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第二話 見知らぬ天井



夢を見ていた。

それも、遠い過去の記憶。


僕はまだまだ育ちざかりの中学生。

歳がかさむにつれて、体は少しずつ大きくなるものの、精神年齢が緩やかに降下を辿り始めるその頃ごろ、僕は十五歳だった。


当時の僕はまだ、今後の人生の最大目標であり、最大のライバルとなる大智君とは面識がなかった頃。


あの時の僕は……いや、今もだけれども。

自分で言うのも汗顔だが、普通の学生像とは少し逸脱していた。


昼間は学校をサボって、ゲーセンへ、夜中はバイクで走りだしていた。ちなみに盗んでないよ。

家に帰れば、酔った父の戯言に辟易し、何かあればすぐにでも口論になっていた。


そんな折、父がお気に入りの、近所のコンビニで売られている二百二十円のビール缶の三本目を開けようとしているとき、僕は思い立ったように苦言を呈した。


「おい……そこに置いてある空の缶、ちゃんと捨てておけよ」


僕は机の上に転がっている空き缶を指差した。


「あぁ?」


父は僕を睨みつける。なんてことはない、こんなこと、只の日常の一ページだ。

僕も負けじと睨み返す。


双方、睨み続けて五秒くらいたっただろうか。

父は、「ったく……」と嫌味たらしく息を吐き、重い腰をあげた。よし、今日は僕の勝ちだ。

そんなことを考えていると、そのまま父は机に転がる空き缶二つを片手に持ち、ふらふらと千鳥足でゴミ箱のある台所へと近づいていった。


そうして――


カランカランと音を立ててゴミ箱に投げ入れた。

そこで僕はあることに気付く。


僕の家にはゴミ箱が四種類ある。

『可燃』、『不燃』、『プラ』、『瓶・缶』である。


ちなみにこれらは、地球にやさしい男こと、川崎健人が自主的に行っていたことで、朝、ゴミ出しに行くと、近所のおばちゃんたちの井戸端会議で毎回褒められたものだ。


けれども、父はそんなこと気にも留めなかった。

僕は父がゴミ箱へと放った空き缶を、手が汚れるのも気にせずに取り出した。

そうして、改めて父へと向かい合う。


「あのなぁ、さっきあんたがこの空き缶を入れたゴミ箱はなぁ――」







「プラスティィィィィク!!」


突如として意識が覚醒する。

全身に嫌な汗が吹き返していて、何か悪い夢でも見ていたかのようだった。


僕はキョロキョロとあたりを見まわすと、もう一度、起き上がる前に横になっていたと思われる、ごわごわとしたベットに横たわる。


「――知らない、天井だ……」





僕は今なにをしているのだろうか。


というか、僕は誰だろうか。


……僕の名前は川崎健人。現在高校二年生にして、現役中二病患者。

友達はいない。無論、彼女もいない。

将来への見通しゼロの、邪気眼系童貞種だ。

オッケー、大丈夫。いや、いろいろと大丈夫じゃないけれど。


なぜだろうか、頭が痛い。

それに、ここ最近の記憶が不安定だ。


えっと、えっと……


だめだ、思い出せん。

確か、食パンを咥えて家を出たら、すぐ通りの曲がり角で謎の美少女と衝突するも、その時は遅刻ギリギリで、軽く謝罪の言葉をかざした後に学校へ行ったら、今朝自分と衝突した美少女が転校生として担任の三沢先生(年齢二十八歳、独身女性)に紹介され、「あっ、今朝の女の子!」となり、恋の予感を感じる所までは覚えているのだが……


ふむ、もしかしてそれも夢なのか……? うん、夢だな。


と、それにしても……


僕はグルグルと視界を動かした。

ここはどこだろうか?


自分が今いる場所は、木彫りの土台の上に、申し訳なさげに布が一枚、かぶさっているだけの簡易式ベッド。

四方の壁や床、天井なども、すべて塗装のされていない木材からできており、素材の味を活かした木造建築のようだ。


すると、僕はあるものを発見した。


僕の前方一メートルくらいの距離に位置している、開けっ放しのドア。

自動ドアとか、そんな近代的なものではなく、というか扉が立て付けておらず、どちらかというとドアではなく、通路口のようなものだ。


そんな通路口から、ひょっこりとのぞかせられている、大きな一つの物体。

物体の、こちらから見て右半分は壁で死角となっていて見えないが、左半分は露わになっている。


上の方から下へと向けて、見事なボン、キュッ、ボンとなっていて、どこかやわらかそうな印象をうける。


というか、人間だった。人間の女の子だ。それもとびっきりの美人さん。


それで隠れているつもりなのだろうか。

僕はもう一度、まじまじと彼女を見つめてみる。


とてもやわらかそうなピンク色の唇に、艶麗でパッチリとした大きな瞳。腰の位置まですっと伸びた髪は鮮やかで透き通った栗色。


身長は僕と同じくらいの百六十くらいだろうか。

身につけている服は豪華絢爛といったものには程遠く、質素といっても差し支えはないような茶色の布の服だが、着こなしている本源がいいからだろうか、奥深さがあって、秀美に見える。


それに、なんといっても……


プルン。


プルンである。


彼女の首より数センチ下。

服の上からではあるものの、確かに観測できる、プルン。


おっぱいだ。まごうことなき、おっぱいだ。


でかい。彼女が着ている服の胸の部分は、大きく、しわができそうになるほど、隆起していた。


オオ、奥穂高岳……

ジュテーム。


と、僕が眼前にいる彼女のことを両目を大にして括目していると、目が合った。

大きい、吸い込まれそうになる瞳だ。


すると、彼女はそんな僕の不穏な空気を察してか、そそくさに、通路口を離れ、どこかへ行ってしまった。

あ、待って! 名前もまだ聞いていないのに!


何故だか避けられたのように感じ、頭を垂れていると、今度は入れ違いに恰幅のいい髭もじゃのおじさんが入ってくる。


「あぁ、目を覚まされましたか!」


髭もじゃのおじさんは、髭で隠れた口元を動かし、そう言った。


あたりを見まわす。

やっぱりこの部屋には僕しかいない。

すると、さっきの言葉は僕に向けて言ったのか。


「私の名前はエレック。この村の村長を務めております。いやぁ、それにしても、心配しましたぞ! なにせ三日三晩寝ていたのですから!」

「……三日……」


僕は髭もじゃのおじさん、エレックの言葉に体を震わした。


三日――


彼の言うことを信じるならば、僕はここで三日も寝ていたのか。

三日も起きずに、寝たまま。

すると、三日も何も食ってなかったのか。

そう考えると、急にお腹が空いてきた。

グー、と腹の音が鳴る。


「どうやら、腹が減っているようですな……では話は食事をしながらに致しましょう! こらっ、エレナ! そんな所に隠れてないで、このお方に食事を用意してきなさい!」


僕は再び、視線をあげる。

通路口のところには、また戻ってきたのか、さっきのグラマラスレディーがいた。


よかった。別に避けられているわけではないようだ……


エレナと呼ばれたその女の子は、エレックの言葉に反応し、またどこかへと言ってしまった。


「申し訳ございません……根は優しいいい子なのですが……何分、人見知りでして……」


エレックは困ったように首を傾げ、寂声を出した。


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