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二章 紹介屋こよりさん(2)

あら道を進んでいくと、歓楽街の眩しい光や愉快な音楽は聞こえなくなった。


周りは細い木に囲まれた林である。


ときおり聴こえてくるのは、鳥のさえずりや山犬の遠吠え。

背の高い木々がまわりを囲んでいるために、日の光りは途切れ途切れに差し込んでいるだけだった。


少し遠目に大きな遊具のある庭とこれまた大きな1こ建ての屋敷が見える。



「あそこだよ。研究室。」

こよりはその屋敷を指差してマシューに伝える。


「なんか療養所みたいな場所ですね。」

マシューはボーと遠目の風景を見つめた。



近づいていくと子供の笑い声が聞こえてきた。


庭は柵で囲まれており、その真ん中にある門は開いていた。


門の前にはスーツ姿の若い男性が1人。


「お待ちしておりました。」

その若い男性はこより達を見ると丁寧に挨拶をした。


こよりも会釈をする。

マシューはこよりの後に隠れるようにして中を覗いていた。


「マシューさん。うちにはとくに決まりなど無いので、自由に中を見ていってください。」


3人はゆっくりと門の中に入る。

庭の中は少し不思議な光景が広がっていた。


子供たちは各人が勝手に好きなことをして遊んでいるのだ。集団で遊んでいる光景などない。皆が皆やりたいことをして楽しんでいる。

子供達の年齢は5~13くらいと様々な歳の子がいた。


2人で遊んでいる子もいるが、1人で遊んでいる子のほうが多いようにみえる。



「この子らのほとんどは孤児なんです。」

先ほど迎えてくれた若い男が後ろから説明する。



「孤児…。」




「…り!」




「こより!目眩でもしたの?早く研究所の中を見に行きましょ。」

こよりはハッとする。キティの声に気付くまで、意識が別の場所にいっているかのような表情をしていた。


「こより、大丈夫?」


「あ、大丈夫だよ。ちょっとした貧血、きっと今朝何も食べていないせいだな。」

そう言うとキティの頭をポンポンと触れる。


「さ、行こ。」

こよりはキティとマシューの手を引いて、大きな屋敷の玄関に向かった。

キティは?マークを浮かべながらも付いていった。



屋敷の玄関前の柱には縦書きで大きく“おひとりさま研究所”とかかれていた。


中に入ると学校のような匂いがする。


目の前にはきれに清掃された長い廊下、左手には“研究室←→集会所”とかかれた案内板。


こよりは迷わず、左に曲がり廊下を歩く。

その廊下から碁盤の目のように細くのびる各廊下の先にはここに住んでると思われる人たちの部屋が無数にあった。


少しあるくと研究室の前につく。

研究室の扉は他の部屋より高級そうな素材でできていた。


コンコン。


「失礼します。」

中にはいると若い男性が4人ほど。

こよりはお決まりの笑顔で挨拶する。


「あ、もしかして何でも屋のこよりさん?!」


妙に高い声で自己紹介よりさきに切り出してきたのは、4人の若者の中でも一番背の低い男。年は15くらい、目はおっとりしている。


「あなた、男だよね?」

こよりがそう聞くのも無理はない。栗色のサラサラ髪、華奢な体つき、可愛らしい顔立ち。


「正真正銘男じゃないか!ね!それよりサインほしい。」

変に堂々と男を主張すると、いきなり色紙のようなものをこよりに渡す。


こよりが各地にいくとこうしてサインを求められることが珍しくない。


しかしこの少年の目は各地のどんな人よりも輝いていた。



サインをかきおえると、笑顔で少年に色紙を手渡す。


「あの子もここで育ったんだよ。」

いきなり後ろから低めの声。



「わぁ!ちょっとあなた、いきなり現れたらびっくりしない。」

キティは驚いてこよりの後に隠れるとその声の主に威嚇する。


「おうおう、ごめんね。お嬢さん。さてこよりさん、マシューさんゆっくりウチの研究所を見ていってください。あ、お気付きかも知れませんがウチの研究所は男だけで成り立っています。」


「あ!だからこんなに男臭いのね!」

キティはわざとらしく鼻をつまんで嫌なかおをする。


「はっはっは。それは申し訳ないですな、おじさんも最近臭いを気にしてはいるのですが。」


そんなことを言うわりにおじさんはいい匂いがした…笑


「あー臭い臭い!ねぇ、こより。…こより?」


こよりはまたどこか別の風景を見ているかのような目をしていた。

「あ、うん。なに?」

ハッとなってキティに返事を返す。


「大丈夫?変、こより。」



そんなやり取りをしている間、マシューは他の研究員に捕まって、色々話をしていた。


「マシュー、1人の良さ、1人の楽しさってわかる?」

研究員の1人がマシューに尋ねる。


「…いや。」


「1人の良さがわかる瞬間。それは1人じゃない時間が多ければ多いほど感じやすい。何が言いたいかわかるかい?」


「うーん。」

マシューは難しいかおをする。


「難しく考えなくていい。つまりここで友達を沢山作るってことだ。ここは共同生活だから他人と嫌でも話さなきゃいけない。だからこそ友達も出来やすい。かといってここにいるものは1人の時間が必要な人達、だから1人の時間を有意義に楽しく使うことが出来るんだ。」


「うん…。」

マシューはまだ自信のない顔をしていた。


「いいかいマシュー。友達を作るにはまず自分のことを沢山話すんだ。嫌だったこと、辛いこと、嬉しいこと、楽しいこと…。そうやって他人に自分を知ってもらうことが親しくなれる近道だから。」


先程こよりにサインをお願いしていたおっとり目の少年がマシューの横にいく。


「僕も最初は他人が怖かった。だれも信用できなかったから。僕が育った国は戦争が耐えなかったんだ。僕が生まれてすぐママが死んだ。そのあとママの姉の叔母さんが引き取ってくれたんだけど、僕は叔母さんに虐められてね。だから6歳のころに家出した。食べるものもなくて、脱水症状で倒れてたところをここの人に助けてもらったんだ。」




マシューの目からポロポロと大粒の涙が流れ落ちていた。



「マシュー?」



しばらくしてマシューは顔をあげる。


「僕も、戦争で親と離ればなれになったんだ。避難するために戦争のない国に1人で行くことになった。異国人だった僕はそこの学校でいじめられた。だけど…だけど話せる人もいなくて…」


マシューはまた泣き始めた。

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