迷宮の奥には、核となる魔力結晶が存在し、高値で取引される。
街の周りでは魔力の濃度が高いのか、数日毎に迷宮が見つかる。
が、誰か1チームが迷宮に入った場合、そのチームが結晶を入手しても、迷宮で全滅しても、逃げ帰っても迷宮は消滅してしまう。
実力も無い半端な奴が迷宮に挑戦して、無駄に迷宮を消滅させる事も多いらしい。
なので、迷宮の発生頻度そのものは多いのに、魔法に関するあらゆる需要がある魔力結晶の値段は高い。
誰よりも早く迷宮を見つける「運」と、魔力結晶を持ち帰る「実力」を兼ね備えた者だけが富を得ることができるのだ。
「インスタントダンジョンか……」
部屋で呟く俺の目の前にはミカが居る。
「……何でここに居るんだ?」
この街にまだ数日滞在する予定なので、宿泊日数の延長をしている。
が、S部屋のままだ。
ミカは別に部屋を取るだろうと思っていたのだが……
「お金が無いので泊めてください」
………………
どうやら、宿泊費の分まで飲み食いしたらしい。
「良いけど、ベットは俺が使うからな」
「ええ!? こういう場合、女の子に譲るものでしょう!?
昭光さん、そんなんだからモテないんですよ?」
「俺は年上は女とは認めん! つーか、女の子(笑)て」
「非道! ひど過ぎますよ!」
いや、マジで後先考えずに食費に有り金全部突っ込むような奴に優しくする義理なんて無いし。
外に放り出さないだけマシだろう。
あー、この分だと明日の朝の朝食とかもタカられそうだ。
などと思いつつ、ちょっとした作戦を練っていた。