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三章 預かり屋こよりさん(4) ~美琴少年~

遠い昔、私の子孫である龍蛇一族はこの世界で唯一長い繁栄を誇っていた一族でした。


龍蛇一族はウェスタという種族のドラゴンと一緒に何百年も暮らしていたんです。


龍蛇一族にはある慣習がありました。

それは15歳を迎えた男子全員が行う儀式です。



親からドラゴンの卵を授かり、その卵から産まれたドラゴンと生涯を生きるという誓いを立てるのです。


それは大人になった証拠であり、一族が誇る名誉でもありました。




しかし、一族の繁栄は永遠には続かず、次第に衰退していきます。


時代が変わるにつれて、龍蛇一族は人ではない、災厄をもたらす悪魔の一族として差別され、戦争などで標敵にされていきました。


そうして一族の9割が世界から消え失せ、残された龍蛇一族はその性を隠し各地に散らばっていきました。







---------------------これは私が15になったある朝の話です。



気分が悪い。


そう、今日が俺の15の誕生日だからだ。



「よう、悪魔!」

「逃げろ、悪魔が来るぜ!ハハハ!」

「ドラゴンなんているわけねぇだろ。」

「なに?ドラゴンの卵??巨大ネズミの間違いだろ。ギャハハハ。」



くそっ。

思い出したくもない記憶が頭の中をぐちゃぐちゃにするみたいに動き回る。


気持ちが悪い。




トントン。

「みこと、おはよう。そして15歳おめでとう。ついにこの日がきた訳だが、もちろん決心はついてるよな?」

ドア越しに父の声が聞こえる。



「ああ。」


俺は息を整えてから返事をした。


それを聞くと、父の足音が部屋から遠ざかっていった。



本当は決心など出来ていない。

ドラゴンなど考えるだけで、吐き気がする。


俺は龍蛇という苗字のおかげで散々いじめを受けてきた。


だからしだいにこの一族を恨み、ドラゴンを嫌悪するようになった。


ドラゴンなんて、ドラゴンなんて。



しかし、親には本音を言っていない。

親はこの一族に生まれたことを誇りに思っているからだ。

その誇りを汚したくはなかった。


だが、同時にその誇りを俺にも押し付けて欲しくなかった。



何度家出をしようと思ったか。

しかし、頼る当てもなく、家出などする勇気はなかった。




だけどそれも今日までの話。




そう、



今日俺は家を出て、1人で生きていく。






これは1年前から計画していたことだ。


微々たるものではあるが、隠れて小銭を稼ぎ、貯金もある。

さらに、龍蛇一族のことを知らない地域を調べ、マッピンクも、していた。


最低限の物をつめた、リュックも用意してある。



計画実行は今日の日没である。



儀式は夜行われる。つまりそれまで時間はあるわけだ。


幸い、うちは父と俺の二人暮らし。

それに街から少し離れた場所に建っている家である。お隣さんもいない。

気付かれずに家を出るのは容易だろう。





俺はいつものように学校へ行く振りをして家をでた。


そして家を出て少し歩いたところにある森に姿を潜める。

背の高い木に登り、自分の家を見張るためだ。



約1時間後、父が仕事のため家を出ていく姿を確認する。



念には念を、更に1時間木の上で待った。



そうして時間を確認し、警戒しつつ家に戻った。

家に戻ると、素早く荷物を取り替え、街の子が着るようなカジュアルな服を着て、帽子を深く被ると逃げるように家を出た。



順調にことが運ぶ。


俺は解放された鳥のような気持ちだった。



夜、父は俺が残した手紙を読むことになるだろう。


そして父なら、俺の言い分を理解し、見逃してくれるであろう。


そんな父の性格を利用するような計画に罪悪感がないわけではない。

しかし、父に俺を探す手間をかけるよりは遥かにマシだと思う。



「さよなら父さん。ありがとう。」

遠くから自分の家を見つめながら言った。










俺が父からの手紙を読んだのはそれから三年後だった。

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