第六話 開眼
ナオによって振り下ろされた剣は、防御姿勢として構えた俺の腕を一刀両断した、ように見えた。
だが、実際、その剣が俺の落としていた視線に届くことはなく、逆に弾き飛ばされていた。
「「「「なっ…」」」」
その場に居た皆が声を出す。誰一人としてこの状況を理解していなかった。
斬られたはずの俺の腕を見ると、色づいてはいるが透明な何かがそこにあった。
「腕にバリアを張っただと?」
「しかし、バリア程度じゃあナオの剣を弾き飛ばすには足りなさすぎるぜ」
「じゃあ、一体あの力はどうやって…」
剣を吹き飛ばされていたナオは、怒りから我に返り、俺の腕部分をまじまじと見つめていた。
「剣を弾き飛ばすほどの、高出力エネルギーをまとった反射型バリアだとでも言うのか…?」
俺の腕に取りついているそれは、燃えるようして色づいているものが少しずつ散っていき、やがて消滅した。
「おおよそバリアでも張ろうとしたんだろう」
アークとミネさんが先程まで取っていた距離を詰め、話しかけてくる。
「あんまり雑に想像すると、今回みたいにならなくもないんだよ。実体化する以前に形があまりにも曖昧過ぎて、形にならない、みたいな?」
「それにしても、剣を弾くほどの出力があれにあるとは思えないのだがな…」
「そこだな」
「わたしはそんなに手を抜いたつもりはなかったぞ!」
「恐らくだな…」
何やら、力が使えた俺以外の三人で、専門用語の多い会話が開始されてしまった。使ったのは俺なのに、完全に蚊帳の外。
「まあ、使えない力ではないからな。これを攻撃と防御に転身できればさらに強くできるんじゃないか?」
「でも、あまりにも不安定すぎるんじゃあない?一回弾いただけで消える弱っちいのだったら意味なんてないぜよ?」
「だが、全身に張るんだったら最小限にする必要があるはずだ。そう考えると今の出力でも十分やっていけると考えるが」
「実戦でタイマンでやり合うことはそう多くないぜ。そうやって考えたら現時点での出力では蜂の巣にされて終わりだろうな」
「まあ、どうするにしてもいまのままじゃあだめなんでしょ?」
ナオがこちらに向くと、それに続いてアークとミネさんが続けてこちらに振り向く。
「え、えっと……」
無言の状態で、こちらを凝視する三人。あまりにも重すぎる。
「鍛えなきゃあとりあえず使えないってことね」
「「そうだな」」
「え、鍛える?」
「普通の奴らと同じことしてもこいつは多分意味ないな」
「同意」
「さんせー」
「え、だからちょっと…」
「よし、じゃあ直々に扱くか……」
こうして、俺、青神裕也はトップクラスのお三方に厳しく扱かれる地獄の歴史を刻むこととなる。
この時、俺は思いもしなかった。
こうして鍛え続け、何週間も過ぎていったということを。