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マシューの過去【外伝】

空を飛び交う飛行機。

ただの飛行機ではない、戦闘機だ。


やむことのない機関銃や戦車の走行音。


俺達一般市民はただ日々怯え、逃げ続けることしかできない。



今日も避難勧告がでた。


俺達の国はどうも苦戦を強いられているようだ。


俺達には何もできない。戦争が終わることを祈ることしか。



俺には2人の大切な家族がいる。



妻のカイネと息子のマシューだ。


俺は2人を幸せにしなくちゃならない、そして2人を守らなきゃならない。

こんな時世のなか仕事も不安定だが、俺は俺の人生を2人にささげると誓っている。


幸い、最近収入がいい職につくことが出来た。




「ねぇ、私たちはとっても助かるけど、最近のあなたの収入額すこしおかしくない?そろそろお仕事について教えてよ。」


朝、カイネが尋ねてきた。


「出世したんだよ。俺は仕事にみあった報酬をもらってるだけだ、気にするな。」


そう言ってもカイネの顔は晴れない。


「ママ、なにかあったの?」


息子のマシューが起きてきた。


「大丈夫よ、マシュー。何でもないから。さぁ朝ごはん食べましょう。」

カイネはそう言うとマシューを椅子まで誘導する。


「じゃあ、行ってくる。」


俺は半場逃げ出すかのように家をでた。


まだ空気が冷たく感じられる時間。

俺の出勤時間。


車に乗り、家から1時間はかかる仕事場へと向かう。


車の中も寒い。息は白くなった。

車の後ろにあるボストンバッグを確認してから冷たいハンドルを握りしめ、ゆっくりアクセルを踏んだ。




俺の職業は特殊工作員だ。


こんなことをカイネに言ったらきっと動揺するだろう。そして、辞めさせようとするだろう。


しかし、辞めるわけにはいかない。

マシューもまだ小さい、1人で生きていくのはむりだ。俺にもしものことがあったとき、貯金がゼロじゃ話にならない。

だから給与のいいこの職が必要なんだ。


もちろんリスクだらけの職。いのちの補償などない。

この職は一般人でも訓練をすればすぐに使うことのできる兵器を戦場で使用することである。

しかし、この兵器は人と一心同体なのである。

何を隠そうこの兵器は人の体の中に取り付けることで威力を発揮する。


この国独自の技術で極秘に発明された、最終兵器にして最強最悪な兵器なのである。


この工作員に志願した以上、俺は逃げることは許されない。



だからこの職の志願者には家族を含め、一生分の保険金が国から振り込まれる。

たとえ俺が死んだとしても。



車を走らせること40分。

辺りは家も建物もなく、更地が広がっている。

人はほとんどいないだろう。


しばらくすると大きな建物が現れる。

周りを長い壁で囲まれている。まるで収容所だ。

そんな殺伐とした建物こそ俺の仕事場である。


車をいつものところに停め、早々と建物の門へいく。

門へ近づくとセンサーが反応し、2秒ほど俺の全身にレーザーが当てられたかと思うと、目の前の門が開いた。



建物のなかに入ると俺は迷わず、いつもの場所へ向かう。


“検診はこちら”とかかれた札を一目し、おおきな扉から広場にでる。


20人くらいの男が順にならび、本日の検診をうけていた。


検診は1日2回ある。

健康診断も兼ねているが、おもに体に仕込まれた兵器の状態を確認するために行われる。

それほど、繊細なものだと言うことだ。



検診を受けるため、俺は検診台に顎をおき、大きく口を開く。

兵器は歯に取り付けられているためである。

目にはみえるが、とても小さく柔らかいため、日常生活に支障はない。


なぜ、歯に取り付けられているかというと、この兵器が人の骨と連動して作用するからである。

そして、いつでも取り外すことが可能なところにつける必要があるからだ。


取り外す必要があるというのは、工作員がもしミッション半ばで死ぬようなことがあっても、他の工作員が兵器を取り外し、自分に取り付けることでミッションを続行することができるからだ。


しかし、取り外しにはリスクがある。

取り外された兵器は1分以内に他の人に取り付けないと大爆発をする仕組みなのである。その威力は直径20㎞とされている。

これは工作員が自ら逃げることを阻止するためだ。



この日はすでに俺に言い渡されてあるミッションの再々再々説明と、精神訓練、シミュレーション訓練を行った。




俺の寿命ももうじきということだ。





俺はもう逃げ出せない。


戦争が嫌いなのに、自ら人間兵器になるなんておかしな話だよな。














ーーーーーー爆発音が近くで響く。


いつもより早い時間。


空気は冷えきっていた。


ここは敵前線拠点の近くである。


今から俺の最初で最後のミッションが開始される。

俺を含め6人のチームは慎重に敵地を進む。



敵に発見された時点でミッションは失敗となる。


本日のミッションは、敵前線拠点の破壊ではない。


それを囮とした、敵総指令本部の壊滅である。




チームの空気は重いが、誰も何も言わない、それぞれに守るものがあるから。


「みろ!合図だ!」

リーダーが指差すその先にはまだ薄暗い朝方の空に閃光弾が上がっていた。


俺達は走り出す。


それとほぼ同時に、敵前線への味方の攻撃が始まった。


敵前線は騒然とし、サイレンが鳴り響く。

俺達はその音に紛れ、草原を駆け抜ける。


しばらく走ると川が見えてきた。

この川から一気に北上し、北の奥に構える敵総本部をたたく。


ここで俺達は2、4に別れた。

前線を攻撃する囮部隊と、本部を目指す部隊である。

俺は不幸なことに戦力の集中している前線への攻撃部隊へ割り振られていた。


少し死期が早まっただけだが。


「前線への作戦はここからお前に委ねる。頼むぞ。お互いの守るべきもののために。」

リーダーはそう言って俺の肩をたたいた。


「はい!そちらは頼みました!」



俺ともう一人の前線攻撃組は小さめのクルーザーに乗り込んだ。


リーダー達も別のクルーザーに乗り込む。



そこで別れた。








ーーーーーー空気はさらに冷たくはりつめる。


俺達は再び合図待ちの状態だ。


ここまで作戦は順調に進んでいるように思える。



俺達は今変装し敵地まっただなかに潜んでいた。




味方前線から閃光弾が上がった。


作戦続行は赤

続行不能は青













色は青だった。





作戦失敗…続行不能??


いったい何が起きたのか。

俺達はまだ生きている。


まさか、リーダー達が…!



“本部より通達。本部付近にて、敵スパイを発見!危険だと思われたため全員その場で射殺。まだスパイが潜んでる可能性がある。各拠点ごとにスパイ捜索作戦を実行せよ。”

アナウンスが敵前線に鳴り響いた。



スパイ捜索作戦?!

そんな作戦あんのかよ。

どういうことだ!


とにかくここから逃げ出さねばならない。


「うわぁ!や、やめてくれ!!俺は違っ…!!!」


!!!!


不気味な銃声音が響く。

どうやら、スパイの洗い出しがランダムに行われているらしい。

敵兵はそれぞれ腕についているリングを触っては確認し、握りしめたりをしきりに行っていた。


全員がはめていることから、どうやらあのリングが敵味方の判別装置らしい。


さっき射殺された男は、どこかで落としたのだろうか…。


しかし、状況が最悪なのには変わりはない。

俺ともう一人もリングのない腕をしきりに触り、その場と同化することに勤めた。


いくらなんでも全員分のリング確認するわけがない。そう思い込むようにして、敵地を歩く。



「そこの2人、こい!」



一瞬にして血の気が引いた。



「おい!聞こえているのか!!」



後ろから怒鳴り声が聞こえる。





俺は首を3回縦にふった。


もう一人はサインに気づく。その瞬間後を振り向き、戦闘体制にはいった。


「くそ!!撃て!!」


敵兵が俺達に発砲する…


が、銃弾が2人に届く前に、2人の身体は破裂した。



破裂した肉片が周囲に飛び散る。



そして拡散弾のようにそれぞれの肉片がとてつもない音をともなって爆発する。


「おい!肉片に触れるな!!」


敵に付着した肉片が爆発し、またその爆発によって破裂した敵の体も連鎖するように爆発した。


阿鼻叫喚。



敵地は一瞬にして地獄に変わった。

















ーーーーーーーーーパパ、ママ。


僕は今朝ママに車に乗せられ、大きな船のある川につれてかれた。


船には沢山の子供がのっていた。


泣き叫ぶ子、隅っこに縮こまる子。


どこに行くんだろう。











パパが死んだと手紙を貰ったのはそれから2年後のことだった。

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