二章 紹介屋こよりさん(3)
「マシュー私はローランだ。ここには君と同じような境遇の子もいる。ここならば、悩みを共有できるかもしれない。寂しさも拭えるかもしれない。どうかな?私たちと少し一緒に住んでみないか。」
さっきの良い匂いのするおじさんがマシューに声をかける。
「決めるのはマシュー自身だよ。私達と一緒に帰っても良いし、もちろんここに残るのもありだ。」
こよりはマシューの頭を撫でる。
「こより!」
その光景をみたキティが何やら物欲しそうにこよりの目をみる。
「はいはい。」
そう言ってこよりはキティも撫でてやる。
「もー撫でてなんて言ってないじゃんー。」
そんなことを言いながらキティは嬉しそうだ。
「す、すこしだけなら、ここにいてみたいかも…。」
マシューが泣きつかれた顔でローランに言った。
「よし、大歓迎だぞ。その後のことはここで過ごしてみてじっくり考えると良い。ひとまず、よろしくマシュー。」
ローランはハッハッハと笑う。
「ということで、何でも屋のこよりさん。マシューはしばらく家においておくよ。」
「はい、ローランさん。よろしくお願いします。」
「またいつでも来てくれ!力になれるならなりたいからな。」
「ありがとうございます。」
こよりは笑顔で答えた。
「さ、帰ろ。キティ。」
「そうね!」
こよりは会釈をし、研究室をあとにした。
門のところまで来ると、ローランが後ろからお見送りにきた。
また会釈をする。
「こ…より姉?」
「え。」
門を出る前にこよりは中庭にいる1人の少年と目があった。
「こより姉さんだよね。」
その少年は少し遠慮がちに聞く。
「リク?…まさかこんなところに。」
「ねぇ、こより?あの人は?」
キティがこよりの顔を覗く。
「へへ、何年ぶりかな。俺もう16だよ。」
「リク、背大きくなってる。」
「当たり前だろ。」
「“何でも屋”つくったんだよ。」
「うん、噂で聞いてた。」
「一緒にくる?」
こよりがそう言うとリクは少し考える素振りを見せる。
「いや、俺にはここがあるから。ここで働くつもりだし。」
「そっか。」
「けどっ!何か縁があれば行くこともあるかも。」
「わかった。」
ーーーーーーーー辺りは少し暗くなっていた。木に囲まれた小道を抜けると、歓楽街の光が見える。
キティがあまりにもねだるため、少しだけ歓楽街に寄っていくことにした。
「こより、さっきの彼は誰なの?」
キティはこよりに急かすように聞く。
「そうだな~最初のお客さんみたいなもの。」
「あの人を助けたの?」
「そう。助けたし、私も助けられた。」
「へー。こよりあの人のこと好き?」
「え、んー好きだよ。リクもユーリもキティもね!」
こよりは笑顔で言う。
はぁ~とキティが呆れ顔をする。
「そういうことじゃないよー。」
「なに?どういうこと?」
「んー何でもない!ほら、早く街に行きましょ。木は見飽きちゃった。」
「田舎だもんね~うちのまわりも。」
話しているうちに2人は歓楽街の入り口まで来ていた。
「わ~!お洋服!お洋服見ましょ。こよりもいつもそんな格好じゃだめ。」
キティはそう言って、こよりの全身をみまわす。
「そうかなぁ。」
こよりも自分の服を確かめる。
確かにオシャレに気を使ってそうな服装ではない。
ジーパンにラフなTシャツ、、、とにかく動ければいい。そんな格好である。
まぁ背が高めなこよりは何を着ても似合うのだが。
「ほらほら!きて。」
キティはこよりの手をつかみ、はしゃいでお店をさがす。
それからいくつかお店をまわり、キティは白のワンピースやら、フリフリのスカートやら、ピンクのカーディガンやら…いかにもお嬢様のような服を集めてきた。
その度にこよりは「戻してきて。」と一言。
しかし結局キティがどーしてもと言うのでキティ用の白いワンピースを買ってあげた。こよりはキティが持ってきた中で唯一気に入った、くすんだ黄色のニット帽を買った。
満足そうな顔のキティ。
こよりはキティに手を差し出した。
「さ、帰ろっか。」
といつもの笑顔と一緒に。