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第三話 恩恵

違う星に来ているのだから、見たことのない植物たちを目撃していくのだろうと、俺は考えていた。だが、そんなことはなかった。

そこらに生えている木々も、草花も、どこか地球で俺が見たことのあるものと似通っている。

木々は深く、青々と生い茂り、空は木々の間から少し覗くようにみることができるような、とても豊かな自然。

そんな山に、山の遠くから見てもわかるくらいに、不自然なほど大きい穴があった。その穴は、誰がどう見ても、異常。

穴の周りまでは、びっしりと生えている木々。しかし、穴には、木々はもちろん、草花の一輪もない。

こんな場所に、力の恩恵を得ることのできる泉があるというのだから、色々な意味で恐ろしいとしか言いようがない。

「なあ、アークさんよ…」

「ん、どうした?」

「あんなに変な所にある泉?なんかに行って、何をするっていうんですか…」

「あそこの穴の底にある泉は、水源がないんだ」

え、そうしたら水なんてないじゃあないですか。もしかして、涸れた泉でも見に行くつもりなんですか?

「水源が内にも関わらず、尽きることのない水。そして、増えすぎることもなく、その水平線は常に一定に保たれている。ここは、神が宿る泉、として祀られているんだ」

「ほうほう…」

怪しいな…水源涸れてないかな、こういう時だけ…

「そこの水に手を触れることで、自らの中にある『I・N・F』の力の許容量を拡大することができる、と言われている」

「それで、これから行こうということですか」

「そうだ。騎士を目指す者どもは、必ず訪れるスポットなんだ」

「へぇー」

…どういう事情を聴こうと、怪しいとしか思わない。

しばらく会話しながら歩くと、先程遠くに見えた穴が目前となった。

「…底が、見えない…」

見下ろす限りの、漆黒。泉など、あるようには全く見えない…

「ここからは、自力で降りてこい」

「え、は?」

そういうと、アークは一人で飛び降りる。少しすると、アークは漆黒にのまれ、消えていった。

「う、嘘だろ…」

アークは、俺とは違い、力を使うことで落下の速度を制限することもできる。つまり、着地時の衝撃の恐れは全くない。

「死ねってのか、俺に!」

今の気分的には、アークをほっておいて逃げ出したかった。意味の分からない世界に来て、いきなり死と対面しなくちゃあいけないなんて、酷過ぎる。

だが、ここで逃げるのは、俺の性分に反する。

ここぞという時、どんな状況であろうとも勝負に出るのが俺の主義。

それ故に、ここから逃げ出して、なんてことは絶対にしたくない!

「やってやろうじゃねぇか、こんなところで、死んでたまるかぁぁ!!」

思い切って、穴の中にダイブした。

体の周りに、空気の抵抗をものすごく感じる。落下速度は、かなりの速さだった。

俺も、アークみたいに力が使えたら、もっと楽に降りられるだろうにな…

そんなことを考えていた。


それが、俺の初めての閃き。


俺は。

俺はまだ、その力とやらを今まで一度たりとも使おうとしていなかったじゃないか、と。

つまり、

「俺にも、使える…?」

頭から落ちる姿勢から、即座に足を下に向ける姿勢に変える。

アークやヨネが使った力は、イメージによる力。

先程までの話だけならば、それに何か特別な要因があるとは考えにくい。

想像する。

俺が、宙に浮くように、なめらかな速度で落ちていくように。


つぶっていた眼を、恐る恐る開く。

そこには、先程とは違う、まるでエレベーターに乗るような、滑らかなスピードで降りていく俺がいた。

そして、余裕ができたので、周囲を見回してみると、ちょうど同じようなスピードで降りていくアークが視界に入った。ついでに柄でもないが、思いっきり手を振ってみた。

そうやっている俺に気が付いたアークは、俺と初めてであった時と、同じ表情をしていた。

「まさか…その力は…」



―同刻、泉の穴入り口―

穴の周辺の茂みから、とある二人が姿を現す。

「あれが諜報部の噂になってた、異星からの来訪者、ですね」

男一人、女一人が、それぞれ穴の反対側に立っている。それぞれが、穴を見下ろすように。

「噂の魔神くんか…どうやら、さっそく力を使っているみたいだな」

「そのようっすね」

漆黒で見えないはずの距離も、この二人は見えていた。男の青の目と、女の赤の目は、わずかながら輝いている。

「それじゃあ、っと」

女の方が、狙撃銃を力で創りだすと、穴の漆黒の方向に向けて構える。

「なるべく早めに撃てよ、泉の恩恵の圏内に入られたらどうしようもないからな」

「わかってますって」

女は、ためらうことなく、その引き金に手を触れる。

「未来の危機を、今ここで絶つ、ってね」

その狙撃銃は、人のいない森にて、大きな銃声を立てることなく、静かに放たれた。




ー同刻、穴内部ー

その弾丸に、アークは気が付いた。

裕也に呆気にとられたのもつかの間、即座に裕也に迫る弾丸を、自らの出した剣で一刀両断した。

裕也は気付いていなかったため、アークが急に剣を出し、抜刀して俺の方に急速接近してきていたので、今度こそアークに殺されるかと思って、ビクビクした。

弾丸を真っ二つに一刀両断したことによる爆風で、やっと自分のすぐ後ろまで迫ってきていた脅威に気が付いた。

アークは、剣を鞘に収めたが、そのまま、消すことなく帯刀して、急ぎ下へと進んでいった。

「どうやら、追手が来たみたいだな」

「追手??」

「ああ」

アークは、悩むように自分の顎に触れる。

「こんなに早いタイミングで、ユウヤの情報を得た上で行動する奴らといえば…こうものたのたしてられんか!!」

再び、接近してきていたらしい弾丸を居合でアークが切り落とす。そうしてまた上がる爆風。

「何が起きてるっていうんすか!」

「その話をしている余裕はない!急いで、泉の恩恵の圏内に入るぞ!あそこは圏外からの攻撃を遮断できる!」

その恩恵とやらは、バリアでも張ってるって言うのですか…

ひとまず、その言葉を信じ、先程まで出していた力をおさめ、自由落下状態にし急いで下まで向かう。

突然、先程とは違い、比べ物にならないほど大きな銃声。それと同時にアークは俺の背後まで周り、三度弾丸を切り落としていく。

「お前、力使えるようになったんだな!」

「まあ、なんとなくは…」

「だったら!自分のことは自分で守りやがれ!」

急にアークは俺を見捨てたかのように、剣を消し、一気に降下していく。

「え、ちょっと!そんな武器の出し方なんてわからないって!!」

「なぁに、浮くことと原理はそう変わらんさ!」

「そんな、投げやりな!!」

武器の出し方など、到底理解できないことなので、とりあえず降り注がれる弾丸を俺なりに器用によけ、なんとかやり過ごす。

だが、いまだに穴の底が見える気配はなく、もうしばらくは恩恵とやらにたどり着くまでに時間がかかると考えられた。

「アーク!!」

「どうした、こんなときに!」

「あとどのくらいでその恩恵の圏内とやらの所にたどり着くんだ!?未だに穴の底が見えないじゃないか!」

アークは、また少し考え込む。

「この落下速度で進んでいるのであれば…もうそろそろか」

俺には聞こえないくらいの小声で何かつぶやいている。

「なんだ?何かあるのか?」

「もうすぐ着く。心配はいらない」

「そんな馬鹿な…」

言葉を続けようとしたが、その言葉は遮られた。

突如、俺をすり抜けた壁のようなものにより。


―穴入口近辺―

「おそらく圏内に入ったね。これはもう撃っても弾の無駄遣いだよ」

女はしゃがみ撃ちの姿勢を解き、銃をその手から消す。

男はため息をつきながら、その髪をくるくるといじる。

「当たらなかったか、お前の狙撃が。珍しいこともあるもんだな」

「いやー、それほどでもー」

「ほめてねぇ。むしろ最悪だ」

男は目を細める。

「あいつらに、俺たちという敵の存在を気づかせてしまった件。そして、あいつをここで仕留められなかった件がな…」

「前者ならまだわかりますけど、後者については理解できないっす。そんなに、あ

の魔人とやらはヤバいもんなのです??」

「まあな…これからその危険性が大いにあらわれることになるだろう」

男は、青く長い髪を翻し、

「帰るぞ、エリー。報告せねばならない、この事態を」

「え、奴らがまたここから上がってくるの待てばいいじゃないっすか。なんで帰るんすか?」

「それじゃあ、もう遅いんだよ」

「遅い…?」

「いいから、帰るぞ。もう遅いんだ。さっき仕留められなかった時点で」

女、エリーと呼ばれたそれは、ふてくされながらも男についていく。

「ちぇ、りょーかい…」


足音ひとつ立てることもなく、追撃者二人は静かに、その姿を消した。



―泉の恩恵圏内―

そこには。

巨大な泉が、絶えることなく高々噴射していた。

生物すら寄せ付けぬこの雰囲気の穴の底に、いるはずのない動物たちが駆け巡っている。

「な、なんなんだ、こいつは…」

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