新たな門出
風と木々の心地いい音。上の世界にいたときなら、こんな些細なことに気づかなかっただろう。
龍は、寝ぼけ眼で辺りを見回し、昨日のことを思い出す。
龍(夜魅も何処かで生きてるんだ。俺も、生きないとな。)
寝床から起き上がり、木々の間から漏れる光を頼りに歩く。
龍(それにしても、昨日は、よくこんな森、歩いてたな; 日中なのにも関わらず暗い;)
森はうっそうと茂り、日の光を最小限に留めているようで薄気味悪く思い。
龍(って、俺は何を迷ってるんだ!この現実を変えるために反発したんだ。何とかしないとな。)
昨日は暗くってよく見えなかった森(朝でも薄暗い)だが、色々な生き物がいるらしい。
森の動物たちは自分が食べられるっていうのを解ってて出てきたりはしない。
龍(とりあえず、朝飯でも食うか。)
お腹の虫が鳴り、朝ごはんを食べることを決意するも・・・。
龍(芋虫・・・。)
昨夜の夜魅の言葉『芋虫は高たんぱくで栄養価も高い。お腹も膨れるし、ある程度なら動ける。』
龍(・・・食べるにはレベルが高すぎる;)
思い出しただけで、胸の奥がむかむかしてるのに、そんな状態で芋虫を食べる勇気など出ず。
龍(蜘蛛・・・。)
昨夜の夜魅の言葉『蜘蛛は脚を取って生で食べると甘い味がして美味しいわよ?』
龍(芋虫が食べられないのに蜘蛛が食べれるはずが無い;)
その辺に蠢いてる蜘蛛を触れもせず、龍は心が折れる。
龍(こんな暮らしをして生きてるのか?; 下の人間たちは;)
頭を抱え込みその場でしゃがみ込む。
龍(くそっ; どうすれば生き残れるんだ;)
ふと、頭の片隅にあることがよぎった。
『昨晩』
「向こう側に川がある。貴方が流れてきた川。魚は警戒心が少ないから捕まえやすいと思う。」
龍「あぁ・・・あの川;」
「食べ物に困ったときに行くといい。ただし・・・。」
『現在』
龍(思い出した!俺が流れてきた川には魚がいる!・・・けど、夜魅は他にも何か言ってたような?)
首を傾げて思い出そうとするも、回復したばかりで記憶があいまいな時で。
龍(何か大切なことを忘れてる気がずるけど・・・とにかく、食料調達だ!)
龍は、空腹のせいもあり、夜魅が言ってたことを気にすることなく、川のほうへと向かいだす。
龍「あった!」
川を見つけ、龍の心は踊りだす。
龍(昨日から何も食べてないから、4匹か5匹は捕りたいな。)
川をのぞき込むと元気に泳ぐ魚影が確認でき。
龍「本当に平和に生きてるんだな; 夜魅は魚を取らないのか?」
ふとそんな疑問が頭を過るも、その思考はすぐに遮断し、川の中に足を入れる。
龍「くぅー; 冷たいな。」
初夏も終わるという温かさなのに水の冷たさは体にしみ。
龍「よし!気合を入れて捕るか!」
そう言ったものの数時間後。
龍「くそっ!; 全然、取れない;」
龍は狩りのセンスがないのか、はたまた鈍いのか、警戒心の薄い魚ですら捕まえられずにいた。
龍(上の世界にいた頃は、作られてる物が出てきて当たり前だったから、捕るなんてどうすれば;)
龍は根本的な運動はこなしてきたが、狩りというものには縁がない人間であった。
龍(どうすれば;・・・!)
川を見つめてると何かの気配を感じ。
龍「・・・なんだ?」
目を凝らし、その方向を見ようとたとうとした時、森の奥から矢が放たれ、足元に刺さる。
龍「?!何だ!これ!;」
すると次々と、矢の雨が龍に向かって降り注いできた。
龍「くそっ!」(とりあえず、森の中に逃げるか!)
龍は身を翻し、矢の雨が降り続けるほうとは逆方向に走り出す。
龍「いったい、何だって言うんだ?;」
矢の雨は少し勢いは収まったが、龍のあとを執拗に追いかけてきており。
龍「このまま逃げてても意味がないな;」
龍はそう呟くと、足を止め、身を翻した。
龍「そこにいるのは誰だ!」
龍は思い切って矢の雨を降らせてる現況に言葉を投げかけた。
龍「・・・っ!」
そして、龍の目の前に現れたものとは?!